山口組二次団体元幹部の異色作家・沖田臥竜氏「芥川賞をとりたい」

沖田臥竜氏(東スポWeb)

【直撃!エモPeople】山口組二次団体の元幹部、異色の経歴の作家の野望が次々と実現している。最新小説「ムショぼけ」が同名でドラマ化され、今月から放送がスタートした沖田臥竜氏(45)は原作者ながら、出身地・兵庫県尼崎にこだわり、ロケハンから役者の送迎までこなしたという。通算12年の服役中に小説を書き始めて20年。その半生とこれからを語った。

沖田氏の自伝的体験をベースにした最新小説が原作となったドラマでは、長期服役し、社会と隔離された主人公の元ヤクザ(北村有起哉)が出所後、世の中の環境の変化やスピードについていけず“ムショぼけ”状態になった姿がコメディータッチで描かれる。

小説の舞台もドラマのロケ地も沖田氏の地元・尼崎。企画・プロデュースは沖田氏が監修をした映画「ヤクザと家族 THE Family」(2021年)でタッグを組んだ藤井道人監督だ。原作を依頼された沖田氏は、自らキャスティングからロケハン、予算配分、さらに出演者の送迎車のドライバーもやったという。

「尼崎ロケにこだわったのは自分。東京だったら50人の宿泊費×1か月はいらないから安くできただろうけど、(尼崎出身の)ダウンタウンでもやってないことをやりたかった。自分がロケハン、送迎してたのも経費削減の一つだった(笑い)」

「先生」と呼ばれる立場の原作者が送迎ドライバーをしたことで出演者とは接点もできた。主演の北村には関西弁をアドバイスし、主人公にしか見えない妄想の刑務官役を演じた板尾創路とは車内で映画作りの話になった。「板尾さんは映画監督もされているから『先生はどんな監督が好きですか』と聞かれて、こっちは作品でしか映画を見てなかったから『井筒和幸さん、北野武さんとかですかね』と答えたり。続編に向けて『こうやったらどうですか』と提言ももらいましたね」

ドラマでは“ムショぼけ”の典型例「黙想」が描かれる。刑務所では受刑者同士が廊下ですれ違う時、片方の刑務官が受刑者に壁を向いて瞑想するように命令する。作業中に受刑者同士がケンカになったら「他の者は黙想!」と命じる。

「刑務所では『待て』『休め』の時も強制的に習慣づけされるので、ラーメン屋で『ちょっと待ってて』と言われて壁に向かって黙想したり。だいたい“ロング”(懲役8年以上)をつとめると出所後、半年くらいはなおらない。他にも刑務所用語でティッシュのことをちり紙と言うのが抜けなかったり」

沖田氏は14年、所属していた山口組二次団体の組長の引退を機に自らも引退。18年の山口組分裂の際は本紙で「分裂騒動の今」を全18回にわたって連載した。

作家になろうと決意したのは刑務所の独居房にいた25歳のころ。

ラジオで流れてきた小説の朗読で浅田次郎の「鉄道員(ぽっぽや)」を聞いたのがきっかけだった。

「こんなにも人の心を動かせるものなのかと感動し、差し入れられた小説も読んだら衝撃だった。そこからは小説家になりたいという思いで、年間300冊超を読んだ年も。中卒で勉強ができんのは自分でわかってたので、読むだけでなく、写し書きも始めた。強迫観念のように続けてましたね」

そこから、ニュースサイトで記事を執筆するまで14年、最初の報酬は1本3000円だった。

「文章を買いて月収は5万円。長かったけどうれしかったですね。母親に伝えたら『それは使わんと置いときや』と」

経歴上、沖田氏は小説に自身を投影したヤクザを描くことが多いが、こだわりもある。

「ヤクザが暴排条例で生きづらいという重いテーマを重く描くのは誰でもできる。クスッと笑えて最後は泣かせたいという思いはあります。読む人が最後は“よかったな~”と思えるように、登場するキャラクターに完全なワルという設定は作らないようにしてます」

心血を注いだ小説、ドラマで、小説家を志したころからの映像化の夢が実現し、満足感があったというが、今後についてはキッパリ明言した。

「ゆくゆくは芥川賞をとりたい。作品だけでなく、生い立ちなども含め、人間がフィーチャーされる賞なので。そこまでいけば、元ヤクザとかの肩書がやっと消せるのかな」

異色作家の野望は続く。

☆おきた・がりょう 1976年生まれ。兵庫県尼崎市出身。六代目山口組二次団体の元最高幹部。2014年、所属組織の組長引退を機に引退。通算12年の服役中から小説を書き始め、15年、ニュースサイトで記事と小説の連載開始。著書に「死に体」「相剋 山口組分裂激動の365日」「忘れな草」「迷宮」など。映画「ヤクザと家族THE Family」監修。自伝的体験をベースにした最新小説「ムショぼけ」が同名で連続ドラマ化され、ABCテレビ、テレビ神奈川で放送中。

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