「愛の不時着」ヒョンビン、『シークレット・ミッション』キム・スヒョン、『義兄弟』カン・ドンウォン―韓国ドラマ、映画に登場する北朝鮮側の主人公はなぜかイケメンばかり

北朝鮮を題材にした作品というと、最近では北朝鮮将校と韓国の財閥令嬢の恋を描いて人気を呼んだドラマ「愛の不時着」を思い浮かべる人も多いかもしれません。映画では毎年のように何らかの形で北朝鮮を題材にした作品が作られています。

『シュリ』や『JSA』に始まって、『シークレット・ミッション』、『サスペクト 哀しき容疑者』、『コンフィデンシャル/共助』など、最近では『鋼鉄の雨』や『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』と、いくらでもタイトルを挙げられそうです。

数多く作られてきた北朝鮮物の映画の中でも、特に忘れられないのがソン・ガンホとカン・ドンウォンが主演し、550万人を動員した2010年のヒット作『義兄弟 SECRET REUNION』です。日本でも同年秋に公開されたので、劇場でご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。現在おうちでシネマートにて独占配信中です。

あれから11年経った今、この作品を見返してみて、主演二人の掛け合いや今も色褪せないストーリーの面白さを始め、見どころが本当にたくさんあることに改めて気づかされました。

国家情報院で北朝鮮スパイ摘発に従事するイ・ハンギュは、脱北した金正日のいとこの暗殺計画を察知し独断で阻止しようとしますが、党が送り込んだ暗殺者“影(シャドー)”は暗殺を遂行し逃亡。その時“影”と一緒にいた北朝鮮工作員ソン・ジウォンの存在に気づいたハンギュですが、結局責任を問われて情報院を追われてしまいます。

6年後、逃げた外国人花嫁を捜す探偵まがいの仕事で稼いでいたハンギュは、ある日ベトナム人労働者が多く働く工事現場でジウォンに遭遇し、彼にかけられた報奨金目当てで自分の仕事に誘います。

北にいる妻子を呼び寄せるための資金が必要なジウォンは、ハンギュの素性を知りながら誘いに応じ、彼の家で同居を開始。二人は一緒に仕事をするうちに心を通わせていきますが、一方で互いを盗聴し合っていました。間もなく、裏切り者を粛清するため、再び“影”が北からやって来て……。

『義兄弟 SECRET REUNION』おうちでCinem@rtにて独占配信中 ©2010 SHOWBOX / MEDIAPLEX ALL RIGHTS RESERVED

この映画が公開された当時、彼らの関係は“男の友情”“魂の触れ合い”といった言葉で語られていましたが、これは今だと“ブロマンス”と表現される間柄と言っていいでしょう。二人が抜群のコンビネーションを発揮して逃げた花嫁を追う様子、その中で見せる彼女たちへの優しさ、ぎこちない同居生活の中で相手を思いやるようになっていく過程が楽しく心和みます。

ハンギュを味オンチと言っていたジウォンが、彼の好きなハンバーガーを食べるようになり、ジウォンがニワトリをつぶして作った鶏鍋にハンギュが舌鼓を打つ場面は、二人が通じ合ったということがそれだけでわかる象徴的なシーンです。

激しいアクションや銃撃戦、彼らの対決の行方がどうなるのか、サスペンスとしての面白さに最後まで惹きつけられますが、それ以上にハンギュとジウォンの関係の行方が気になるはずです。ソン・ガンホとカン・ドンウォンが二人の距離感を見事に演じて、彼らにしか出せない絶妙な空気をスクリーンに充満させました。

ハンギュの同僚役のパク・ヒョックォン、ベトナム人組織のボス役のコ・チャンソク、非情な“影”を迫力ある演技で見せたチョン・グクファンら、今ではお馴染みとなった個性派俳優の存在も強く印象に残ります。

本作は青龍映画賞、百想芸術大賞、韓国映画評論家協会賞で受賞し作品的にも高く評価されました。デビュー2作目で大きな成功を収めた監督のチャン・フンは、翌年は『高地戦』でも多くの賞を獲得。そして、2017年には再びソン・ガンホを主役に迎えた『タクシー運転手 約束は海を越えて』が1200万人を動員する大ヒットを記録しました。市井の人々に向けた温かな視点は『義兄弟』の頃から一貫しています。

それにしても、ヒョンビン、キム・スヒョン、コン・ユ、チョン・ウソン……と、映画に登場する北朝鮮側の主人公はなぜかイケメンばかり。だからこそ観客が感情移入しやすいわけですが。本作では、哀愁漂う瞳でジウォンを演じたカン・ドンウォンに、思い切り心を揺さぶられてしまうはずです。


Text:小田香

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