衆院選投票日の若者に聞いた 選挙「知らない」「興味ない 」 政治との“距離”に記者も焦り

 10月31日投開票の衆院選で長崎県内小選挙区投票率は戦後2番目に低い56.89%だった。投票率低迷の要因の一つとされているのが若者世代の低投票率。なぜ若者たちは棄権してしまうのか。投開票日、4人の記者が町を歩き、若者たちに聞いた。(文中仮名)

@キャンパス

 学園祭中の長崎大キャンパス。午後2時すぎ、屋外ベンチでスマホをいじる男子学生に話し掛けた。「投票って行きました?」

 大学1年のコウキ(19)は「今聞かれて(投票日と)知って…すみません」と目を伏せた。

 テレビで選挙報道には触れなかったのだろうか。

 「テレビ見ないんですよね。見るのはサッカーの日本代表戦くらい」。大学と自宅の往復で、選挙カーも見なかった。県外出身で住民票を移していないから、自宅に投票はがきも届いていない。同じような学生は「周りにも多い」と言う。

 記者も10年近く前の学生時代、選挙を棄権したことはあるが、選挙の情報はテレビなどで嫌でも入ってきた。今の若者にはそんな「偶然の接点」すらないのだろうか。若者の声から投票率アップのヒントを探る-。そんな取材の狙いは甘かったと痛感した。(三代直矢、29歳)

@デートスポット

 昼下がりの東彼波佐見町で、デート中のカップルに声を掛けた。長崎市の会社員、アキト(21)とレイカ(21)は交際して約半年。コロナ禍が落ち着き、久々に遠出したのだそう。

 「きょう何の日か知ってますか」と聞くとアキトは「ハロウィーン」と即答。レイカはしばらく考えた後で「あ、選…挙?」

 「そうそう。投票行きましたか」「いやー」。ばつが悪そうに顔を見合わせる。「行った方がいいとは思うけど興味ないし」とレイカ。アキトは「選挙カーはうるさくて、何言ってるかわかんない」。

 普段の生活で不安や不満はないのだろうか。アキトは「税金高(たけ)えなとかは思うけど選挙で変わるとは思えない」と言う。「諦め」の原因を探ろうと会話をつなぐうちに「てか何すかこれ」と不機嫌そうに打ち切られてしまった。デートの邪魔もあっただろうが「無関心」を記者にとがめられたと感じたのかもしれない。「やっぱり政治は面倒」と思わせてしまったか。苦い後悔を抱え、2人のそばを離れた。(六倉大輔、36歳)

衆院選の投開票日、県内で声を掛けた若者の多くは「投票に行っていない」と答えた=10月31日、長崎市中心部の アーケード

@商業施設

 日が暮れて肌寒くなってきた佐世保市の商業施設前。ベンチに腰掛ける男性2人組に話を聞いてみた。

 西彼時津町の会社員のヨシキ(19)は実家暮らし。「投票日って知らなかった」と行く気はない様子。「家で選挙の話しないの?」と聞くと「しない。親も投票行ってないと思う」。

 大学生のリョウ(19)は「これから投票しに行く」と言う。選挙権を持って初めての選挙。政治に興味はないし、候補者もよく知らないが「今回行かないと、これから先行かなくなる気がする。行くと興味が湧くかもしれないし」。

 横でヨシキが「まじ?」と目を丸くした。「一緒に行ったら?」と勧めると「興味ない。入場券が届いてるのかどうかもわからん」と笑い飛ばした。(古瀬小百合、29歳)

@アーケード

 夜の長崎市浜町のアーケードは、ハロウィーンで仮装した若者たちでにぎわっていた。2時間ほど声を掛けて回るが、ほとんどが投票に行っていない。同市の調理師、マイカ(20)は「何も知らないから行っても無駄」「政治家に注文はない」と理由を話した。質問には快く答えてくれるが「興味がない」という言葉が必ず入る。棄権の裏側にある思いを知りたいのに、会話を重ねるほどに距離を感じ、焦った。

 取りつく島もない取材ですっかり疲れた帰り道。手には小さなお菓子を握っていた。取材で話し掛けた女子高生が「これどうぞ」と渡してくれた。わずかだけど、若者の中に飛び込み、目を見て話し、少しだけ近づいた証し。まずはこの小さな接点を積み重ねていくしかない。(嘉村友里恵、32歳)

© 株式会社長崎新聞社