松下信治、無念のジャンプスタートに「申し訳ない」。本山監督が語る初ポールの難しさ【第7戦JAF鈴鹿GP決勝】

 スーパーフォーミュラの2021年最終戦となる第7戦JAF鈴鹿グランプリ。予選で初ポールポジションを獲得してグリッドの最先頭からスタートした松下信治(B-Max Racing team)だったが、スタートでジャンプスタートの裁定を受けて4周目を過ぎたところでドライブスルーペナルティ。初優勝のチャンスを逃し、無念の12位でレースを終えることになった。

 4周目、トップを走行中の松下信治に無情のペナルティが下った。ジャンプスタートによる、ドライブスルーペナルティ。

 走行中の松下に、無線でそのことを伝えたのは、師匠でもある本山哲監督だった。

「俺が伝えました。最初は『えっ!?』って言ってたけど、それ以上は言ってこなかった。たぶん、本人に自覚があったのだと思う」と、本山監督。

 翌周、すぐにペナルティを消化した松下は再後尾となってしまった。そこから順位を少しづつ上げて行ったが、12位で今季最終戦を終えることになった。

 レース後の松下はチームスタッフも声を掛けづらいほど落ち込み、その表情は憔悴しきっていたという。 田坂泰啓エンジニアが話す。

 「めっちゃ落ち込んでいます。トップが1分41秒台で走っていて、途中から(松下が)1分42秒台になって気になっていたので聞きたいけど、返事もできないくらい落ち込んでいて、まだ本人から聞けていません。(ペナルティで後ろに下がってからは)集団のなかにいたのもあるけど、精神的ショックが大きかったのかもしれない」と、レース直後の田坂エンジニア。
 
 非公式な目撃談として、スタート直前の松下はタイヤのロゴがわずか数度、傾いただけとの情報もある。鈴鹿のストレートは下り坂で、スタート時にブレーキを離すタイミング、クラッチを繋ぐタイミングが難しいことで知られている。だが、わずかに動いただけとはいえ、ジャンプスタートに変わりはない。

 本山監督も今回の収穫とともに、レースでの初ポールの難しさを話す。

「こういったチャンスはそうそうないけど……まあ、仕方ないとしか言いようがない。いい緊張と経験と、興奮を味わえたけど、初ポールの時はだいたい、みんな失敗するものなんだよね。やっぱりこれまでとは精神的な部分で違ってくる。グリッドでどんなに平気なフリをしていても、そうそう冷静になれるものではない」と、本山監督。

 松下に同情するとともに、改めてレースの難しさを語る。

「1回勝てばまた変わるだろうけど、その1回の勝ちが獲れるかどうか。そこで勝てなくて、そのままずっと勝てなかったドライバーはたくさんいる。そこは本当に、紙一重なんだよね」と、トップフォーミュラで4度のチャンピオンに輝いた本山監督だからこそ言える言葉。

 これまで高木虎之介、小暮卓史など数々のチャンピオン&トップドライバーを担当してきた田坂エンジニアもその言葉にうなずく。

「1回の勝ちまでが遠い道のりなんですよね。そこに大きな壁がある。レースはいつ何時も、油断はできない」

 もちろん、今回の松下が油断したわけではないだろうが、初ポールのチャンス、そして初勝利のチャンスは早々何度も訪れるわけではない。1年間にわずか8回のスーパーフォーミュラのレース、そして、チャンスは一瞬。その一瞬のチャンスを掴めるか、逃すかでその後のドライバー人生は変わってくるのは、このトップカテゴリーに参戦するドライバーならば誰もが承知しているところ。

 だからこそ、いつも外向的な雰囲気を見せている松下がショックを受けるのは当然とも言える。レースが終わって少し時間が経った後、松下に聞く。

「タイヤが少し転がっていたみたいで……自分では気づく範囲ではなかったのですけど、ペナルティを取られてしまった自分の責任なので、本当にチーム、応援してくれたファンやスポンサーのみなさまに申し訳ないですね」と、松下。

 ペナルティがなければ勝てていたか? の質問に、うなずく松下。

「その後のペースも悪くはなかったので、ポジションが良ければ抜かれることもなかった。今回はスタートでのミス、ペナルティがすべてですね」

 レース後の松下はガレージを訪れたチームのゲストたちの輪に向かい、応援してくれたお礼とレースで結果を残せなかったことに頭を下げた。ゲストたちは励ましの言葉とともに、温かい拍手を贈って今回の松下を讃えた。

 その拍手に相応しいパフォーマンスを、1台体制の難しい状況で見せた今回の松下。来年に訪れる次のチャンスは、決して逃してはならない。

松下信治(B-Max Racing team)
スーパーフォーミュラで初ポールを獲得した松下信治。グリッドではいつもの様子に見えたが、大きなプレッシャーを感じていたのかもしれない。

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