残留争いの清水が得た貴重な勝ち点1 「近い未来の結末」はまだ見えない

J1 清水―札幌 後半、同点ゴールを決めた清水・滝(26)を迎える平岡監督(左)=アイスタ

 近い未来をのぞく能力があったなら、もっと平常心で試合に臨めるだろう。シーズンの終盤、特に降格ラインに近いチームの選手は心の揺れを抱えながら戦いに挑むことになる。それが闘争心となって良い方に出る場合もあるだろうが、プレッシャーとしてのしかかる場合も多い。

 昨年は新型コロナによる特例で降格はないというレギュレーションだった。J1で昨季17位だったベガルタ仙台、最下位の18位だった湘南ベルマーレは今季も引き続きJ1で戦っている。そして、今季の成績次第でJ2に自動降格するのは20チームのうち4チームという厳しいものとなった。

 18チームならシーズンは34節で終了する。だが、今季は4試合多い38節まである。しかも、34試合を終えた時点で15位から最下位の20位までの6チームが勝ち点6差以内にいるというJ1生き残りを懸けた大混戦。残り4試合の最大獲得可能ポイントが12なので、さらに状況は激変する可能性がある。

 11月6、7日の第35節、下位6チームのうち勝ち点を得たのは清水エスパルス、湘南、仙台、横浜FCの4チーム。勝利を収めるまでには至らなかったが、しぶとく勝ち点1を獲得した。尻に火が付いた状態での粘り。この1ポイントが最後は大きくものを言う可能性がある。この残留争いの中でも6日に行われた清水のコンサドーレ札幌戦は、興味深い内容だった。

 16位の清水と17位の徳島ヴォルティスと勝ち点差は2だった。清水は札幌戦の2日前にロティーナ監督との契約を解除。昨年11月に監督が交代した時と同様、平岡宏章コーチが指揮することになった。急な監督交代によって戦術的な変化を求めるのは不可能だ。求められるのは意識改革。選手たちに危機感を持たせて立ち直りのきっかけをつかむ。直前の3試合で無得点と得点力不足に泣いていた清水は、札幌戦でこれまでとは少し違う姿を見せた。

 ロティーナ監督のときは守備的な意識が強かった。しかし、自陣に引けば相手ゴールまでは遠い。それに比べれば平岡監督のサッカーは前からの守備で、奪ったら素早く相手ゴールに迫る。

 前半17分、待望の先制点が生まれる。左サイドの西沢健太のFK。このクロスはDFにクリアされたが、近くの選手に当たり混戦に。そのこぼれ球にいち早く反応したのがチアゴサンタナだ。ボールを持ち出すような体勢から、コースをつくり、左足でゴールにシュートを突き刺した。

 幸先の良い先制点。しかし、その後は苦しい展開が続いた。圧倒的に札幌にボールを支配され、押し込まれる。前半23分と後半4分にゴールを許し、逆転されてしまった。

 札幌の2点を生み出したのは左足のキックのスペシャリスト、福森晃斗の芸術的なアシストだった。1点目は柔らかな縦パス。それを金子拓郎が胸でワントラップ、左足のハーフボレーでゴール右にたたき込んだ。そして2点目もまた福森の左足が演出した。アウトスイングで送られたピンポイントの左CK。ゴール前の深井一希がヘディングでゴール右に送り込んだ。

 清水とすれば落胆はあったはずだ。それでも勝負を諦めなかった。後半の半ば、札幌がビッグチャンスをつくった場面は象徴的だった。金子の折り返しを駒井善成がフリーでシュート。これにGK権田修一が見事な反応で対処。わずかに触れて、ボールのコースを変え、ゴール枠からはじき出した。日本代表の守護神の見せたファインセーブがチームに勇気を与えたのは間違いない。2点差となっていれば、清水にビハインドを跳ね返す力が残っていたかは疑問だ。それだけに試合の結果を左右するビッグセーブだった。

 劣勢でも1点差で追っていけば、一回はチャンスが訪れる。後半38分、清水に待望の同点ゴールが生まれた。右サイドをオーバーラップした原輝綺がゴール前にセンタリング。ニアサイドに入ったチアゴサンタナには合わなかったが、途中出場の滝裕太が待ち受けていた。「チアゴの後ろは常に空いていると思ったので、そこにまず入り込んで、良いボールが上がってきたので落ち着いてコントロールしてサイドに流し込むだけ」。ボールが自分の足元に入り過ぎて、決して簡単そうには見えなかった。それでも滝は難しいボールを確実にゴール右隅に送り込んだ。

 追い付いた清水には勝ち越すチャンスがあった。後半40分、カウンターを仕掛ける。鈴木唯人のスルーパスで中山克広が抜け出しGKと1対1の局面を迎える。しかし、これはGK菅野孝憲の老練なブロックに阻まれた。

 終わってみれば2―2の引き分け。内容を見れば「負け」もあれば「勝ち」もあっただろう。もちろん清水とすれば勝ち点3がほしかったはずだが、この勝ち点1で17位の徳島との差は3ポイントに広がった。残るは3試合。「近い未来の結末」はまだ見えない。ただ、ホームで2試合を残す清水にとっては重みのある1ポイントであったに違いない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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