【レースフォーカス】会心の優勝に笑顔のバニャイア。今季初の転倒リタイアに浮かない表情のクアルタラロ/MotoGP第17戦アルガルベGP

 フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)とファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が第17戦アルガルベGPの決勝レース後に浮かべた表情は、前戦エミリア・ロマーニャGPとはまったく逆転していた。今季3勝目を挙げ、表彰台の頂点で破顔したバニャイア。対するクアルタラロは転倒でレースを終え、がっかりした様子を隠さなかった。
 
 アルガルベGPはアウトドローモ・インターナショナル・アルガルベでの今季2度目のグランプリとなった。初日から好調だったのはバニャイアだ。前戦エミリア・ロマーニャGPではトップ走行中に痛恨の転倒を喫し、それによってタイトル争いに決着をつける形にはなったものの、今大会でも速さは健在だった。
 
 予選では第3戦ポルトガルGPでクアルタラロが記録したオールタイム・ラップ・レコードを0.137秒更新し、5戦連続となるポールポジションを獲得。決勝レースではスタートで2番グリッドからスタートしたチームメイト、ジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)に先行されるも、1コーナーの立ち上がりでミラーをかわし、トップに立った。そこからバニャイアに仕掛けられる者はいなかった。バニャイアは少しずつ確実に2番手のライダーとの差を広げていった。24周目に入ったとき、ミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)とイケル・レクオーナ(テック3・KTM・ファクトリーレーシング)が絡むクラッシュが発生し、このアクシデントによって赤旗終了。23周を完了時点の順位が結果となり、3勝目を挙げた。
 
 決勝レース後の会見で、バニャイアは「MotoGPキャリアの中でも最高の週末だったんじゃないかな。すべてのセッションで楽しめた。バイクにいいフィーリングがあれば、なにもかもうまくいきやすい」と、このレースウイークに満足の様子。この結果を見るとついタラレバを考えたくなるものだが、バニャイアは「もし前戦で優勝していたら、完ぺきだったよね。でも、僕たちは現実的でなければならない。僕はとても楽観的な人間で、常にいい方向に考える。でも、人生というのはこういうものだよ」と冷静だ。
 
 また、タイトル争いから解放された今回のレースはエミリア・ロマーニャGPとはどう違っていたのかと問われると、今大会もミサノと同じようにレースをしたと語った。
 
「ミサノでは、チャンピオンシップの可能性を残そうと頑張った。でも、チャンピオンを獲得するのはすごく難しいってわかっていたんだ。もしミサノで僕が勝っていたら、クアルタラロは今日、クラッシュしなかったと思う」
 
「(今回のレースでも)ミサノと変わらなかった。僕はミサノと同じレースをしたし、ミサノのときと同じように攻めた。前回はちょっとアンラッキーだった。転倒してしまったからね。今回は転倒しないですんだよ」

 さらに「(ミサノでフロントに選択した)ハードタイヤを履かなかったからかも……」と最後にはジョークを交えた。これにはバニャイアの後塵を拝したジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)が「僕は君がハードを履いてくれればなあと思っていたよ」と笑いながら冗談交じりに言い、ミラーがそんなミルに「君は(ハードタイヤを示す)“イエロー”を待っていたんだろ」と突っ込んでいた。
 
 ともあれ、バニャイアはまさに胸がすくような勝利を飾ったわけだ。アルガルベGPでは、バニャイアの優勝によって、ドゥカティが昨年に続きコンストラクターズタイトルを獲得している。

 また、今回バニャイアやミラーには、一人の“コーチ”がいた。アルガルベGPを訪れていたケーシー・ストーナである。2007年にドゥカティで、2011年にホンダでチャンピオンに輝き、2012年シーズンを限りに引退したレジェンドライダーであるストーナー。木曜日には急きょストーナーの会見も実施された。
 
 ミラーは予選後の会見で「フリー走行4回目まではセクター4でちょっと苦戦していたんだけど、ストーナーがこつを教えてくれたんだ」とコメントし、バニャイアは「最終コーナー立ち上がりのことで、彼のアドバイスが役立ったよ」と語るなど、今回、バニャイアやミラーはストーナーからアドバイスをもらったのだとか。
 
 バニャイアが語ったところによれば、「ケーシーがまだ、ライダーのメンタリティを持っているのがいい。だから僕らの心の中、状況をよく把握できるんだ。コーチの仕事は、コースに出て他のライダーが何をしているかを見て、ピットに戻って僕たちに伝えること。彼はコーチのようなことをしていた」という。引退から9年。ストーナーは今も、存在感を示しているようだった。
 

