京王線刺傷事件で見えた防犯対策の課題 ドアが開かなかったのはなぜ?

10月31日に発生した走行中の電車内での刺傷事件から見えてきた“鉄道会社の対策の課題”について、電車内で事件事故が起きた際の注意点とともにまとめました。

京王線で発生したこの事件では、電車内から逃げた乗客たちが窓から身を乗り出し、ホームドアを越えて脱出を図りました。なぜ窓からだったのでしょうか。事件があった電車に居合わせた乗客は「ドアが開くと思った瞬間にドアが開かなかった。それで窓から逃げようという話になった」と証言しました。

では、なぜ電車のドアは開かなかったのでしょうか。京王電鉄によると、事件が起きて車内の非常通報装置ボタンが複数箇所で押され、乗客が乗務員に危険を伝えたことなどもあり、運転士は社内規則に基づいて、本来特急が通過する国領駅に緊急停車しました。しかし車両は通常の停車位置から1メートルほど手前にずれた位置でいったん停止したということです。このため、ずれた隙間から線路に転落する恐れがあると乗務員は判断し、すぐには車両ドアを開けなかったということです。そしてホームドアの位置に合わせるよう運転士は発進を試みましたが、この時、すでに乗客が非常用ドアコックを操作して一部の車両ドアを開けていたため、車両は動かせない状態になってしまいました。さらに、停止した直後に車両が駅構内の傾きによって1メートルほど後退したため、乗客たちは窓を開けて窓からの脱出を図ったのです。

ホームドアが開かず乗客が窓から脱出したことについて、鉄道ジャーナリストの梅原淳さんは「ホームドアは車両が正確な位置から誤差10センチぐらいのところに停止した時に連動して自動的に開くもの。こういう非常事態のときに緊急で開けられるのかが今回課題になった。例えば、乗務員室側からリモコンでホームドアを操作して開けられるなどの仕組みを今後導入しなければいけない」と指摘します。もし、走行中の車内で事件・事故などの緊急事態に遭遇した場合の対応について梅原さんは「危険から離れる」「連絡ができる状況であれば、車内の通報装置で乗務員に連絡する」「車両が停車しているがドアが開かず危険が迫っていた場合は、非常用ドアコックを使用して手動でドアを開ける」ことが大切だと話します。非常用ドアコックは、ドア付近や車両の連結付近など鉄道会社によって設置場所は違うものの、ハンドルを引くだけでドアのロックを外すことができ、手動でドアを開けられるというものです。

今回の事件を受け、国土交通省は全国の鉄道事業者に対して巡回の強化や警戒監視を徹底するよう注意喚起を行いました。小田急電鉄は8月に起きた走行中の車内での刺傷事件を受け、全駅に凶器から身を守る盾と防刃手袋を配備していて、近いうちに全列車の乗務員室にも防刃手袋を置く方針です。そして京王電鉄は今回の事件を受け、乗客へのアナウンスや警備を強化する方針を明らかにしました。例えば駅構内での巡回警備を増員したり、特急よりも駅間が長い京王ライナーでは警備員を車内に常駐させて「見せる警備」をさらに強化したりする方針です。

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