雪山こそが山登り!…体力と経験と専用装備は必須、まずは近くの山で楽しさを【ふくいのそと遊び】

甲斐駒ヶ岳山頂にて。体力と装備は大切ですが、雪山は楽しい!
明神岳から臨む前穂高岳
北穂高岳東稜、ゴジラの背。「雪山こそ私にとっての山」です
雪の取立山。遠くに行かなくても雪山がある福井。思いがけない光景に出会えるかも

  気持ちのよい小春日和がつづきますね。

 紅葉がうつくしくて、秋のそらは高く空気が澄んで眺望がすばらしく、山ごはんと山おやつはしみじみ美味しくて。

 そんなたのしい秋の山ですが、山登りをたのしむ皆さまのなかには「雪が積もると山に行けなくなるから・・・」とお休みごとに何かにせかされるように山に向かう方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 かくいう私もそうでした。

 雪解けを指折りかぞえて登山の一歩をふみだしたのが春。

 舗装されていない土や葉っぱのを踏みながら歩く楽しさ、ふぅふぅ息がきれて信じられないくらい汗だくになりながら一歩一歩登っていった先に出会えた風景というごほうびが嬉しくて、なんでもないコーヒーやおやつがびっくりするほど美味しくて、山道は下りでこそ筋肉が鍛えられることを身に沁みながら登山口まで無事戻ってきたときの達成感。下山後のおふろが「これぞ極楽、極楽」なこと。心地よい疲労感とともにぐっすり眠るその夜。翌日には筋肉痛にうめいたりするのも登った余韻のひとつになったり。

 暑さ対策と水分補給に苦心した夏山シーズンをすぎて、風もここちいい秋山シーズンを迎えて。

 こんなにたのしいのに雪が積もっちゃったら山に行けない・・・・

 しかもその当時、私は筋力不足からくる下山時のひざ痛に悩まされていました。

 沈痛な面持ちで遊山行を訪れたら。(当時は太田さんご夫婦がお店を切り盛り。私は客のひとりとして二日とあけずに事務職の仕事がおわったら遊山行にむかう日々でした)

 あーあ、と嘆く私に三枝子さんは

 「なに言ってるのー。雪が降ってからがたのしいんじゃないのー」

 心底おかしなこと言ってて笑っちゃう、といった風でした。

 しかも「下山時は雪山のほうがひざも痛くなりにくいのよ」

 あまりに想定外なことばに半信半疑のまま、そんな嬉しすぎることがあるのかしらんと思いながら、翌々日の『遊山行マウンテニヤリングツアー:雪の取立山』に向かうべく、冬用パンツ、雪山用の靴、和かんじき、アイゼン、ピッケルをその場で購入したのでした。

 そして迎えた当日。

 同行のベテランの皆さんの目配り気配りに守られて私の雪山デビューは快晴の空のもと、なんともたのしい一日となったのでした。そしてその日を境に、私は「雪山こそ私にとっての山、無雪期の山は地形をみるなど雪山への備え」という考えに変わってしまったのでした。⇒快晴の取立山で雪山デビューの山日記

 「言われなくても雪山に興味はあるんだよー」なんて方もいらっしゃることでしょう。

 雪山への一歩をふみだすために必要なものはなんでしょうか。

 雪山と一口に言っても一瞬一瞬が命を奪いにくるような山もあれば、条件やルートによってはとことん遊ばせてくれる山もあります。

 いわゆる雪山に向かう際に必要なものはなんでしょうか。

 私は何よりもまず ①導き手 ②雪山装備 ③体力 の三つだと思います。

 ①雪山は登山道以外のルートをとることが多いです(つづら折りの道は直登したり)。気象条件も夏山以上にころころと変わります。歩みをすすめるうえでの雪質の判断はもちろん雪崩の危険性もあります。まずは信頼できる経験者にリーダーになってもらいましょう。

 ②雪山はなんといっても装備が大切です。そしてその装備を場面に応じてしっかりと「自分で使いこなす」ことが重要です。たと

えばピッケルをどう持つか。急登のとき、トラバース(斜面を横ぎる)のとき、下りのとき。どんなふうに持ち、足をすべらせたときにはどう構えるのか。和かんじきやスノーシュー、アイゼンは事前の緻密な調整が不可欠です。そして必要な場面を適宜判断し、脱着は雪山用の手袋をしたままで素早く。和かんじきやアイゼンは装着の仕方が不十分だとその性能をしっかり発揮することができません。

 ③雪山登山では無雪期の山にくらべてたくさんの装備・道具が必要です。その重量だけでも数kg、保温のための衣類もかさばりますし、それなりの雪山に向かうとなると靴も重くなります。アイゼンが軽いものでも片足500g弱。冬靴とアイゼンで両方の足に1kgずつ計2kgを足元につけて歩くことになります。山の世界では『足の1kgは肩の5kg』ということばを聞きます。それほどに足元が重くなることは体に負荷が大きくなるということをうまく表現したことばだと思います。

 そして雪山ならではのラッセル。ラッセルとは深く積もった雪をかき分け崩しながら、雪を踏み固めて道をつくりながらすすむことです。ラッセルが大幅に体力を消耗するので複数パーティのときは交代でラッセルしながらすすみます。

 また、雪山では「ゆっくり休憩しながら行けばいいよ」は時として(というよりほとんどの場合で)当てはまりません。雪山で立ち止まることは身体を冷やすこと。また積雪や降雪の状況では予定よりもペースを上げて行動しつづけなければならないことも多々あります。

 雪山が無雪期の山よりもリスクが高いことは今更ことばを尽くすまでもないかもしれません。無事に帰ってこそ登山。雪山に向かうには体力が必要です。

 いわゆる雪山登山は人にたいして安易に勧めることができる類のものではありません。

 装備をそろえるだけでもかなりの出費・・・ 時間とおカネ、たいせつな二つをがっちり奪っていきます。

 それでも雪山に向かいたい方には先の三つを最低限お願いします。

 さて、ここまで読んでいただいて「いったい雪山を勧めてるのか、やめておきましょうと止めているのかどっちやねん!」てお思いかもしれません。

 雪山にはとことん遊ばせてくれる山もある。

 そう、雪国福井は恵まれています。遠くにいかなくても雪が、雪山があるんですから。

 たとえば文殊山や鬼ケ岳。

 365日誰かが登っている山、たくさんの常連さんに愛される山。

 お天気のよい日にゴム長靴で向かってみましょう。せめてストックはバスケットを冬用の大きなものに付け替えて。ゴム長靴に装着できるチェーンスパイクがあるとなお良しです。

 日が射すと木の枝から雪がパサパサ落ちてくることも多いのでレインウェア必携です。休憩時に羽織れるフリースや手袋が濡れてしまった場合にそなえて替えの手袋も。福井の湿り雪対策で防水手袋があると安心です。休憩時のあたたかい飲み物やカイロも忘れずに。

 近場の山でも白く雪化粧すると、樹木の葉がすっかり落ちていたり、そもそも歩くところが雪でかさ上げされて目線がたかくなっていたりして思いがけない景色をみせてくれますよ。(登山用品店「遊山行」=福井市 服部佐和子)

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