骨粗鬆症治療薬による骨密度維持が、宇宙飛行士の尿路結石形成リスクを低減

名古屋市立大学の岡田淳志准教授らと宇宙航空研究開発機構(JAXA)・アメリカ航空宇宙局(NASA)の共同研究グループは、骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤の投与が宇宙飛行士の尿路結石形成リスクを低下させることを明らかにした。

宇宙空間では微小重力によって骨への過重負荷が低下し、骨吸収(骨の溶解)が進むために、骨から溶け出したカルシウムが尿中に排出されて尿路結石の形成リスクが高まる。尿路結石が引き起こす疼痛は、「世界三大疼痛」の一つに数えられる強烈な背部痛であることから、宇宙飛行中のミッションの失敗だけでなく、多くの人命にも関わる大事故を誘発するおそれがある。

岡田准教授らは、2008年に宇宙空間(微小重力環境)をモデル化した長期臥床試験において、骨吸収を抑制する骨粗鬆症治療薬ビスホスホネート製剤が結石形成を予防しうる可能性を報告。これを踏まえ、約6ヶ月の国際宇宙ステーション滞在中に宇宙飛行士にビスホスホネートの服用を行ってもらい、その効果を検討した。

まず、ビスホスホネートの投与が宇宙飛行士の骨密度維持に有効であることを確認し、2019年に発表。続く本研究では、ビスホスホネートの投与が骨吸収だけでなく尿中の複数の結石リスク因子を減少させることを見出した。ビスホスホネートを服用しなかった宇宙飛行士では、宇宙飛行の開始とともに、骨からのカルシウムの尿中排泄が増加したことに加え、骨基質たんぱく「I型コラーゲン」の分解産物でありカルシウムにならぶ尿路結石のリスク因子「シュウ酸」・「乳酸」の尿中排泄が増加した一方で、ビスホスホネートを服用した宇宙飛行士では、それらの排泄がいずれも有意に減少したとする。

本研究は、骨吸収阻害剤が宇宙飛行中の骨吸収の増加を抑制し、尿路結石のリスクを低下させることを示すことに成功した。地上においてもビスホスホネート製剤は尿路結石形成に対する新たな治療法となる可能性が示唆された。

論文情報:

【JBMR Plus】Bisphosphonate Use May Reduce the Risk of Urolithiasis in Astronauts on Long-Term Spaceflights

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