【11/7が25歳の誕生日】ロード本人による新作アルバム『Solar Power』全曲解説

2021年8月20日に発売され、全英2位、全米5位、本国ニュージーランドでは3作連続1位を記録したロード(Lorde)の約4年ぶり、3枚目のスタジオ・アルバム『Solar Power』。

この新作は環境に配慮してCDの発売はなく、配信とLP、そして手書きのメモや限定写真、ダウンロード・カードが入った環境に優しい100%生分解性のハードエコボックスの“Music Box”での発売も話題となった。

この“Music Box”のボーナス・トラック2曲が追加収録されたデラックス・エディションが11月5日に配信となった。このアルバム全14曲について本人による解説をご紹介します。

Photo: Ophelia Mik

1. The Path

「The Path」は、アルバムのために最初に作った曲のひとつ。この曲はニュージーランドで一人で書いた。2019年の夏の終わりだったと思う。だから2019年の初め。私はヤマハのDXという小さなキーボードを持って、自宅のおひさまが当たる部屋で座って、コードを何度も何度も繰り返し弾きながら、バラバラの歌詞をつなげようとしていた。

生きていることの不条理で美しい本質が自分の中に現れてきたような気がして、表舞台に出る人間としての自分と、とてもプライベートな人間としての自分の両方について、当時はよく考えていた。この曲がアルバムの最初を飾る曲だと考えてた。私はこの曲が、「久しぶり!最近どうしてる?私は今こんな感じだよ」と言っているように感じる。だから、まさに皆さんが今、初めてこの曲を聴くというのは完璧なこと。

私はたった今、この曲を書いたピアノを目の前にしている、ちょっとクールだよね。この曲で、このアルバムを始める重要な方向性のように感じたものは、「もしあなたが救いを求めているなら、それは私じゃない」ということ。私のような立場にいる人間には、多くの信頼や信仰、尊敬の念を置かれているけれど、だからこそ私に対して答えを求めてはいけないと自分で思う。私たちは皆、太陽や海、自然に目を向けるべき。この曲はそんな感じの内容。それが「The Path」。気に入ってもらえると嬉しい。私はこの曲が大好き。

2. Solar Power

このアルバムでは、幸運なことに、素晴らしいドラマーが参加してくれた。私がずっと前からファンだったマット・チェンバレン。彼は、90年代前半から後半にかけて、私のお気に入りであるレコードの多くでドラムを叩いている。彼はフィオナ・アップルの『Tidal』に参加していて、とてもとても印象的なドラムを叩いている。そのマットが、このアルバムに命を吹き込んでくれた。

このアルバムには、これまでにないほど多くの自然の楽器の音が使われている。彼はその大きな部分を占めている。彼のドラムが、(アルバム1曲目の)「The Path」に命を吹き込んでくれたことが私にとってすごく大きな出来事で、クールだった。彼は次の曲「Solar Power」にも参加してるけど、これは以前に聴いたことがあるかもしれないし、私がこれについて話していることも聞いたことがあるだろうから、あまり多くは語らないでおく。でもこの曲もとても好き。私にとって、夏の始まりのような曲。海辺で寝そべっている女の子たちのような、あの伝播するエネルギーわかるでしょ?あれが伝えたかった。

3. California

「The Path」がこのアルバムで最初に手がけた曲だと言ったけど、そうではないことに気がついた。このアルバムで本当に最初に手をかけた曲は、この曲。この曲は何度も違う道を辿った。最初はピアノ曲で、スタジオのジャック(・アントノフ)のところに持って行って、ピアノで録音したけど、どうもしっくりこなかった。

何度も拾っては捨て、拾っては捨ててというふうにしてる曲だったけど、2020年の夏にエレクトリック・レディのスタジオに行ったとき、この曲をまた拾って、アルバム全体で使用しているギター、フェンダー・ジャガー、を使って、通してみたところ、突然しっくりきて、足りなかった部分を書き足したらもうすごく良い曲に仕上がった。

この曲はとても好き。若い時に初めてロサンゼルスに行って、その世界に身を置いて、「これが自分に合うのか分からない」と気づいた時のことを歌ってる。曲は「Once upon a time in Hollywood, when Carole called my name / 昔ハリウッドで キャロルが私の名前を呼んだ」と始まるんだけど、これはグラミー賞を受賞したときのこと。キャロル・キングから賞を贈られて、新しい人生の始まりと感じた瞬間。それはとても非現実的で、まるでドアが開いて、全く異質なものに迎え入れられたような感じだった。この曲はそのことについて。

