今季のF1は歴史に残る大接戦に ホンダ最終年での戴冠なるかにも注目

自動車のF1スペインGPで優勝し、表彰台でポーズをとるルイス・ハミルトン。左は2位のマックス・フェルスタッペン=モントメロ(ロイター=共同)

 10月25日、東京や大阪など5都府県にある飲食店に要請されていた営業時間の短縮などが解除された。地域によっては11カ月ぶりの解除になる。今後も感染への警戒は必要だろうが、日常生活に戻る第一歩をようやく踏み出した感じだ。そして政府や自治体ではワクチン接種証明かPCR検査で「陰性」の確認をした人を対象とした、イベントなどでの人数制限緩和を目指す実証実験の取り組みを進めている。

 モータースポーツの世界でも鈴鹿サーキット(三重県)とツインリンクもてぎ(栃木県)を運営するモビリティランドが、この取組に参加。鈴鹿サーキットで10月30、31両日開催の「全日本スーパーフォーミュラ選手権 第7戦」で、ツインリンクもてぎでは11月6、7両日に行う「スーパーGT 第7戦」でワクチン接種済証と検査の陰性証明を組み合わせる「ワクチン・検査パッケージ」チケットの追加販売を行う。

 こうした取り組みは導入するだけでは不十分。うまくいくためにはコンテンツ自体に観戦に訪れたいと思わせるほどの魅力があることが必須条件となるだろう。

 魅力的といえば、今季のF1。年間王者という最高の栄誉を掛けて、文字通り「手に汗握る」シーズンが展開されているのだ。

 第17戦米国グランプリ(GP)を終えて、舞台に残っているのは次の2人。メルセデスのルイス・ハミルトンとレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンだ。

 英国出身のハミルトンは36歳。いずれも史上最多となる通算ポールポジション数101回に通算100勝、通算7度の年間王者を獲得している、F1の歴史に名を残すドライバーといえる。

 一方のフェルスタッペンはオランダ出身の24歳。2015年の開幕戦オーストラリアGPで史上最年少となる17歳165日でのF1デビューを果たした若き俊英だ。通算18勝のうち、今季だけで既に8勝を挙げるなど今シーズン最強といえる走りを見せている。

 米国GP終了後における二人の争いは、ランキングトップのフェルスタッペンが287.5ポイントに対し、5勝を挙げているハミルトンが275.5ポイント。半端な数字となっているのは、降雨のため短縮レースとなった第12戦ベルギーGPをハーフポイント換算したためだ。

 今季の残りは5戦。1位25ポイント、レース中の最速ラップに1ポイント加算されるので、計算上では最大で130ポイントが獲得可能となる。つまり、現在の12ポイント差は無いに等しい。

 これほどまで接戦となったシーズンはいつ以来だろう。調べてみると、385ポイント(9勝)を獲得したニコ・ロズベルグが380ポイント(10勝)のハミルトンを“首差”で制した16年の例があった。とはいえ、これはメルセデスのチームメートでの戦いだった。

 違うチームでの戦いとなると、12年シーズンまでさかのぼる。年間王者に輝いたのは281ポイントを獲得した当時レッドブル所属のセバスチャン・ベッテル。続いたのは当時フェラーリ所属のフェルナンド・アロンソだったが、そのポイントは278。わずか3ポイントの“鼻差”で押し切った。

 10年の年間王者争いも大混戦となった。当時レッドブルのベッテルが256ポイントで制したが、252ポイントで当時フェラーリのアロンソ、242ポイントには当時レッドブルのマーク・ウェバーが続いた。しかも最終戦前にランキング3位だったベッテルが逆転で王座を獲得するという劇的なエンディングとなった。

 さて今シーズン、これほどの接戦が繰り広げている要因としては、ドライバー同士に加え、メルセデスとレッドブル・ホンダというチームが全体で戦っているからだ。さらには、それらを支えている自動車メーカー同士の争いもあるのだろう。中でも、今シーズン限りでF1を撤退するホンダは何としても王者獲得で花道を飾りたいだろう。

 F1は来季、大きなルール変更することが決まっている。車体の空力やタイヤサイズ、そしてパワーユニット(PU)の開発凍結。つまり、今シーズンはPUが開発できる最後の年となる。ホンダが持つPUに関する技術はレッドブルに引き継がれることになる。ホンダとしてはメルセデスと同等かそれ以上のPUをレッドブルへの置き土産にしたい気持ちもあるに違いない。

 米国GPはフェルスタッペンが勝利したものの、2位ハミルトンとの差はわずか1秒333。全56周の約4割となる22周で3秒以内という大接戦だった。F1で「3秒以内」だと、常にお互いのマシンが視界に入る。当然、意識するので終始プレッシャーにさらされることになる。

 神経を削り合うレースは正直、どちらが勝ってもおかしくなかった。これからも激しい戦いが続くことは確定的だ。新型コロナウイルスからの復活という意味も含み、今シーズンのF1は長く語り継がれるに違いない。

 メキシコ、ブラジル、カタール、サウジアラビア、そして最終戦アブダビ。残り5戦、見ている側もヒリヒリしながらも楽しみたい。そして、願わくば「フェルスタッペンの初戴冠」に「ホンダ最後シーズンの王者獲得」という吉報に接したいものだ。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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