ハンセン病療養所・松丘保養園入所者の文芸誌休刊 全号ウェブ公開へ

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歴代の「甲田の裾」を前に、思い出を振り返る佐藤自治会長
休刊号となった「甲田の裾」通巻705号

 創刊90年の歴史がある青森市の国立ハンセン病療養所松丘保養園の機関誌「甲田の裾」(同園松桜会発行)が、9月に発行された通巻705号をもって休刊した。入所者の高齢化で文芸作品の投稿や寄稿が減ったことなどが理由。これまでの発行分はデータ化し、ウェブ上で公開している。入所者自治会の佐藤勝会長(73)は「先達が築き上げてきた機関誌を私の代で閉ざしてしまうのは断腸の思い」とし、データ化について「ハンセン病の歴史を若い人に伝えたい。今だからこそ(機関誌を)生かしてほしい」と話している。

 甲田の裾は、旧らい予防法が制定される前年の1930年12月創刊。国の誤った隔離政策によって過酷な生活を強いられた入所者たちが「どうせ泣いても泣ききれないものなら、いっそ笑って過ごそうではないか」と文芸結社をつくり、生活の中で感じる思いを込めた川柳、短歌、俳句、詩などを発表した。

 選者や指導者には、短歌の淡谷悠蔵、俳句の増田手古奈、詩の一戸謙三、川柳の杉野草兵ら本県文芸界のそうそうたるメンバーが関わり、数々の質の高い作品が生み出されてきた。

 誌上には、文芸作品だけでなく、入所者や関係者による文章や証言も残っている。「無らい県運動」による強制隔離、妊娠した女性の堕胎、旧らい予防法に反対する闘いなど、ハンセン病史を今に伝える貴重な記述も多い。

 佐藤会長は「ハンセン病になったばっかりに、どんな思いで人権を奪われてきたか。甲田の裾は、われわれがどうしても伝えたい心の思いを外に伝える唯一の手段だった。松丘の貴重な財産、宝物だ」と振り返る。

 一時は800人いた同園の入所者は現在58人で、平均年齢(10月1日現在)は88.3歳。介護を必要とする人も多く、近年は投稿数が激減。新型コロナウイルスの影響で園内行事が中止になり掲載するニュースが少なくなったことや、編集を担当していた職員が退職したこともあり、休刊を決断したという。

 一方、甲田の裾を後世に残してハンセン病の歴史を知ってもらおうと、同園松桜会が外部業者に委託し、今年7月、創刊号から通巻698号(2019年6月発行)までのデータ化が完了。「甲田の裾電子図書室」としてウェブ上で公開しており、残りの号も今後追加していくという。

 同園の葛西幸治事務長は「作品や寄稿から、松丘での生活や暮らしていた人の思い、地域との関わりが分かる。歴史的資料として保存し、昔のものを見られるようにすることで、ハンセン病の理解を深めてもらうのが目的」と話した。

 甲田の裾電子図書室は、松丘保養園のホームページから閲覧できる。

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ハンセン病 「らい菌」による感染症。末梢(まっしょう)神経がまひし、皮膚のただれなどで障害が残る恐れがあるが、感染力は弱い。1931年の旧らい予防法で強制隔離が法制化し、薬の開発で治療法確立後も差別や人権侵害が続いた。法律は96年に廃止された。隔離政策が終わった後も元患者が暮らす施設として、松丘保養園をはじめ13の国立療養所が運営されている。