「守れない」と思った3位争いの裏側と、いまだ“ランキング首位”を実感できない理由【井口&山内のBRZコラム Vol.6】

 今季、スーパーGT・GT300クラスに新型車両を投入したSUBARU BRZ R&D SPORT。そのステアリングを握る井口卓人選手と山内英輝選手が毎レース後、交互に登場する当コラム、今回は第6戦オートポリスの裏側を振り返ります。

 サクセスウエイト100kgを搭載しながらも、3位表彰台を獲得。首位を走るランキング上でもリードを12点に拡大できたことで、優勝した前戦SUGOに続き、SUBARU BRZ陣営にとっては『いいレースだった』と言えそうなオートポリス戦ですが、実際はかなりギリギリの戦いだったようです。

 今回は福岡県柳川市出身、『柳川観光大使』も務める井口選手に、地元のおすすめスポットなども含め語ってもらいました。

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 みなさんこんにちは、今回はオートポリスで“ホームレース”を終えた井口がお送りします!

 レース前は間違いなく苦戦すると思っていたのですが、結果的にはなんとか3位表彰台を獲得できて良かったです。でも、その裏では結構シビれることが多かったんです。

 第5戦前にあったオートポリスでのタイヤメーカーテストには参加したのですが天候に恵まれず、ウエットで、しかも1日しか走れませんでした。その後、ダンロップ勢の他チームが振替分のテストを行った際の結果を聞いたりはしていたのですが、やはりロングランには課題があるということでした。

 そのため、僕らもこの時期のオートポリスの気温では通常使えないくらい硬めのコンパウンドのタイヤを持ち込むことにしたんです。

 公式練習の走り始めでは、山ちゃんがポンと好タイムを出してくれて、「これ、意外とイケるのでは?」という雰囲気が漂います。ただ、僕に乗り替わってガソリンを満タンにしてロングランをしてみると、気温が少し変わっただけでタイヤの状態が悪くなってしまったりと、不安要素はある状態でした。

土曜日は晴れ間も多かったオートポリス。走行開始から好調を維持していたように見えたが……

 さらに、僕はそのロングランで1分46秒台。でも、周囲のタイムを見ると予選では43秒とか、もしかしたら42秒台まで入りそうな雰囲気で、正直僕は3〜4秒もタイムアップするイメージがつかず、予選に向けては緊張感もありました。

 持ち込んだタイヤのなかで、ハード側を使うかソフト側を使うかも結構悩みました。最終的にオートポリスは抜けないコースなので予選で前に行きたいというのと、決勝日の方が寒くなるという予報もあり、ソフトで予選を走ろう、という決断になりました。結果的には、これが正解でしたね。

 予選では僕も42秒台に入れることができてQ1を2番手で通過できましたし、Q2でも山ちゃんがフロントロウを獲得してきてくれました。あとはソフトタイヤで走る決勝がどうなるか、でした。

 決勝は山ちゃんスタート。SUGOと同じく、レース距離の半分まで引っ張って、ソフト〜ソフトとタイヤをつなぎたいと考えていました。

2番手からスタートした決勝レース。今回は山内が第1スティントを担当した

 2回目のセーフティカー(SC)が終わったところで上位陣の多くはピットへ。僕らも迷いましたが、SCでギャップが詰まった直後だと給油時間等のわずかな差で逆転されてしまう恐れもありましたし、そこでピットに入ると残りの距離的に僕の履くタイヤがハード側のコンパウンドとなり、ウォームアップにも不安がありました。

 幸い、山ちゃんのペースは良かったので、SCのリスクに怯えながらも「少しでも前に出られるようにギリギリまで行こう」という判断でピットインを引っ張り、SCで帳消しになったギャップを再び作り出してもらうことに。後から考えればこの判断も正解で、無事にハーフウェイまで引っ張り、僕もソフト側のタイヤでコースインすることができました。

 アウトラップで2台に抜かれてしまいましたが、タイヤが温まってからはタイムもフィーリングも良く、すぐに96号車(K-tunes RC F GT3)に追いつくことができました。ただ、それを早いタイミングで仕留めることができず、自分のペースで走れなくなったことでタイヤの温度が下がってしまったりして、どんどんと状況が悪くなっていきました。

