金正恩の秘密別荘「異常なイジメ」で護衛兵が逃亡

北朝鮮の各地には、一般国民には秘密にされている「特閣」と呼ばれる施設がある。金正恩総書記やその一家が利用する別荘だ。その警備にあたる人員は、出自や思想などが厳しく問われ、家族との連絡も自由にできないなど、特別な管理下に置かれる。

もちろん、一切の不祥事は許されない。

そこから逃亡者が出たというのだから、ただ事ではない。デイリーNK内部情報筋が詳細を伝えた。

事件の舞台となったのは、北朝鮮の「革命の聖地」である三池淵(サムジヨン)特閣の護衛大隊だ。この特閣は2018年、韓国の文在寅大統領との南北首脳会談でも使われた。

今年の9月下旬、深夜に哨所(監視塔)で勤務に当たっていた下級兵士、21歳のリョム氏が持ち場を離脱、衝動的に中国に逃げ込んだようだ。

彼が中国に逃げた理由は「イジメ」だ。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の通常の入隊年齢は16〜17歳。ところがリョム氏は学校を出て職場に務め、19歳になってから入隊した。

保衛局で勤務経験を持つ彼の父は、息子の上官に当たる三池淵特閣護衛大隊の大隊長に「息子が年をとってから(軍に)入ったので、よく面倒をみてやってほしい」と頼み込み、彼は上官から良い待遇を受けていた。これが、「コネでいい思いをしている」という妬みを買ってしまい、年下の先任兵からイジメを受けたのだ。

年齢による上下関係に厳しい北朝鮮のこと、年下からイジメられることは極めて屈辱的で、プライドを傷つけられたに違いない。

イジメに耐えかねたリョム氏は、大隊長に訴えて別の小隊に異動させてもらったが、状況はさらに悪化。古参兵は、洗濯などの雑用一切を彼に押し付け、壁際に立たせておでこを指でつつきながら侮辱的な言葉を浴びせかけ、全裸で性的な行為を強いるなど、異常なまでのイジメが続いた。

エリート部隊と言っても、各自の人格まで優れているわけではない。

軍でのイジメが脱北につながった事例は今までも数多く存在するが、選ばれし者だけが勤務を許される保衛大隊から脱北者を出したことは前代未聞の事態。この20年間なかったことだという。

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