4. Stoned At the Nail Salon

この曲は、ツアーを終えた後に書いた。ツアーが終わると変な感じがして、まあ多分みんなにもあるんだろうけど、ツアーってすごく大きくて、激しくて、眩しいから、ツアーが終わって家に帰ると、私からすると普段の生活はとてもゆっくりしていて、家庭的で、また料理してたり、いつもガーデニングしたりしていると、人生の意味を見失う感覚が少しずつ芽生えて、「何してるんだろう?私の選択は正しい?もっとパーティーするべき?それとも仕事をするべきなの?」と思ってしまう。

そんな時は、奇妙なことに様々なことに敏感になるタイミングであり、多くの大きな疑問が浮かび上がってくる。そういう時はだいたい、何ヶ月もツアーをした後でエネルギーがない。だから私の場合、本当にちょっとしたことをたくさんしたい。そのひとつが、たくさんお風呂に入ること。私はお風呂に入るのが大好きで、もう常にお風呂に入ってる。

もうひとつは、酔っ払ってマニキュアをしてもらうこと、これはおすすめ。それで、この曲は「Stoned At the Nail Salon」という曲。ブルックリンハイツにあるジャックのホームスタジオで書いた。この曲を書いているときは、とても居心地が良かった。彼が美しいギターを弾いてくれて、曲が徐々に出来上がっていった。この曲はとても気に入ってる。このアルバムには、私の他にも美声の歌手が参加しているけど、特にこの曲では彼らの歌声を聴くことができる。

マーロン・ウィリアムス、ローレンス・アラビアのジェームス・ミルン、フィービー・ブリッジャー、クレイロ。彼ら4人組の声を聴くのは最高だった。特に女性たちのハーモニーは大好きで、以前からずっと一緒に歌いたいと思っていたし、私がクレイロの曲にも参加していたりして、少しずつファミリーを増やしていくのもいいね。

5. Fallen Fruit

この曲は、私にとって特別な曲。環境をテーマにしたアルバムを作っている中で、当たり前だけど常に頭の中にあったのは、私たちが非常に深刻な気候危機の真っ只中にいるという事実。これは、私たちの生涯の意味を問う戦いだと思う。どこまで踏み込んでいいのか、悩ましい、そう思わない?本当に重くて、自分が罪悪感を感じるような曲は私には変な影響を与えるような気がする。

でも、それだけになってしまうのは嫌だと思った。私が外にいるときに感じるのは、喜びであり、光であり、感謝だから。この曲は、基本的には、台無しにした上の世代に対する私の怒りを包含している。この曲は、私が親の世代に向かって、「自分達が何をしたか分かってる?どうしてこんな状態にしたの?」と言っているような感じ。なぜなら、上の世代が幸運にも何も考えずに享受してきたことの多くは、残念ながら私たちにとってかなりの破滅をもたらすから。

これを書き始めたのは、実は飛行機の中だった。ジェニー・オフィルの『Weather』という本を読んでいたのだけれど、とても素晴らしい本だった。その本の中で、未来にはリンゴが食べられなくなる可能性があると書かれていた。なぜなら、リンゴが熟すためには霜が必要だから。私は「あぁ、めちゃくちゃだ!」と憤慨して、それが曲のテーマになった。

本当に大好きな曲。この曲の真ん中のブリッジが好き。私は最近、あまりブリッジを書かなくなった、なぜかな、ブリッジが苦手。テイラー(・スウィフト)はブリッジが得意で、その話をするの。「どうしてブリッジがそんなに上手なの」って。曲の中でそのポイントに到達するとき、私は「あー、もう何も言う事はない!」と思ってる。

このブリッジは意図的に作られたもので、不思議だけれど現代性にも合う。このアルバムで唯一のリズムマシンが入っているけれど、これは私が社会から離れて、人間の文明の悪影響が及ばない場所に逃避するという、ある種の未来的な想像を描写したもの。「From the Nissan to the Phantom to the plane, we’ll disappear in the cover of the rain / 日産からファントム、飛行機まで、雨にまぎれて消えていく」。このイメージはとても美しくて好き。メロディーも大好きで、とても楽しい曲。

