伝記映画「リスペクト」とアレサ・フランクリンの80年代音楽キャリア  2021年 11月5日 アレサ・フランクリンの伝記映画「リスペクト」が日本で劇場公開

アレサ・フランクリンの伝記映画「リスペクト」

クィーン・オブ・ソウルの異名をとるアレサ・フランクリンが世を去って3年、早くも伝説になってしまうのだなあと思わざるをえなかった2021年。その理由は、今年公開された2本の映画にある。ひとつは、1972年の伝説的なチャーチ・コンサートの模様を発掘した奇跡のドキュメンタリー『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』。そしてもうひとつは、伝記ドラマ『リスペクト』。いずれも、アレサのカリスマ性を伝えるに十分な作品だ。

前者については方々で語られているので、詳細は省略。後者は牧師の家に生まれたアレサが歌手デビューするも芽が出ず、苦難の時期を経てブレイクし、チャーチ・コンサートの開催へと至るまでを描いている。が、この映画が伝えているのはそれだけではない。

きっかけは、映画「ブルース・ブラザース」

硬くなりそうな話はいったん置くとして、ここでリマインダー世代、すなわち80年代のアレサの活動を振り返ってみよう。

筆者が彼女の存在を知ったのは、この世代の多くがそうであったように、1980年の映画『ブルース・ブラザース』からだ。劇中でダメ亭主を叱りつけるかのように「シンク」を熱唱する、肝っ玉母ちゃんのような姿は、同じくこれに出演したゴッドファーザー・オブ・ソウルこと、ジェームズ・ブラウンの雄姿ともども鮮烈な印象を残した。

が、肝心の歌手業はというと、この時期はセールス低迷期で、アレサはすでにチャートに影響力を持つ存在ではなかった。正直、この頃の彼女の音楽活動を中学~高校時代のマナブは追っていなかった。UKロックに夢中になっていた時期だから、ある意味、仕方なし。

UKロックに登場したアレサ・フランクリン

ところが、そんなUKロックの分野に、いきなりアレサの名が飛び込んでくる。

まず、1984年のUKチャートに上がったスクリッティ・ポリティの「ウッド・ビーズ(アレサ・フランクリンに捧ぐ)」。「ベッドに入る時は、いつもアレサ・フランクリンのように祈る」という歌詞の意味は、当時はよくわからなかったが、後に彼女のヒット曲「小さな願い(I Say a Little Prayer)」から来ていたことを知る。

さらに1985年、ユーリズミックスのアルバムに収録されていた「シスターズ」でのデュエット。ドスを効かせつつも、美しいファルセットを響かせるアレサの歌にぶっ飛んだ。アン・レノックスとのソウルフルなかけあいもスゴい。『ブルース・ブラザース』で触れたド迫力が、一気に甦ってきた。

「シスターズ」の原題は“Sisters Are Doin’ It for Themselves”。英語がさほど得意ではないマナブにも、このタイトルが意味するところ―― 女性の権利の主張―― は理解できた。なにしろ、アレサとアンのダブルダイナマイトが熱唱しているのだ。歌に込められた社会的なメッセージは、聴いただけでもわかる。

サクセスストーリーと同時に男性社会に虐げられてきたソウルシスターの物語

ここで、映画『リスペクト』に話を戻そう。この映画はアレサのサクセスストーリーであるのはもちろんだが、一方で男性社会に虐げられてきたソウルシスターの物語でもある。

13歳で誰の子かわからないベビーを出産し、父親にはしばし暴力を振るわれ、結婚したら夫のDVに悩まされる。耐え忍び、精神を圧迫されながらも、アレサは若き日を駆け抜け、自身の強い希望でチャーチ・コンサートを実現させる。まさに、「Sisters Are Doin’ It for Themselves」にたどり着くまでの物語!

話はそれるが、#metoo運動以降、ハリウッドでは女性映画が急増しており、2021年の日本公開作では、とくにそれが目立った。『ノマドランド』『モンスターハンター』『クルエラ』『プロミシング・ヤング・ウーマン』『ブラック・ウィドウ』『最後の決闘裁判』などなど、挙げればキリがない。

これが日本の社会にあたえる影響は正直わからないが、G7中ジェンダーギャップ指数がダントツ最下位である日本は、この意味をもう少し考えた方がいいのでは?

チャートに返り咲いた「フーズ・ズーミン・フー」

硬い話になってしまったので軌道修正。

80年代のアレサは「シスターズ」発表の同年にリリースされた『フーズ・ズーミン・フー』で見事にチャートに返り咲き、シングル「フリーウェイ・オブ・ラブ」も大ヒット。

1986年にはキース・リチャーズと共演したストーンズのカバー「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」をチャートに送り込み、翌年のジョージ・マイケルとのデュエット曲「愛のおとずれ(I Knew You Were Waiting (For Me))」が米英ナンバーワンヒットに。ポピュラーシンガーとして見事に返り咲き、その後、再び教会でのコンサートを収めたライブ盤『ゴスペル・ライヴ(One Lord, One Faith, One Baptism)』をリリースする。

セールス不振からヒット連発、そして教会音楽への回帰―― 80年代のアレサの音楽キャリアは、ある意味、映画『リスペクト』で描かれた彼女の若き時期と似ている。そういう意味でも、この映画はリマインダー世代に、熱烈オススメしたい。

カタリベ: ソウママナブ

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