投高打低だった10月のパ、貯金4のオリックスがペナントレースを制した
ロッテとのデッドヒートを制し、オリックスの25年ぶり優勝で幕を閉じたパ・リーグ。激しい戦いが繰り広げられた10月に活躍した選手をデータで探り出し、「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出する。
10月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。
○オリックス10勝6敗2分:打率.208、OPS.600、本塁打15、先発防御率2.49、QS率50.0%、救援防御率1.63
○日本ハム12勝9敗3分:打率.236、OPS.658、本塁打14、先発防御率2.30、QS率79.2%、救援防御率3.03
○楽天9勝9敗1分:打率.222、OPS.638、本塁打13、先発防御率2.30、QS率79.2%、救援防御率3.03
○ロッテ9勝10敗2分:打率.212、OPS.618、本塁打17、先発防御率2.57、QS率57.1%、救援防御率4.82
○西武8勝11敗:打率.209、OPS.589、本塁打12、先発防御率2.31、QS率52.6%、救援防御率3.44
○ソフトバンク7勝10敗2分:打率.225、OPS.666、本塁打19、先発防御率2.77、QS率57.9%、救援防御率4.83
全体的な傾向として、明らかに投高打低だったと言えよう。特に先発防御率は全チーム2点台である。
ここではセイバーメトリクスの指標による10月の月間MVPの選出を試みる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、実際とは異なる選手が選ばれることもある。
日本ハム近藤はOPS.994、打率.351、2本塁打をマークした
【打者部門】
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。
各球団のwRAA上位3人は以下の通り。
○オリックス:杉本裕太郎3.67、T-岡田1.14、若月健矢0.78
○ロッテ:岡大海7.01、山口航輝2.97、荻野貴司2.92
○楽天:浅村栄斗5.81、山崎剛4.48、島内宏明4.10
○ソフトバンク:デスパイネ5.01、栗原陵矢4.56、中村晃4.28
○日本ハム:近藤健介9.18、宇佐見真吾3.22、高濱祐仁2.93
○西武:山川穂高6.22、中村剛也5.61、源田壮亮2.91
月間でOPS1を超えた選手はおらず、0.9を超えたのも3人しかいない。
近藤健介:OPS0.994、打率.351、本塁打2
山川穂高:OPS0.975、打率.306、本塁打6
岡大海:OPS0.960、打率.302、本塁打3
その中でもインパクトが強いのは、10月15日のソフトバンク戦で森唯斗投手から今季2本目のサヨナラ本塁打を放った岡大海だろう。ただセイバーメトリクスの指標から見て最もチームに貢献したと評価される選手は日本ハムの近藤健介である。もともと出塁率の高い選手ではあるが、今月は塁打数も44。盗塁も2と足でも貢献した。日本ハムの月間12勝に打撃面で貢献した近藤健介を10月の月間MVPに推薦する。
日本ハム・上沢は3試合登板で防御率1.74
【投手部門】
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。
各球団のRSAA上位3人は以下の通り。
○オリックス:山本由伸5.48、ヒギンス2.36、山崎颯一郎2.09
○ロッテ:佐々木朗希2.93、美馬学2.67、益田直也2.32
○楽天:則本昴大2.47、田中将大1.87、早川隆久1.04
○ソフトバンク:マルティネス4.00、千賀滉大2.54、大関友久1.44
○日本ハム:上沢直之6.70、バーヘイゲン3.60、加藤貴之2.63
○西武:與座海人2.83、森脇亮介1.47、武隈祥太0.92
オリックス・山本由伸、ロッテ・石川歩、西武・松本航が月間3勝0敗の成績を残した。その中でも防御率0点台の山本と石川が公式の月間MVP有力候補だろう。山本が受賞すれば4か月連続となる。セイバーメトリクスによる指標での評価でも圧倒的な貢献度を示してきた。ただ、10月は山本を超える貢献度を示した投手が現れた。日本ハム・上沢直之である。
山本由伸:登板4、QS4回、HQS3回、防御率0.84、WHIP0.66、被打率.145、被OPS.362、奪三振率9.00、K/BB6.40
上沢直之:登板3、QS3回、HQS2回、防御率1.74、WHIP0.63、被打率.169、被OPS.397、奪三振率8.27、K/BB19.00
次に2人のFIPとtRAに関わるデータを比較する。
山本由伸:奪三振32、与四死球6、被本塁打1、FIP1.57、ゴロ率61.5%、内野フライ率5.1%、tRA1.83
上沢直之:奪三振19、与四死球3、被本塁打0、FIP1.19、ゴロ率43.6%、内野フライ率21.8%、tRA0.45
ライナー性の打球も上沢にはほとんど観測されなかった。打たれた打球の質を考慮するtRAでは大きな差を示していることがわかる。日本ハム月間12勝の「投」の原動力となった上沢直之を10月のセイバーメトリクスの指標による月間MVPに推薦する。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。