【横浜・旧大口病院点滴殺人】元看護師に無期懲役判決 完全責任能力認定も「死刑に躊躇」

横浜地裁

 横浜市神奈川区の旧大口病院(現横浜はじめ病院)で2016年9月、入院患者の男女3人の点滴に消毒液を混入して中毒死させたなどとして殺人と殺人予備罪に問われた元看護師久保木愛弓被告(34)の裁判員裁判の判決公判が9日開かれ、横浜地裁は無期懲役(求刑死刑)を言い渡した。

 判決理由で家令和典裁判長は、起訴内容を認定した上で「看護師の知見と立場を利用し、計画性が認められる。被害結果も極めて重大」と指摘した。

 一方で動機の形成過程や被告の性格傾向を踏まえ「死刑を選択することに躊躇(ちゅうちょ)を感じざるを得ない」とし、「生涯をかけて犯した罪の重さと向き合わせることで償いをさせ、更生の道を歩ませるのが相当」と結論付けた。

 動機の形成過程について「被告の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響している。酌むべき事情といえる」とした。また、「各犯行は反社会的だが、被告にはもともと反社会的な価値観や性格傾向があったとは認められない。他者への攻撃的傾向も認められない」とした。

 公判の主要な争点だった被告の責任能力については弁護側、検察側がそれぞれ主張の根拠とした二つの精神鑑定結果を踏まえ、被告に「自閉スペクトラム症の特性がある」とし、犯行当時は「うつ状態」だったと認めた。弁護側の「統合失調症の影響による心神耗弱状態だった」との主張は退け、「弁識能力や行動制御能力が著しく減退してはいなかった」と完全責任能力が認められるとした。

 判決では、被告が幼少のころから内向的な性格で友人が少なかったことや、対人関係が苦手だったとした。犯行に至った背景に関し、急変した患者が死亡して遺族から怒鳴られる経験をしたことで「自分が勤務していないときに患者が死ねば、家族から責められるリスクが減るという発想が浮かぶようになった」とし、「16年夏ごろ、夜勤時に患者の未使用の点滴に消毒液を混入し、後に投与された患者が死んだことを知った」とした。

 判決を受けて横浜地検の安藤浄人次席検事は「判決内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とした。

 判決などによると、被告は16年9月15~19日ごろ、入院患者の女性=当時(78)、男性=同(88)、男性=同(88)=の点滴に消毒液を混入して、同16~20日に殺害した。また、同18~19日ごろ、投与予定の点滴袋や生理食塩水計5個に消毒液を混入した。

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