第26回「選挙に行ったけど」

異次元の常識 text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

選挙権を使えば、もっと良い世の中にできるんだよ

2021年10月31日に衆議院選挙が行なわれた。選挙前にはコロナ禍における対応や、モリカケ桜問題などのほかにも、現政権のあまりにもずさんな対応が審議され、野党統一などの今までに見られない戦いによって、自民党単独過半数割れになるのではないかと期待が持たれた選挙であった。 しかし結果としては、自民党の単独過半数を覆すことはできず、立憲民主党、共産党ともに議席を減らす形となってしまった。 自民公明の与党で3分の2議席を確保できなかったことにより、与党のみによる法案再可決が不可能になったのは、自民公明の独断を形式上は止めることができるので明るい結果ではあるが、自民公明の与党に対する不信感の表れとして、議席を大幅に増やした維新の会が、事実上自民党の3軍であるという事実であるために、前途には暗い雲が立ち込めしまうが……。 しかし希望もある。山本太郎率いるれいわ新選組が3議席確保し、参議院と合わせて5議席を獲得したことにより、今後無視できる存在ではなくなり、真っ向から自民公明維新と対立する山本太郎の意見が、公の場で取り上げられる機会が増えていくと思われる。 野党共闘において一番の功労者である共産党も、議席を2つ減らしはしたが、これだけ候補者を取り下げながら2議席減でとどめたのは大健闘と言えるのではないだろうか。 比例で復活してしまったが、政権の現役幹事長である甘利明が落選した事実も、国民の懸命な判断が結果に表れた明るい材料であるし、石原伸晃の落選で比例復活もない事実は、非常に喜ばしい選挙結果であると思う。 そして2021年11月1日の投票日翌日には「1票の格差」問題で弁護士グループが全国一斉提訴を行ない、衆院選の憲法違反による無効を求めた。 以前から最高裁で違憲判断の出されていた1票の格差問題だが、2倍以上の格差がある選挙区では、定員の増減により格差をなくすアダムズ方式をとることが2020年の国税調査に基づいて行なわれると決まった。しかし、実際に新たな定員区割りは2022年から実施されるところから見ても、今回の選挙が違憲状態であることは確かであり、1票の格差問題も注目すべき選挙の争点の一つである。 選挙に行っても変わらないとよく言われる。確かに今回の選挙での自民党単独過半数という結果を見ても、変わっていないのかもしれない。 しかし甘利明の落選や石原伸晃の落選は、今まで好き放題やっていた政治家に、有権者が手痛い一撃を加えた事実として刻まれる。 野党統一は今後続けていくべき方法ではあるが、立憲民主党の共産党アレルギーが問題として残されている。実際は議員というよりも、立憲民主党支持組織の連合なるものの存在が、本当の野党統一への一番の障害のように感じられるが、そうしたマイナス面が見えたことも今後の選挙へのプラス材料だろう。れいわ新選組の3議席獲得も明るい材料だ。 今まで自民党が行なってきた地方への政策は、草の根レベルで見てもかなり浸透している。田舎のおじいさんやおばあさんは、昔からの自民党政策による恩恵を感じているのだろう。その牙城を崩すのは容易なことではないが、そろそろ共産党の草の根活動も一般に浸透している時期がきているのではないかと思える。 来年夏には参議院選挙が行なわれるはずだ。そのときには、今回の教訓を生かして政権交代へ確実に進んでいかなければ、この国は緩やかに壊滅に向かって転がり堕ちていくだろう。 コロナ禍という身の危険に晒されながらの今回の選挙は、危機に対して気づいていながらも、急激な変化による「もしもの失敗」を恐れる国民性が表れた選挙結果であると思うが、緩やかであろうが何であろうが、確実に壊滅する道を歩むのはもうたくさんだ。 俺の子ども、友人の子ども、この国の子どもたちの未来のために、言葉の喋れない人間や生き物、投票行為を理解できない障がいを抱えた人や、動物、自然、この国に住んで税金を払いながら投票権のない国籍を持たない仲間たちのために、俺はせっかく持っている権利である選挙には必ず行く。 毎回毎回、選挙の後には「こんな結果ならいく意味ねぇじゃん」という気持ちがあるのは確かだ。しかし何かの漫画のセリフではないが、諦めたらそこで終わりだ。 消費税が19%になって苦しめられるのは誰だ? 現政権や維新の政策で、福祉に消費税が使われることはないだろう。国民を騙すことに長けた政党を支持した有権者の責任は弱者にのしかかる。医療崩壊が起きた現実で死んでいったのは誰だ? コロナの目の敵にされて店を潰されたのは誰だ? 国民の生活が苦しくなれば、動物たちや植物たちの自然環境や飼育環境も、儲け優先になり蔑ろにされていく。 金持ちを優遇し、弱者を切り捨てる社会が健全でまっとうな社会と呼べるのか? それでもまだ、真綿で首を絞められるように死地へ向かう選択をするのか? 俺はまっぴらごめんだ。もうすでに来年夏の戦いは始まっている。テレビや報道だけを見るのではなく、自分の生活に密接に関係している政治の在り方をよく見つめて、自分だけのためではなく、投票行為をできないものたちのためにも、権利を行使してみないか? 戦前は一部の人間にしか与えられていなかった選挙権を、昔の人が必死に勝ち取ってくれたんだぞ? 選挙権を使えば、誰でも世の中を変えることができるんだよ。あなたの望む世の中にできるんだよ。もっと良い世の中にできるんだよ。今とは違うそんな世の中があったら、楽しいと思わないか?

「選挙に行ったけど」 ギターパンダ

選挙に行ったけど 参加してるのかな?

選挙に行ったけど 昨日と何も変わらない

もう選挙に行かなくなるかも

あれから30年 人心荒廃

煽り運転 汚職事件 嘘

お金なくて腹減ってます

日本中コロナウィルス だって日本防疫下手

飯屋も飲み屋もつぶれ 給付金はしょぼい

もう選挙に行かなくっちゃな

あれから10年 インスタ映えばかりで

VRは派手になっても 現実社会は極貧ジリ貧です

興奮体温上昇 めがねが曇ってしまって

昔の世界には戻って行けない

小さな画面から君と会うだけ

今日本はアナーキーそそり立つ

俺は選挙に行ってやる

投票箱に打ち込んでやる

ピンインいっぱいを

いい子がいつかできますように

これから一年 いま希望と絶望の

せめぎ合いの弥次郎兵衛

君の行動がどっちにでも……

選挙に行ったけど 参加してるのかな?

選挙に行ったけど 昨日と何も変わらない

でも俺は選挙に行くのさ

DEEP & BITESをはじめ、甲本ヒロトを擁したThe COATSや忌野清志郎のThe 2・3'sなど数多くのバンドで活動してきた山川のりをのソロ・プロジェクト、ギターパンダ。「選挙に行ったけど」は、2020年9月に発売された8thアルバム『ギターパンダのロックンロールパンデミック』に収録。

【ISHIYA プロフィール】

ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。

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