予選日で躍進したミッドシップ勢。でもそれだけじゃないのがGT300の面白さ【第7戦GT300予選あと読み】

 11月6日、ツインリンクもてぎで行われたスーパーGT第7戦の公式練習で、GT300クラスのトップ10のうち、8台が同じ特徴をもったマシンだった。さて、これはいったいなんの数字でしょう。正解は、ドライバーよりうしろにエンジンがあるミッドシップ(MR)orリヤエンジン(RR)のクルマの台数だ。ブレーキングとトラクションが重要なもてぎで、MRやRR、特にRRはトラクションの面で得意と言われているが、それを印象づけるリザルトとなった。ただ、それだけでは決まらないのもGT300の面白さ。午後の予選ではそれだけではない、また違った結果となった。

■公式練習首位も、不運のPACIFIC NAC CARGUY Ferrari

 GT300では参加条件ですべての車両のパフォーマンスが均衡にされているが、それでもクルマの特性で得意コース、不得意コースが出てくる。ハードブレーキングと、立ち上がりのトラクションが重要となるレイアウトのツインリンクもてぎでは、後輪にトラクションがかかるMRマシン、さらに最も得意とも言えるRRマシン(唯一のRRがポルシェ911 GT3 Rだが)が速いのが定説だ。

 特に今回、印象的なスピードをみせたのが午前の公式練習でトップタイムだったPACIFIC NAC CARGUY Ferrariだ。今季はすでにシーズンで3回のポイント獲得を果たし、第6戦オートポリスでは木村武史がスーパーGTで初得点を獲得するなど、そのスピードは文句なしだが、WEC世界耐久選手権参戦の木村に代わって横溝直輝がドライブする今回は、公式練習から素晴らしいスピードをみせ、午後の予選も期待されていた。

 ただ、GT300チャンピオン経験者の横溝が駆り、速さをもつPACIFIC NAC CARGUY Ferrariでさえもそう簡単にいかないのがGT300の予選の難しさ。「アタックのチャンスは1周しかないのですが、セクター3~4でトラフィックに引っかかってしまって。それがなければ、余裕でQ2には進出できたと思いますが……。運が悪かったです」というのは横溝。

「午前中からコンディションが変わったところはありますが、それでもクルマは変わらず速かったです。運だけでしたね。悔しいです。明日はどうなるか分かりませんが、戦略も含めてやるだけです」

2021スーパーGT第7戦もてぎ PACIFIC NAC CARGUY Ferrari(ケイ・コッツォリーノ/横溝直輝)

■MR+ヨコハマ勢の躍進

 好調ぶりをみせながら、横溝が言うように運悪くQ1突破がならなかったPACIFIC NAC CARGUY Ferrariの一方で、やはり上位にはミッドシップマシンが多く食い込んでいる。4番手を獲得したJLOC ランボルギーニ GT3は今回必勝を期しているマシンの一台。相性が良いコースなのは間違いなく、ここで勝てばタイトル争いにも絡めるだけに、ドライバーはふたりとも気合が入っている。また、5番手のHitotsuyama Audi R8 LMSも篠原拓朗が自己最高位で予選を通過。予選後笑顔をみせた。

 そして今回速さをみせたのが、ホンダNSX GT3勢だ。かつてはブレーキに不安があったが、現在はそれも改良されており、予選Q1で道上龍がA組の2番手につけたYogibo NSX GT3も含め、スピードは今回抜群だ。ARTA NSX GT3が佐藤蓮をもってしても3番手だったのは、45kgというサクセスウエイトの影響があるだろう。

 また今回、MR勢が速い印象を受けているのは、MR勢のうちヨコハマを履くマシンが速いのも大いに関係がある。JLOC ランボルギーニ GT3もHitotsuyama Audi R8 LMSも、Yogibo NSX GT3も、そしてPACIFIC NAC CARGUY Ferrariもヨコハマだ。例年最終戦として開催されてきたもてぎだが、今回は例年に比べ比較的気温が高いこと、そして何より、ミッドシップ用の車両向けのタイヤの開発が進んでいるのではと横溝は言う。HOPPY Porscheを中心に開発を進め、速さを取り戻しているヨコハマ勢の躍進は今後も楽しみな要素だ。

■「うまくハマってくれた」UPGARAGE NSX GT3

 そして歓喜のポールポジションとなったのがUPGARAGE NSX GT3だ。「TEAM UPGARGEに来て初めてのポールポジションですからね。うれしいです」というのは小林崇志。実は「バクチなところもあった」という予選だったようだが、「ベースのチーム力が上がったから獲れたポールポジションだと思いますし、うまくハマってくれたということだと思います」という。先述までの条件に加え、小林が言う“バクチ”もピタリとハマった。

「とはいえ、それまでにしっかり下準備してきたからこその結果なので、去年、一昨年とチームがやってきた結果が結びついた予選だったと思います。決勝はタイヤなど読めないところがありますし、楽勝……ということはないと思いますが、できることはやるしかないし、勝てたらラッキーだし負けたら残念で、それまで全力で走るだけです」

 また、自身初のスーパーGTでのポールポジションとなった名取鉄平は「今までも速さはありましたが、トラブルがあったり、鈴鹿ではウォームアップで横転してしまったり、オートポリスはトラブルでと、流れがあまり良くありませんでした。今まで速さが結果に結びつきませんでしたが、今週は公式練習からうまく流れに乗っているな、という印象です」という。

 予選では、2番手につけたSUBARU BRZ R&D SPORTのタイムは聞かず「僕は静かに走りたいタイプなので(笑)」とアタックに集中し、すべて満足ではないにしろ、ポールという結果に結びつけ、笑顔をみせた名取。

 今季はスーパーフォーミュラ・ライツでチャンピオンも獲得したが、「GTではみんなが祝ってくれるのでうれしいです(笑)。カメラもいっぱい来ますし。フォーミュラではポールを獲って当たり前みたいな感じですが、いっぱい祝福してもらいました」と名取は初のスーパーGTでのポールを喜んだ。

■見逃せない決勝レース

 もちろん、小林が言うとおりレースではそのまま……というわけにはいかないだろう。また、ミッドシップ勢が速さをみせながらも、公式練習から大きく順位を上げたチーム、ドライバーは2番手のSUBARU BRZ R&D SPORTをはじめSYNTIUM LMcorsa GR Supra GT、リアライズ 日産自動車大学校 GT-R、GAINER TANAX GT-R、たかのこの湯 GR Supra GTなど、チャンピオン争いをする面々ばかりだ。また、Q1で好タイムをマークしたarto RC F GT3も、得意コースではないがジュリアーノ・アレジが速さをみせた結果だ。GT300はクルマ、ドライバー、タイヤとすべての要素が問われることを如実に表していた予選日と言える。

 異なる武器をぶつけ合いながら展開されるであろう、11月7日の決勝レースはどんなドラマが展開されるか。タイトル争いも交えつつ、見逃せないレースになるであろうことは間違いない。GT500の争いとともに、ぜひGT300にもご注目いただきたい。

2021スーパーGT第7戦もてぎ JLOC ランボルギーニ GT3(小暮卓史/元嶋佑弥)

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