 96号車が離れていった一方で、後ろには52号車(埼玉トヨペットGB GR Supra GT)が迫ってきました。熊本出身の吉田(広樹)さんとは“九州対決”だったんですよね(笑)。僕も、もうちょっとクルマが言うことを聞く状況でのバトルだったらやりやすかったと思うんですけど、その頃にはもう単独で走っていても結構厳しく、曲がらないしグリップもないという状況だったので、あのペースで後ろから来られたら「全然守れないだろうな」と思ってたんです。

後半スティント途中から、井口は背後の52号車を封じ込める走りを強いられる

 ただ、ミラーを見ていると、追いつかれたところからはあまり距離が変わらない。吉田さんも何台か抜いてから僕の背後まで来た感じで、実際に結構厳しかったみたいですね。「まだ残りは長いけど、守り切れる可能性はあるな」と思って、必死に頑張りました。

 約20周、本当に長かったししんどかったですが、なんとか逃げ切って3位でチェッカー。その瞬間は守り切れた嬉しさよりも、地元の九州で、たくさんの知り合いの方も来てくれているなか、2年ぶりにSUBARU BRZで力強いレースを見せられたという安堵感の方が強かったかもしれません。

第2戦富士、第5戦SUGOに続く今季3度目の表彰台に登壇。なお、この日は山内の誕生日でもあった

■うなぎを食べながらの川下りも。地元・柳川の魅力

 さて、今回はそんな地元・九州について、少しお話しさせてください! 僕は福岡県南部の柳川市の出身です。高校を卒業するまで柳川に住んでいました。

 ただ、オートポリスを初めて走ったのは、じつはF3に参戦していたハタチの頃なんですよね。九州にいた頃はずっとカートをやっていたのですが、オートポリスにはカートコースがなかったので。

 その初めてのオートポリス戦には、地元からバスツアーが組まれ、何百人もの人が応援に駆けつけてくれました。しかも、レースに勝つこともできた。それからはもう、恒例のようにオートポリスさんには応援シートを作ってもらい、完全に『ホームコース』になりましたね。

 今回のスーパーGTのレース後は、実家に帰ることもできました。

 柳川は古い建物など町に風情があって、とても落ち着きのあるいいところです。お濠の川下りが有名なのですが、船の上で名物のうなぎのせいろ蒸しを食べることができるのも最高です。以前、山ちゃんと一緒に行ったときの写真がこちらです。

2016年、コンビでの初優勝後に柳川を訪れた際にふたりで川下りを体験
落ち着いた街並みも柳川の魅力

 うなぎ以外の食べ物のオススメといえば、やっぱりとんこつラーメン! 個人的には博多の屋台のいわゆる長浜ラーメンよりも、距離的にも柳川に近い久留米のラーメンの方が好きです。こってり・がっつり系で、久々に食べるとすごい衝撃を受けるんですが(笑)、小さい頃から食べてきたラーメンなので、久留米ラーメンが僕のなかでは一番ですね。

 あとは九州ならではの柔らか〜い麺が特徴のうどんも、食べると「帰ってきたなぁ」と思いますし、醤油も必ず買って帰りますね。九州の甘い醤油、好きなので。

 あ、柳川にいらっしゃる際は、佐賀空港が便利でオススメです! 実はすぐ隣、クルマで30分くらいのところなんです。また、佐賀市内と福岡市内から1時間弱、熊本市内からも1時間ちょっとでアクセスできるので、九州観光の際にはぜひ柳川にお立ち寄りください!

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 さて、GTは残り2戦となりました。最終戦の富士は今年一度表彰台に立っていますし、ウエイトもゼロになるということでなんとなくイメージしやすいのですが、前回ちょっと勝負をかけて失敗してしまったもてぎについては、少々気になるところもありますね。

 ただ、『タイトル争いのプレッシャー』みたいなものは、意外にもまったく無いんです。

 今年前半、富士での表彰台はありましたけど、僕自身は新型BRZに完全にアジャストできていなかったので懸命にやっていましたし、チームとしては予選で速くても決勝では苦戦するレースが続いていました。タイトル争いなんて考えられる状況ではなかったですし、その頃の感覚がまだ脳裏に残っているので、正直、ランキングトップにいるという感覚も無いんです。

 いまはただ、毎レース毎レース、チームと一緒にトライ&エラーを繰り返しているだけという感覚で、目の前の課題に常に集中できています。いまも、もてぎをどういうセットアップで、どういうタイヤで戦おうか……というワクワク感しかない。

 たぶん、もてぎが終わるまではその感覚でいけそうな気がします。とにかく一生懸命やるしかないと思っているので、引き続き応援よろしくお願いします!

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