消費者庁長官の命令で示談金5億円?それ詐欺です スマホにメールが届いたら、消費者ホットライン188に電話を

最初に送られてくるメールの例

 「国民生活センターです。示談金3億2千万円受け渡しの件でご連絡をさせて頂きました」

 「消費者庁長官伊藤明子がゲスト様のために動きました!示談金5億1952万円の現金をお渡しさせていただきます!」

 携帯電話やスマートフォンにこんなメールが届いた覚えはないだろうか?これらはいずれも、国民生活センターや消費者庁とは一切関係のない「偽者」が送ったメールだ。

 文中に記載されているリンクをクリックすると、「示談金の受け取りには書類作成費用が必要」などというメッセージが表示され、電子マネーを購入してIDを伝えるよう要求してくる。だが、いくら費用を支払っても、示談金は受け取れない。悪質業者が消費者からお金をだまし取る、典型的な詐欺の手口だからだ。(共同通信=渡具知萌絵)

 ▽被害相次ぐ

 最近、消費者庁や国民生活センターをかたり、「過去に利用した詐欺サイトから示談金や和解金を受け取れる」と持ち掛ける不審なメールが届いたとの相談が相次いでいる。各地の消費生活センターなどに寄せられた相談は、昨年4月以降で128件。すでに金銭を支払ったケースが15件あり、被害額は合計110万円となった。

 相手が名乗るのは、実在する公的機関だけではない。「内閣特別対策本部」「国民生活相談センター」「国立金融公庫ペイメントサービス」「独立機構日本生活安全センター特殊詐欺対策班」「国民生活保護財団法人」といった、名前はもっともらしいが実在しない機関を名乗るケースも確認されている。

「国民生活相談センター」と名乗ったメッセージ

 ▽始まりはメールやショートメッセージ

 主な被害事例はこうだ。まず、公的機関の名称をかたり、メールやショートメッセージが送られてくる。記載されたリンクをクリックするよう誘導するような文面になっている。

最初に送られてくるメールやショートメッセージはこんな場合も

 「国民生活センター〇〇です。《示談金〇億〇万円》受け渡しの件でご連絡させていただきました」「上記URLよりご確認ください」

 指示に従ってクリックすると、出会い系サイトに接続されてしまう。サイト上には、過去の詐欺被害の示談金などを受け取ることができるというメッセージが表示されている。例えばこんな文面だ。

 「以前、あなた様がご利用されたサイトが先日摘発され、それに伴い『和解金』をお渡しさせていただくことが消費者庁の規定により決まりました」

 ▽電子マネーを買わせる

 このメッセージを信じてしまったり、問い合わせたくなったりした消費者は、サイトのチャット機能を利用して、受け取りの経緯を直接尋ねることになる。

 すると詐欺師側は「書類作成費用」などの名目で電子マネーを購入し、IDを伝えるようチャットで連絡してくる。

 購入する電子マネーの金額は、最初は数千円だが、一度支払いに応じてしまうと詐欺師側は味を占め、要求する金額を上げてくる。数万円分を購入するよう求められるという。

 ▽断ると脅しが…

 一方、メッセージを無視したり、金銭を支払わなかったりすると、「罰則を科せられる」など消費者を脅すような長文が送られてくる。文面は次のような感じだ。

 「正当な理由・事情などなくご自身の一方的な都合を起因とする意図的な放置・無視を継続された場合、各機関の判断により社会的にも厳しい処分を受けることになります」

 「仮に、逃げよう回避しようと試みたとします。そもそも法にのっとり定められているものですので、どなたに助けを求めようと処罰が軽減されることもございませんし、すべての処分内容を受け入れざるを得ない状況となります。現在お仕事をしている方であれば、処分内容により裁判所命令にて身柄を拘束され、留置場に収容されることになりますのでしばらく出勤などできなくなります」

 ▽困ったら188に電話

 消費者庁によると、こうした偽メールに関する相談は、今夏以降に急増した。同庁は事態を重く受け止め、悪質な事業者についての情報を公表し、注意喚起した。https://www.caa.go.jp/notice/entry/026250/

消費者庁=東京都千代田区霞が関

 消費者庁の伊藤明子長官は自身の名前も悪用された。「大変憤慨している」と語り、「消費者庁や他の行政機関が示談金や和解金の手続きに関してお金を要求したり、預かったりすることはない」と強調した。その上でこう呼び掛けた。

 「このようなメールが届いた時には、身に覚えのない場合はもちろん、実際に被害に遭ったことがある場合でも、相手側に連絡しないでほしい。慌てて対応せず、一呼吸置いて消費者ホットライン(局番なしの188)に相談して」

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