映画監督デビュー森義仁「どのシーンも森山未來さんのおかげ。伸びしろを作ってくれる俳優」

主演に森山未來を迎え、幅広い年齢層に共感されベストセラーとなった燃え殻のデビュー作待望の映画化『ボクたちはみんな大人になれなかった』。11月5日(金)よりシネマート新宿他にてロードショー&NETFLIX全世界配信開始に先がけ、日本初の株式会社による専門職大学院、デジタルハリウッド大学大学院にて、同大学院専任准教授で映画監督としても活動している落合賢氏からのオファーを受け、本作の森義仁監督とのトークイベントがデジタルハリウッド大学駿河台キャンパス3F 駿河台ホールにて開催された。

まず、今回の映画化にあたっての経緯について落合氏から聞かれると、森監督は「今回のプロデューサーの山本さんが「恋のツキ」のプロデューサーでもある繋がりから、「こういう原作があるんだけど興味ある?」と聞かれました。燃え殻さんが書いた原作小説は、どういう風に映像化していいか難しい作品。プロデューサーからはおそらく僕が器用にやってくれるだろうという期待があったのでは。原作はすごく人気で、90年代カルチャーや今でいう“エモい”と言われる感覚にあふれていて、一人の人生としてのしこりや時間の流れというのが丁寧に描かれている作品。そういうコアな部分が際立つ映画にしたかった」と自身が監督を務めることとなった思いを明かした。

続けて、自身がティザー予告の編集も手がけたという、逆再生を用いたティザー予告映像のアプローチ方法について、森監督は「原作はSNSでバズった作品です。この時森山未來さんのみキャスト情報解禁されている状況で、本作のフックでもあるSNSで、見た人がざわつくような作りにしたかった。以前僕が演出を務めていた『3秒クッキング』では、分かりやすくバズムービーとして流行る時代だったこともあり、自然とそういうバズる映画というのを意識する癖がついていたんですかね」と現代から時代がさかのぼっていく本作の見どころを端的にバズらせる表現した映像の製作秘話を語る。

また、90年代を描いているという本作において、ポケベルやPHSなど、こだわって入れた小道具について聞かれると、「例えば文通というツールは今の子たちは使わないかと思いますが、根本的にコミュニケーションにおいて求める欲求というのは変わらないと思うので、変化していくコミュニケーションツールを取り入れるというのは意識しました。劇中では森山さんと伊藤さんが文通から出会うのですが、実際に撮影前に僕からお二人へ手紙を書きましたね。大きくはどういう映画にしたいのかということをメッセージとして書いて、若さを表現する方法論だったり…ちょうどクリスマスにお手紙を渡しました。森山さんは全然喜んでなかったと思いますけど(笑)。やっぱりメールと違ってすごく時間がかかるなと改めて感じました」と“文通”をとおしてキャストとコミュニケーションを取っていたことを明かした。

今回劇場公開だけがメインでなく、同時に配信も行われる作品である本作の製作エピソードに関しては「まず企画の段階では、漠然と映画化しようという気持ち。90年代を描くという点もあり、低予算で進めるのは難しいと悩んでいた時期に、ありがたいことにNetflixからお話をもらいました。ただその中で『全裸監督』の坂本プロデューサーから劇場公開もしたらという声をもらい、劇場公開も実現することに。劇場公開と配信同時に行われる映画ということで、スルメ映画のように一度観終わった後も何度か観てほしいなという思いはあります。ただ、配信で観る方に対して途中離脱されてしまわないように、『ラストが一番面白い』と伝わるようストーリー展開も意識しました」と劇場公開とNetflix配信どちらの良さも共存する作品作りを目指した思いを語る。

さらに、今回主演である森山未來さんの役作りについては、「今回さんは劇中で21~46歳までを一人で演じ分けます。その25年の演じ分けをするために、森山さんには肌のケアをいっぱいしてもらいました。美容鍼に行ってもらったり…少しだけレタッチを入れた箇所もありますが、やはり元々の肌質が良くならないと若く見えない。森山さんはそういうのが苦手な方だったと思いますが、本当に一生懸命色んなケアを駆使してもらって…短い間にたくさんの森山さんの姿を見ることが出来ました」と若作りの秘話を明かしつつ、映像アプローチについては「過去の映像は白黒やセピア、現代が新しいというのが普通だと思うが、あえてそれを真逆に。現代のシーンでは色調を暗く、90年代のシーンではそれを綺麗にしてみるというのは技術的に狙いました」と役作り、映像技術それぞれで25年の移り変わりのアプローチを取ったことを語った。また、演出表現について監督は「主人公佐藤の感情表現方法で、演出の目線から、耳鳴り音を実は数か所に入れています。どこに入れているかは、ぜひ皆さんに見てもらって確認してほしいです」と音響にもこだわっていることを明かした。

続けて、現場のキャストの雰囲気については「現場では森山さんにみんな感化されていた。みんな森山さんに刺激されて、どのシーンも森山さんのおかげで良くなった。本当に伸びしろを作ってくれる俳優さんだなと感じました。撮休(撮影期間内に訪れる休日)でも一緒にお茶をして色んなお話が出来ましたし、やはり映画作りの上ではコミュニケーションがとても大事なんだなと感じました」と語りつつ、今回映画監督デビュー作という点で待ち受けた壁について「数えきれないくらい壁はあったんですが、一番大きい壁は森山未來さん。撮影中も何度もぶつかって、僕も今回映画は初監督ということもあり、MVやCMメインのクリエイターなんだろうって初めは思われていたと思う。その壁を乗り越えて、こういう映画を撮っていきたいんだというメッセージを真っすぐ伝え、対峙しました。役者ときちんと向き合わないと良さを引き出せないんだということはとても感じさせられました」と打ち明け、監督として、映画を通して自身も成長したことを明かし、イベントを締めた。

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『ボクたちはみんな大人になれなかった』公開情報

Netflix映画『 ボクたちはみんな大人になれなかった 』

森山未來 伊藤沙莉 東出昌大 SUMIRE 篠原篤 平岳大 片山萌美 高嶋政伸 ラサール石井・大島優子/萩原聖人

原作:燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫刊)  監督:森義仁 脚本:高田亮

配給:ビターズ・エンド 2021/124 分/カラー ©2021 C&I entertainment bokutachiha.jp

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