瀬戸内寂聴さん、小保方さんに「あなたがされたことはいじめよ」 渦中の人物にも差し伸べた手

瀬戸内寂聴さん

 亡くなった瀬戸内寂聴さんは、芸能人や著名人が騒動に巻き込まれて社会のバッシングを浴びた際に手を差し伸べてきた。「大麻事件」で逮捕されたショーケンこと俳優の萩原健一さん、「STAP細胞」の小保方晴子さん、角界を引退した元貴乃花親方…。渦中にいる人物を京都市右京区嵯峨野の「寂庵」に迎え、優しい言葉で包み込んだ。

 萩原さんは1983年4月に大麻所持容疑で逮捕され、有罪判決を受けた。約1年間の活動停止を余儀なくされ、マスコミに追い回される中、寂庵を訪れた。「新幹線の中でもトイレに3時間も隠れて、やっとの思いで来た」。2008年に寂聴さんが責任編集を務めたムック本「the寂聴」第1号での対談で寂聴さんはそう振り返っている。

 さすがの寂聴さんも色気漂うショーケンには難儀した。「うちにはお手伝いさんがいて、老いも若きも全部あなたにイカれてしまった。私に内緒でビールを出したり、いろいろしてたね。パンツまで洗っちゃうんだから、しょうがない」。そこで寂聴さんは禅寺である天龍寺に預けた。

 「ところが、そこでも悪いことのし放題なんだから。そこの雲水たちは、ショーケンが来たから興奮して喜んじゃった。それを全部手なずけて、夜中に塀を乗り越えて、お酒飲みに連れていくんだから。(中略)。私は真面目にやっているとばっかり思って、『どうぞよろしく』なんてさし入れなんかしてたのに」。30歳近く離れた「不良」はその後もたびたび事件を起こしたが、寂聴さんはかばい続けた。「私は不良が好きなのよ。ショーケンは不良の親分だからずっと気にいってる」。対談でそう語っている。

 若き女性研究者による「世紀の大発見」から一転、不正疑惑で批判の嵐にさらされた小保方さんには寂聴さんが声を掛けたとされる。「STAP細胞」騒動から2年が経過した16年の雑誌「婦人公論」に2人の対談が掲載された。

 「あなたがされたことは、いじめですよ。公のいじめ。ひどいわね」。小保方さんの手記「あの日」を読んで「真実」を知ったと語り、「あなたを応援する人も世の中にはいることを知らせたかった」と温かい言葉をかけた。小保方さんが涙ぐむ場面もあったと記されている。

 社会から総攻撃を受ける人物への優しさは、自身の経験が源になっていた。小保方さんとの対談で寂聴さんは、出世作「花芯」が当時「ポルノ小説」と批判され、「子宮作家」とレッテルを貼られた苦い体験を振り返り、「弱った時に親切にしてくれる人が本当に親切な人です」「負けたらダメなのよ、上を向いて生きなさい」と励ました。

 2019年新春のテレビ番組では、角界と決別し、長年連れ添った妻と離婚したばかりの元貴乃花親方と対談した。「苦労なさいましたね、つらかったね」と声をかけると、元親方はうっすらと涙を浮かべた。

 ほかにも、徳島ラジオ商事件の冤罪被害者の再審を支援したり、連合赤軍事件の永田洋子や連続射殺事件の永山則夫とも親交があった。晩年の取材に「世間から悪く言われていじめられている人に私は会うけれど、全部がいい人ではないですよ。世間が悪く言うのは当然だと思うような人もいる。だけども、こっちが会ったんだから仕方ないので、最後まで面倒みます。世間が正しい場合もあります」と話していた。

 

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