■ミルが獲得した初めてのフロントロウ

 アルガルベGPでは、ミルがMotoGPクラスで初めて予選でフロントロウを獲得した。しばしば言われているように、スズキの課題の一つは予選であり、これまで2列目、3列目からスタートして決勝レースで追い上げる展開が多かった。
 
 ミルは予選後、第14戦サンマリノGP後に行われたミサノテストで投入された、新たなライド・ハイ・デバイスが効果的だったと語っている。フロントロウから臨んだ決勝レースでは1周目に2番手に浮上し、バニャイアを追いかけた。その差は次第に広がっていったが、同時にミルを脅かすライダーもいなかった。ミルは2位でレースを終え、今季6度目の表彰台を獲得した。

 ミルは決勝レース後にライド・ハイ・デバイスについてこう触れている。
 
「もちろん、(レース中に)ライド・ハイ・デバイスを使ったよ。みんな使っているものだからね。明らかに加速がよくなった。それは確かに一つのキー・ポイントだった。(デバイスがあれば)加速を得られる場所があるといつもわかっていた。ウイリーを抑えられるからね。僕たちはこのデバイスを改善していかないといけない。今のものはプロトタイプの2代目だ。来年はもっとよくなるはずだ」

■今季初の転倒リタイアに終わったクアルタラロ

 さて、終わってみればバニャイアが制したアルガルベGPとなった一方で、エミリア・ロマーニャGPでチャンピオンを獲得した新王者クアルタラロにとっては“予想外”の週末となったと言えるのではないだろうか。
 
 初日のフリー走行1回目から土曜日のフリー走行3回目まで、クアルタラロはバニャイアとともにセッションをけん引していた。3回のフリー走行では、この二人が1番手、2番手を占めていたのだ。金曜日のセッション後には「プレッシャーもなく、初めてほんとに楽しむことができた」とタイトル争いから解放された週末について語っていたのだが……。
 
 風向きが変わったのは、予選である。クアルタラロはQ2の前半のアタックで記録したタイムが黄旗区間を通過したものだったために取り消され、後半のアタックで記録したタイムは7番手だった。「セッティングが機能したものもあったけれど、僕たちの強みである最終セクターでうまくいかなかった。それにグリップも思ったような感じではなかった。セクターによってよかったり悪かったりしていた。それに、フリー走行4回目でもフィーリングがそんなによくなかった」と、全体としてまとめきれなかったようだ。

 決勝レースではホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)、ヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)のドゥカティを駆る二人との5番手争いとなり、7番手走行中の21周目に5コーナーでスリップダウン。2021年シーズン、初めて転倒リタイアでレースを終えた。
 
 レース後、取材の中で浮かべていたクアルタラロの声色は明らかに沈んでいた。今季、ここまではっきりと失望の色を浮かべるクアルタラロはあまり見なかったように思う。転倒リタイアで終わったことだけではなく、思うようなレースができなかったことがその背景にあるようだった。
 
「ドゥカティの後ろで詰まっていて、速く走れなかったんだ。レース全体でね。ペースはあったんだけど。僕は15周もマルティンの後ろを走っていて、彼のラップタイムが1秒以上僕より遅くても、僕はオーバーテイクができなかった」

「ただ、予選で失敗して、僕たちが持っているスピードではかなり遅れをとるとわかっていた。限界で攻め続けていたし、たくさんミスもした。クラッシュではブレーキングが遅すぎたところ、旋回に入ろうとした。だから、どうしてクラッシュしたのかは自分でわかっているんだ。とにかく、こういう難しさがあるってことが残念でならないよ。バイクはすごく乗りやすい。ただ、このスピードではミスは許されないんだ」

「グリッドがよければ優勝争いができたと思うよ。でも予選でミスをすれば、表彰台にも優勝にも『バイバイ』だ」

 つまり、彼自身がしばしば言及してきたように「スピードが足りない」ということだろう。今季はエンジンのアップデートができなかったこともその要因にはある。

「エンジンについてかなり取り組まないといけないと思うよ。そうじゃないと、今後は難しいだろうと思う」

 エミリア・ロマーニャGPとは反対に、バニャイアとは対照的な表情で週末を終えたクアルタラロ。最終戦となるバレンシアGPでは、どのような表情でシーズンを締めくくることになるだろうか。

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