『由宇子の天秤』水道橋博士×春本雄二郎監督トーク!ヒットの理由について博士の鋭い考察!

9月17日(金)より絶賛公開中の、瀧内公美を主演に迎えた春本雄二郎監督最新作『由宇子の天秤』が11月3日(水・祝)に渋谷ユーロスペース にて水道橋博士(お笑い芸人/タレント)と春本雄二郎監督のトークイベントを実施。リピーター続出、口コミの広がりが止まらない『由宇子の天秤』の面白さとは一体どこにあるのか。博士流の考察を大いに語っていただいたトークになった。 上映が終わった満席の会場を前に、水道橋博士は「実ははじめ映画のコメント依頼を頂いたときは、失礼ながら監督の名前も知らずタイトルからどんな映画か想像できなくて、お断りしようかとも思っていたんです。しかし実際に観たら、その予感は見事に裏切られました。」と胸の内を語った。 博士は本作へ“映画なのに現実のようであり、役者なのに実在しているようであり、虚構なのに事実のように思える。この作品は人間の営みの真実をスクリーンに切りとっている。普遍的な名作の条件を揃えている。明るく楽しいエンタメの地下水脈に、どす黒い骨太の邦画の血は流れている。”とコメントを寄せている。 「僕は“映画がエンタメ”と語られることへ抵抗がある世代なんです。ずっと10代のときから1人で映画を観てきました。すごく悶々としたものやどす黒い現実を見せられるとか、感情の着地ができないものを観せられて。映画館を出たときに、「あぁ、今は現実なんだ」と思う感じが、僕が思う映画の好きなところなんですよ。僕自身のコメントは、ありえないくらい評価が高いものになりました。僕としては最高傑作だと言っていることになります。」とコメントに込めた思いを語った。

博士は、春本監督の日大芸術学部卒業に着目。「僕は江古田への憧れが強くて(笑)。日大芸術学部派閥の中に自分もいたかった気持ちが強いんです。本作の制作過程をみると、日大芸術学部の関係の方がプロデューサーも含めて、スタッフも関連していて、ああ映画作りっていうのはそういう仲間から始まっていくんだっていうのがすごくよくわかりました。」と語ると、春本監督は「僕の映画作りは、インディペンデント映画と商業映画の間のような感じで、私は独立映画と呼んでいます。それをやるにあたってまず一番最初にしなくてはいけないのは、一緒に映画を作るときに、その表現について同じ方向を向けるかっていう人間としての方が大事だと思っています。それはコミュニケーションをとってきていて信頼できる人をスタッフィングなりをしていかないといけないので、その上で日大芸術学部で一緒にやってきたというベースは、ものすごい役に立つし、有効な武器でした。」と学生時代に培った仲間の大切さを語った。 さらに博士はキャスティングも絶賛。「パンフレットを読んでいて感心したのは、俳優のワークショップをやるなかで、俳優の演技ではなく人間性をみているということ。その人間性の中に演技力があるという見方を春本監督はしていて、「だからかぁ」と思いました。この映画はキャスティングが絶妙だし、本当にその人なんだと思いますね。邦画の商業映画でそういった雰囲気が出来ている映画は稀なんです。なんというか、役者さんの事務所がみえちゃうというか。渾身で役をやっていない感じは伝わってくるし、そこまで観客も求めていないというのもあると思います。やはり娯楽の一環ということで。」と日本映画の置かれている現状を分析。 さらに「僕、若手の芸人に話を聴くと、「(観に行くときに)映画の監督の名前気にするんですか?」って言われるんです。それが僕は不思議です。」と語ると、監督は「僕はよく映画をオーケストラや料理で例えるのですが、指揮者や料理人が監督であると思っています。どれだけ奏者や食材が美味くても、指揮者の発想が貧困だったり、料理人の腕が下手だと台無しになってしまうと思っています。だから、映画は監督次第だと思っています。宣伝でもポスターでも、俳優部の名前がいつも前面に出てしまう状況は良くないなといつも思っています。」と映画監督の重要性を語った。博士は「日本映画も黄金時代があり、監督の名前で観客が入っている時代がもちろんありましたね。黒澤明監督だったり北野武監督だったり。大島渚監督だったり。春本監督は、そういう監督の仲間入りをする監督だと思いました。」と春本監督にエールを贈った。

現在70館以上まで上映館が広がるヒットとなった本作について「コロナ禍でこの作品が口コミでヒットしていることがすごいと思っていて自分なりに現象を観察しています。この作品はSNSで皆が書きたくなる映画なんです。答えがないからなんでしょうね。映画を観た人が自分が映画の中の関係者であるかのように感じているのだと思います。園子温の言葉で言うと、「あなたは誰の関係者ですか?」みたいな。思いを多くの人に求めたくなるんでしょうね。映画を観た人が、「映画を観た?あそこについてどう思う?」って話し合うのが映画の正しい鑑賞の仕方だと僕は思っています。」と博士流の考察を語ると、「映画の解釈って、やはりお客様のものだと思うんです。お客様だけのもので、どれも正解で間違いはないという。だからこそ、自分が感じたことに対して自信を持っていただきたいですし、「何でこれはこうなったんだろうか?」という風に、「何故登場人物がこんな行動をしたんだろうか」とか「これはちょっと自分の選択とは違うな」と思ったら、ぜひそういう時こそ隣の人と語り合ってもらいたいです。また、SNSでつぶやいてくださる方のことに対して、私達が俳優部も含めてリアクションをしたり劇場に来てくださるお客様に直に話をさせていただいたりというのを大切にしています。テレビで大々的に宣伝ができない分、一つ一つの繋がりを大切にしていくというのが、こういう映画は着実に支援してくださるファンを増やしていくにあたって大事な戦略ではないかと思っています。」と、監督は観客との繋がりの重要性を語った。

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