第2次岸田内閣発足、首相の早期訪中はあるのか? 長期政権への鍵は「知力」の結集

By 内田恭司

初閣議を終え、記念写真に納まる岸田文雄首相(前列中央)と閣僚ら=10日午後10時38分、首相官邸

 岸田文雄首相は10日の特別国会で第101代首相に選出されたが、課題は山積だ。新型コロナウイルス対策、自民党改革に加え、経済対策や対中国政策も待ったなしだ。首相による早期訪米と訪中も検討課題に上るだろう。長期政権を見据え、首相は来年1月からの通常国会を乗り切り、夏の参院選勝利を目指すが、そのためには政権にどれだけ「知力」を結集できるかにかかっている。(共同通信=内田恭司)

 ▽自民はさらなる議席増も

 岸田首相の政権基盤は当面安泰だ。自民党総裁として臨んだ先の衆院選で大幅減との下馬評を覆し、追加公認を含めて公示前の276議席から15減の261を得たからだ。公明党を加えると与党で293と、過半数(定数465)を大幅に上回った。自民党は細野豪志元環境相ら3、4人の保守系無所属議員の入党や会派入りも見込まれる。

 政権の布陣も固まった。小選挙区敗北を受けて辞任した甘利明氏の後任幹事長に茂木敏充外相を充てた。茂木氏は「人望がない」とも評されるが、経済産業相や党政調会長などを歴任した次世代の実力者だ。旧竹下派(平成研究会)の会長代行を務め、跡目を継ぐ。安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁との関係もいい。

衆院本会議で第101代首相に指名され、起立する岸田文雄首相=10日午後2時58分

 平成研と、岸田派の源流となる宏池会は元来、政策的な距離が近い。この両派と、宏池会から分かれた麻生派の三大派閥が主流派となって政権を運営していくことになる。

 主流3派は初当選組の勧誘を優位に進めている。ベテランの引退や会長本人の落選などで存続の危機にある石破派や石原派からメンバーの移動もあれば、勢力はさらに増す。

 首相はこの態勢の下、最大派閥の細田派を継ぐ安倍氏に配慮しつつ、距離を保つことで政権運営の自由度を得ようとするだろう。総裁選で争った河野太郎党広報本部長と、支援に回った菅義偉前首相、非主流派に転じた二階俊博元幹事長に対しては、政局封じのために警戒とけん制を続けていくとみられる。

 ▽政策活動費の透明化が焦点

 さて本格始動した岸田政権の課題としてまず挙げるべきは、コロナ対策と、総裁選の公約に掲げた自民党改革だろう。

 コロナ対策だが、ピーク時に比べて新規感染者数が激減したとはいえ、冬場の第6波襲来に備えて、後手に回ることなく対策を講じる必要がある。肝要になるのは、ワクチンの3回目接種の円滑実施と、経口型治療薬の早期普及だろう。特に経口型治療薬は「ゲームチェンジャー」とも言われ、コロナを「普通の風邪」に変える可能性を秘める。

 開発は米国が先行しており、岸田政権は確保と国内での開発に全力を挙げなければ、ワクチン不足で批判を招いた菅政権の二の舞いになりかねない。

 自民党改革は茂木氏の手腕によるところが大だ。岸田首相は、権限の集中をなくすため、幹事長ら党役員の任期制導入を掲げたが、改革のポイントはそこではない。

就任記者会見する自民党の茂木幹事長=4日午後、東京・永田町の党本部

 幹事長の力の源泉は人事権もさることながら、一手に握ることになる党の潤沢な政治資金であり、その中核をなすのは「政策活動費」だ。

 政策活動費は、政治活動全般に支出できる資金だが、支出の目的や対象は極めてあいまいだ。政治資金収支報告書をめくると、党から幹事長に対して、政策活動費として1回に数千万円、年間で計数億円もの支出があったりするが、使途については一切の記載がない。官房機密費なみの「闇金」と言っていい。

 この政策活動費の透明化こそが党改革の焦点だと指摘したい。法改正で罰則導入にも踏み切れるだろうか。茂木氏の問題意識が問われる。

 ▽政官5人で財務省チーム

 コロナ対策と党改革について触れたが、岸田政権における政策実行の「本丸」は、やはり経済政策と対米、対中外交だろう。政権が前面に出す経済安全保障も絡む。岸田首相は、これらの分野を官邸主導で進めるため、足元に永田町と霞ケ関から人材を集めた。

 首相側近で岸田派の木原誠二官房副長官と村井英樹首相補佐官、小林鷹之経済安保担当相の政治家3人をはじめ、嶋田隆筆頭首相秘書官、宇波弘貴、中山光輝、荒井勝喜、中込正志各首相秘書官らがそうだ。秋葉剛男国家安全保障局長と滝崎成樹官房副長官補も官僚出身として列に連なる。

