後継者難倒産が累計309件、年間最多を更新する可能性も【2021年1-10月】

 2021年1月-10月の『後継者難』の倒産は累計309件(前年同期比2.6%増)に達し、年間最多だった2020年の372件を超える可能性が出てきた。倒産全体(5,016件)に占める構成比は6.1%で、前年同期(4.5%)を1.6ポイント上回って推移してる。
 産業別の最多は、サービス業他の68件(前年同期61件)で、『後継者難』倒産の約2割(構成比22.0%)を占めた。次いで、建設業58件(前年同期65件)、製造業55件(同51件)と続く。
 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が165件(前年同期比0.6%減)で、構成比は53.3%と半数以上を占めた。
 負債額別は、1億円未満が219件(同2.2%減)で、7割(構成比70.8%)を占めた。ただ、1億円以上5億円未満79件(前年同期66件)、5億円以上10億円未満8件(同6件)と負債が大型化の兆しも出ており、小・零細企業から中堅規模でも事業承継が経営課題に浮上しているようだ。
 『後継者難』倒産の309件のうち、代表者の「死亡」が164件(構成比53.0%)と、半数以上を占めた。また、「体調不良」も94件(同30.4%)を数え、この2要因で83.4%を占めた。
 中小企業は代表者が経営全般を担うことが多く、代表者に不測の事態が生じた場合、事業継続が難しくなる。さらに、業績回復が遅れた企業ほど後継者育成が後手に回り、代表者の高齢化とともに業績悪化からの立ち直りが難しく、事業承継が重要な経営課題になっている。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年(1-10月)の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

『後継者難』倒産309件、倒産全体の6.1%を占める

 2021年1月-10月の『後継者難』倒産は、309件(前年同期比2.6%増、前年同期301件)だった。  負債1,000万円以上の倒産(2021年1月-10月、5,016件)は、コロナ禍の資金繰り支援策が奏功し低水準にとどまっている。ただ、『後継者難』倒産は全体の6.1%(前年同期4.5%)を占め、1.6ポイント上昇した。
 ここ数年、金融機関の審査は事業の将来性などを含めて判断する「事業性評価」が浸透してきた。その基準の一つに従来の財務内容だけでなく、事業の持続性を見るための後継者の「有無」が大きな材料になっている。
 多くの中小企業は、代表者が経営全般を担っている。長引くコロナ禍で業績回復が遅れ、後継者育成や事業承継への準備が進んでいない。さらに、代表者の高齢化は、長期的な経営ビジョンを打ち出せず、事業へのリスクが高まっている。中小企業の後継者難は、個別企業の問題にとどまらず地域経済の衰退を招く可能性もあり、事業承継への支援が急務になっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割

 『後継者難』倒産の要因別は、代表者などの「死亡」が164件(前年同期比25.1%増、前年同期131件)で最も多い。1-10月では2年連続で前年同期を上回り、調査を開始した2013年以降では、最多件数を記録した。構成比は53.0%で、前年同期(43.5%)より9.5ポイント上昇した。構成比が50%台は、2019年同期(51.9%)以来、2年ぶり。
 また、「体調不良」は94件(前年同期比10.4%減、構成比30.4%)で、2年ぶりに減少した。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計258件(前年同期比9.3%増、前年同期236件)に達し、2年連続で前年同期を上回った。また、1-10月では件数が最多となった。構成比は83.4%(前年同期78.4%)で、前年同期より5.0ポイント上昇した。
 そのほか、「高齢」は32件(前年同期比11.1%減、構成比10.3%)で、3年ぶりに前年同期を下回った。

後継者難

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少は5産業、1産業が前年同期と同件数だった。
 最多は、サービス業他の68件(前年同期比11.4%増)で、1-10月では2016年以降、5年連続で前年同期を上回った。サービス業他では、広告業(ゼロ→5件)、建築設計業(1→5件)を含む学術研究,専門・技術サービス業が16件(前年同期5件)、美容業(2→4件)を含む生活関連サービス業,娯楽業が9件(前年同期5件)などが増加した。
 そのほか、製造業55件(前年同期比7.8%増、前年同期51件)が2年連続、金融・保険業1件(前年同期ゼロ)、不動産業21件(前年同期110.0%増、前年同期10件)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。
 増加率が最も大きい不動産業は、不動産代理業・仲介業(3→7件)、貸事務所業(2→6件)で、増加が目立つ。
 一方、建設業58件(前年同期比10.7%減、前年同期65件)、卸売業49件(同5.7%減、同52件)、情報通信業7件(同12.5%減、同8件)が2年ぶり、農・林・漁・鉱業2件(同60.0%減、同5件)、小売業36件(同2.7%減、同11.6%)が3年ぶりに、それぞれ減少した。

後継者難

【形態別】破産の構成比が初めて90%台に

 形態別では、最多が「破産」の284件(前年同期比6.7%増、前年同期266件)で、1-10月としては前年同期を超え、最多件数を更新した。『後継者難』倒産に占める構成比は91.9%(前年同期88.3%)で、1-10月では初めて90%台に乗せた。
 「特別清算」は14件(前年同期比75.0%増、前年同期8件)だった。
 「破産」と「特別清算」は合計298件(前年同期比8.7%増)で、構成比は96.4%(前年同期91.0%)に達し、『後継者難』倒産はほとんどが消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は前年同期と同件数の1件。会社更生法は、調査を開始した2013年以降、1-10月では発生がない。

【資本金別】1千万円未満が半数以上

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が165件(前年同期比0.6%減、前年同期166件)。『後継者難』倒産に占める構成比は53.3%(前年同期55.1%)と、5割を超えた。
 一方、1億円以上は前年同期と同件数の1件だった。

【負債額別】中堅規模での倒産が増加

 負債額別では、1億円未満が219件(前年同期比2.2%減、前年同期224件)。『後継者難』倒産に占める構成比は70.8%(前年同期74.4%)で、小規模倒産を主体とした推移が続いている。
 ただ、1億円以上5億円未満は79件(前年同期比19.6%増、前年同期66件)、5億円以上10億円未満は8件(同33.3%増、同6件)で、それぞれ2年連続で増加した。小・零細企業だけでなく、中堅企業でも事業承継の問題が深刻となってきている。

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