6. Secret From A Girl (Who’s Seen It All)

この曲は、私にとってとても大切な曲。過去の自分に向かって、これまでに学んだ知恵を伝えようと思って書いた曲。私は(自分の昔の曲)「Ribs」を聴きながら、ちょっと変な話だけど聞いていて、その当時の自分のことを考えていた。将来のことや大人になることに不安を感じていて、知らないことがたくさんあった。

その「Ribs」から2つのコードを取り、それを逆にして、未来の私から昔の自分に「大丈夫だよ」と語りかけているようなものにした。この曲は、ニュージーランドでジャックと一緒に書いたもの。ジャックが来たのは2019年の夏の終わりで、ちょうどパンデミック前だったのだけれど、この曲の制作はとても楽しかった。とっても楽しかった。

私の愛犬が亡くなって以来、あまり多くの曲を作っていなかったのだけれど、この曲は私の愛犬について語ってる。2番の歌詞で「Remember what you thought was grief before you got the call / 電話を受ける前の悲しみを思い出してください」と歌うけれど、これは(愛犬の)パールがもう長くはないとわかっていたときにかかってきた電話のこと。深い悲しみを経験し、それを乗り越えなければならなかったことは、私にとって真の成長だった。悲しみを経験したことのある人なら、わかると思う。ちょっと重いけれど、この曲に収められてよかった。

この曲には素晴らしい特徴がある。というかこれは、表記されていないことなのだけれど。私たちが大好きなロビン。私は、若い女性であること、成長することについて、彼女から多くのことを学んだ。だから彼女にメールをして、この曲に参加してみないかと尋ねてみた。彼女が演じているのは、非現実的なフライトアテンダントかな。この曲での彼女をとても気に入っているし、いつも大好き。この曲を一緒にできてとても嬉しい。

7. The Man With The Axe

この曲は、私にとってとても特別なもの。「Melodrama」でおなじみのマレーと一緒に書いた。彼はとても素晴らしい作曲家で、一緒に仕事をするのがとても好き。

この曲は、ニュージーランドで書いた。メロディーが全くない状態で書き続けていたものを持って二日酔いの状態で、彼と一緒にスタジオに行ったのを覚えてる。私は、「これを読んで、奇妙で複雑なコード進行を書いてみて欲しい。自由に変なことをやってくれれば、それに歌詞をなんとなく合わせてみるよ」と言った。

彼はすぐにコード進行を書いてくれて、私は自分が書いたものを見て、それを少しずつ組み合わせていった。ほとんどそのままではないかな。1行ぐらい消したかな。そのことが彼の素晴らしい進行を証明しているのか、それとも私が書いたものがうまくいったのかはわからないけど、私はこの曲の仕上がりを気に入ってる。

8. Dominoes

この曲は、ちょっと奇妙な感じ。(音楽スタジオの)エレクトリック・レディの部屋で、ドアを大きく開けて録音した。外の音が入ってくるのがわかる。あの夏にはたくさん抗議活動が行われていたから、たくさんサイレン音が聞こえてくる、あの年の夏の音って感じで好き。暑くて汗だくで、鳥の鳴き声やサイレンが聞こえる。もう聞いてもらうのが一番だけど、ライブテイクなのがいい。ゆるやかで自然な感じがするの。この曲はちょっと変わっててとても気に入っている。

9. Big Star

この曲は、私の愛犬のことで、とても愛していて、毎日会いたい美しいパールのことを歌っている。パールが亡くなる前に書いて、彼の体に何か異変があることを知る前に書いたもの。今までこれほど尊いものに出会ったことがなかったと思う。たまに尊いものに対して、このまま一緒にいられないのではないかと考えることがあると思う。

面白いと感じるのは、この曲は、彼が元気だった頃に書いたと人に言うと、「ワオ!」と言われる。たまに曲の中で、未来を読むことができるようなことがあって、ずっと書いているとそんな奇妙なことが起こる。この曲は家のピアノの上で書いたと思うけど、彼がピアノの下に寝ていて、私が下を向いて「私がどれだけあなたを愛しているかこの曲に書いていることを、あなたは知ることはないでしょうねぇ」と言ったのを覚えている。