記者会見する木原官房副長官=5日午後、首相官邸

 この10人のうち、政治家3氏と宇波、中山両氏の計5人が財務省出身だ。秘書官の2氏は政治家3氏より年次が上で、ともに主計畑を歩んできた。宇波氏は主計局次長を経ての官邸入りで、5人のリーダー格となる。経産事務次官を務めた嶋田氏の秘書官就任は異例だ。荒井氏は同省商情報政策局長からの転身となった。

 秋葉氏も外務事務次官を経験した。外務省アジア大洋州局長だった滝崎氏は、2016年のG7広島外相会合準備事務局長として、ホスト役だった当時の岸田外相を支えた。中込氏は秘書官として岸田外相の手足となった。

 ▽ポイントは積極的な外資導入

 岸田首相は経済政策の理念として、「分配と成長」のための「新しい資本主義」を打ち出し、「令和版所得倍増計画」と「デジタル田園都市構想」の推進を掲げてきた。「財務・経産チーム」の課題はその具体化だ。

 内容は明確にならないが、岸田派関係者によると、首相が表明した金融所得課税の強化は、結局は一般投資家が対象の大衆課税になるので導入は簡単でないという。

 では計画や構想の柱は何か。一つ挙げるとすれば、関係者は「大規模な外資導入がポイントになる」と指摘する。岸田政権は経済安保に絡み、半導体など海外先端企業の工場誘致を進める。1兆円の投資なら最大で半分を支援する方向で、近くまとめる30兆円規模の大規模経済対策と21年度補正予算案に盛り込む構えだ。

熊本県での工場建設を正式決定した台湾積体電路製造(TSMC)の本社=10月20日、台湾・新竹市(AP=共同)

 「自前主義は捨てる。積極的な外資導入は日本の大きな方針転換だ。工場は地方に立地するので、現地に先端企業の集積と雇用を生む。外資導入が本格的に進めば、各地にデジタル田園都市ができ、所得水準は上がっていく」。関係者によると、具体化しているものを含め、東北や中国地方、九州などで計画が動きだしているという。

 ▽北京冬季五輪で訪中?

 外交はどう進めていくのか。ポイントは岸田政権の外交チームに中国通がそろったことだ。林芳正外相は日中友好議連会長で、秋葉氏は駐中国公使、滝崎氏は所管局長を務めた。来年の日中国交正常化50年を見据えると、2月の北京冬季五輪開会式に合わせた岸田首相訪中が、喫緊の外交課題として上がってくるのではないか。

11月4日、「中国国際輸入博覧会」の開幕を前に行われた式典でビデオ演説する中国の習近平国家主席(新華社=共同)

 日中間には、尖閣諸島を巡る問題や南シナ海問題など、さまざまな懸案があるからこそ首脳間対話が必要だというのが首相の立場だ。

 だがそのためには、インド太平洋構想を進め、中国への強硬姿勢を強める米国と、対中政策を綿密にすり合わせる必要がある。安保面や通商分野を含め、中国に対話を通じて何を要求していくのか、日米間で詰めた上で訪中しなければ、国内外からの批判は免れない。

 首相が早期訪米を目指すのは、バイデン氏と対中戦略を確認する目的があるのは間違いない。12月が日米ともに日程がタイトなことを考えると、臨時国会前の11月中の訪米もあり得る。

 ▽第6波防げなければ正念場に

 岸田首相にしてみれば、立憲民主党の枝野幸男代表が衆院選敗北の責任を取って辞任を表明するなど、野党勢力が態勢立て直しを迫られている状況は、政権運営にとって想定外の追い風だ。代表選の結果次第では、立民・共産党中心の野党共闘が白紙化する可能性は否定できない。逆に共闘継続なら立民内に亀裂が入り得る。

執行役員会であいさつする立憲民主党の枝野代表。右は福山幹事長=9日午前、国会

 躍進した日本維新の会と国民民主党は独自色を強めており、参院選が多党乱立になれば、それこそ自民党に有利な展開となり、首相は長期政権が視野に入る。

 だが、それはあくまでも政権運営が順調に進んだ場合だ。コロナの第6波を防げず、党改革も尻すぼみになるなら、岸田政権への期待はしぼむ。経済対策に新味がなく、官僚任せのものになれば、看板倒れとの批判を招くのは確実だ。対中外交の腰が定まらずに迷走した場合、得意の外交でのアピールは不発に終わる。

 内閣支持率や政党支持率が低迷し、自民党内で「岸田首相では参院選は戦えない」と受け止められれば、1年もたたずに首相にとっての正念場がやってくる。政権の命運は、一にも二にも政策の着実な推進に懸かっているのは言うまでもない。

© 一般社団法人共同通信社