<レスリング>【2021年全日本学生選手権・特集】男子選手を相手にパワーアップ! 12月は世界女王に再挑戦…女子72kg級・新倉すみれ(神奈川大)

 

 開始早々、豪快な持ち上げタックルで4点が入り、会場がドッと沸いた。2021年全日本学生選手権の女子72kg級決勝、新倉すみれ(神奈川大)のパワーあふれる闘いぶり。試合の主導権をにぎり、8-2で勝利。1年生学生チャンピオンに輝いた。

1年生チャンピオンに輝いた新倉すみれ(神奈川大)

 「優勝できてよかったです」と興奮冷めやらぬ新倉は、最初の4点で会場が沸いたことを伝えられると、「必死だったので(周囲の驚きは)全然気がつきませんでした。最初にポイントを取ろうと狙っていましたけど、4点を取れるとは思っていなかったです」と振り返る。この4点で優位に立ち、自分のペースで試合を進めて優勝を引き寄せた。

 キッズ・レスリングが盛んになった現在、1年生にしてチャンピオンに輝く選手は、そう珍しいことではない。2001年に始まった女子では、前回大会までに28人もいる。だが、1年生にして栄冠を勝ち取るほどの選手なら、高校卒業までにクイーンズカップのキッズの部なども含めて、何らかの全国タイトルを手にしているのが普通だ。

 新倉は、東京・安部学院高を卒業するまでに、全国2位や関東の大会で優勝することはあったが、全国制覇はなかった。2019年インターハイは初戦敗退。高校まで無冠だった選手が“1年生学生チャンピオン”になったのは、2004年の島田佳代子(現姓湯元=日大)以来2人目。長いキャリアを経て、たどり着いた栄冠だ。

神奈川大に進学後、3大会で優勝

 ただ、全国制覇は4月のジュニアクイーンズカップでいち早く達成している。6月の東日本学生女子選手権でも優勝し、その2大会の間に出場した全日本選抜選手権では銀メダル獲得と、神奈川大に進んでからすばらしい躍進だ。コロナ禍のため、昨年は大会に出場したくとも出場できず、逆にこの期間に十分力をつけたことが考えられるが、「大学へ進んでから、力(パワー)がついたと思います」と振り返る。

決勝は終始攻勢を取り、8-2で勝利=撮影・保高幸子

 女子選手だけだった高校時代から、女子選手は2人だけで練習相手は大半が男子選手という環境へ。最初はまったくついていけないパワーの差を感じだが、その中で練習することで自然とパワーがアップ。男子のパワーに対抗できるように練習を重ねるうちにスタミナもついていき、スパーリングでポイントを取れるようにもなっていったと言う。

 男子中心の大学に進み、「初心者のような気持ちに戻り、気負うことがなくなったことも大きいと思います」と分析する。キッズ経験者だけに、中学、そして高校に進学したときは、新1年生であっても「初心者」という気持ちにはなれない。しかし、男子選手との実力差を感じることで初心者の気持ちとなり、「向かっていく」という気持ちが芽生えた。

 「試合になると緊張し、何もできなくなってしまっていましたけど、今はチャレンジャーですので、気負ったり緊張したりすることがなくなりました」

 女子が少ないチームながら、それによるメリットを最大限に生かし、勝ち取った栄冠だった。

12月、世界チャンピオンに挑む!

 この階級は、今年10月の世界選手権に出場した古市雅子(自衛隊)が優勝。日本女子重量級復権を担う活躍を見せた。その古市とは5月の全日本選抜選手権決勝で闘い、何もできないままフォールされている。学生タイトルを取った今、実力差が縮まったことを見せたいところ。

今年5月に古市雅子に挑んだが、何もさせてもらえずに完敗だった

 「12月の天皇杯(全日本選手権)でも決勝に進み、マコさん…、いえ(笑)、古市選手からポイントを取って勝ちにいきたいです」。男子選手の中でもまれたパワーとスタミナを発揮し、世界チャンピオンの背中を追う。

 神奈川大の吉本収監督は、女子初の学生チャンピオン誕生に、「よく練習します。レスリングに対する真摯な姿勢があったので、実力をつけていきました。(4点タックルは)私もびっくりしました」と振り返り、「まだ1年生。自信を持って頑張ってほしい」と期待した。

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