その曲をジャックに持っていくと、彼は追加のコードをくれて、でもそれ以外ほぼ家で書いたもの。私はただ、どれだけ彼を愛しているかを伝えたかっただけで、とてもシンプルになった。誰かを本当に愛しているときにある感覚があって、多くの人が自分の子供に対してそう感じるのではないかと思う。私の犬は私にとって芸能人のようだった。私は彼を見て、親が自分の子供を見たり、自分が本当に尊敬する人を見たりするときに感じる気持ちを感じていた。彼は私にとってスターのような存在で、ずっと彼の写真を撮っていたかったし、彼を眺めていたいと思ってた。

10. Leader of a New Regime

この曲もマレーと一緒に作った曲。彼は、私が書くものとは全く違う、驚くべきコード進行を書いてくれた。ニュージーランドで作ったけど、アルバムの中で何度か触れている「ニュージーランドという島」についてのアイデアが入っている曲。

私の考えでは、この島というのは、最悪の事態に陥ったとき、私たちの世界が手に負えなくなったとき、行く場所だ。人間がまだ台無しにしていない逃避する場所。このアルバムでは、そのことについて何度か言及している。

「Fallen Fruit」の中で逃避すると言っているのはニュージーランドのこと。たとえそれが比喩であったとしても、誰もが心の奥底にそういう場所を持っていると思うし、その比喩がこのアルバムにはとてもよく現れている。私は何度も考えた、逃避するならばって。

このアルバムは、私が今の人生を捨ててどこか別の場所で新たに始めるという空想的なことを描いている。紫外線対策のためにSPF3000をつけようと言っているけど、これは自明のことかな。それに、「Got a trunk full of Simone and Céline, and of course my magazines. I’m gonna live out my days / トランクにはシモーヌやセリーヌ、もちろん雑誌も入ってる。私は私の日々を生きていく」とも歌っているんだけど、スーツケースいっぱいのブランド物と雑誌だけを持って脱出するというイメージは、私にとってとても面白い。

私が言っているのは、シモーネ・ロシャとセリーヌ、つまり私が大ファンである「フィービー・ファイロ・セリーヌ」のこと。ただ、シックな終末論的な逃避行のようなもの。私はこの曲をクロスビーやスティルス・アンド・ナッシュのようなサウンドにしたかった。ジェームス、マーロン、フィービー、クレアが一緒に歌ってくれて楽しかった。

11. Mood Ring

この曲は、私がとても楽しみにしている曲。このアルバムを制作するにあたり、60年代のフラワー・チャイルド文化を深く掘り下げた。社会から脱落して再出発しようとする人たちの生活を理解したかったから。このアルバムを作っているとき、それがとても心に響いた。

当時と現代の大きな類似点として思いついたのは、霊性と擬似霊性、ウェルネスと擬似ウェルネスの文化。マクロビオティック(穀物や野菜、海藻などを中心とした)な菜食主義、セージを焚く、水晶を置く、タロットカードを読み、ホロスコープを読む、などなど。

これらはすべて、当時の彼らが手を出していたことであり、今の私や私の友達が手を出していることでもある。私は「この中にポップソングが入っているかもしれない」と思った。だからこれは、そういった雰囲気を極めて風刺的に表現したもの。気に入ってもらえると嬉しい。

12. Oceanic Feeling

この曲は、(通常盤の)アルバムの最後の曲。この曲も一人で書いたもの。今回のアルバムが私1人で書いた2つの曲に挟まれていることは気に入っている点。

この曲は、ニュージーランドのこと、家族のこと、過去のこと、未来のこと、それらのことを歌ってる。それらのことをただひたすら考えている曲。アルバムの最後を飾る曲にしようと思っていたから、私が考えていたことをまとめたような曲だ。これまでに書いた曲の中でも、最も好きな曲のひとつ。これ以上何を言っていいかわからないけど、本当に大好きな曲。

13. Helen of Troy

ウエストレイクの一番小さな部屋でメロな曲をすぐにたくさん書き上げたんだけど、凄く楽しかった。歌詞は即興的で、ほとんどアドリブのようなもの、私がアルバムのテーマを考え始めているのが伝わってくると思う。

14. Hold No Grudge

この曲は、人間関係が悪化したときの複合的な描写をしている。氷の中に閉じ込められているけれども、温もりも覚えるような感覚の曲。

Lorde – Hold No Grudge (Official Audio)

Written By uDiscover Team

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ロード『Solar Power (Deluxe Edition)』
2021年11月5日発売

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