1本の木に会いに行く(30)阿蘇の巨木・太古の息吹を感じる「高森殿の杉」熊本県>

高森殿は「たかもりどん」と読みます。殿を「どん」と呼ぶのは南九州の方言。阿蘇の牧場脇の森にひっそりと佇む巨木は、人類が地球上に登場する以前にタイムスリップしたような印象でした。最近では恋愛成就のパワースポットになっていると聞きます。ともかく不思議な巨木です。

南阿蘇の森にパワースポットの巨木を訪ねる

ちょうど南阿蘇に宿泊していた時、宿から車で15分足らずの場所に巨木があることを知りました。南阿蘇鉄道終点の高森駅からも車で15分ほどでしょう。

ちなみに熊本空港や熊本ICからだと、1時間ほどでたどり着くのではないでしょうか。

場所はわかりにくく説明も難しいのですが、高森町の「高森生コン(コンクリート工場)」を目印にすると良いかもしれません。265号兼325号線を山都町方向に進み「高森生コン」が見えたら、信号先の左手の小路に小さく「高森殿の杉、清栄山登山道」と書いた標識があります。

道なりに進むとすぐに「高森殿の杉まで0.4km」と標識があります。1本道なのですぐにわかります。

標識を過ぎると道路の左右には柵が張られて、牛たちがのんびりと草を食んでいます。牧場だったのですね。

たしかに400mほど進むと駐車場が整備されていました。6〜7台の車が止められる広さです。

駐車場の向かい側に入口ゲートがあり、諸注意が掲示されています。そこから降りていきます。牛の伝染病である口蹄疫の感染防止のためのものだそうです。

牛のフンがたくさん落ちていますので、踏みつけないように足元に注意して進みます。

100mほど進んで広場から樹林に入るあたりに「高森殿の杉」と書いた標識が立っていました。暗くて先の景色が見えないのですが、木立に入ると……

周囲の空気を一遍させる巨大な樹木

そこには周囲の樹木とは全く異なる大木が立っていたのです。空気が変わる瞬間でした。これが「高森殿の杉」なのですね。

こんなところにあろうとは、まったく予想もつきませんでした。周囲の杉木立とは全く違う巨木なのです。

巨大で奔放な勢いがあり、そして風格があります。よく見ると2本の巨木だと気が付きます。樹齢400年、幹回りはそれぞれ10mを超えるといいます。

ウラスギ(アシウスギ)の仲間だそうです。太い枝が曲がって地につき,そこから先端が立ち上がり,地についたところから発根する樹木で、林業ではおもに太平洋側のスギをオモテスギといい、日本海側のスギをウラスギというそうで、日本海側気候の多雪条件に適応したものをいうそうです。

たしかに枝が地を這うように伸びているのです。生き物がうねるように伸びています。

とはいえ、ここは日本海側でもなく、雪がそれほど降る場所でもありませんが、どういうことなのでしょう。

ふつうの杉はすっくと直立していますが、この巨木は四方八方に奔放に大きな枝を延ばしています。

なぜ、こんな場所に400年もの間こんな巨木が残されているのか、考えれば考えるほど不思議でした。

周囲には柵がめぐらされています。この巨木がいまや恋愛成就のパワースポットとして女性たちから注目されているらしいのです。ある有名女優さんがここを訪れて巨木に抱き着き、その後女優さんは結婚したというもので、その噂を聞きつけて、この巨木を訪ね、抱き着く女性たちが増えたそうです。それ以来、柵が作られたのでしょう。

ただ、抱き着きたくなる気持ちはわかります。巨木に触れることで、そのエネルギーを分けてもらえるような気がするのです。巨木や古木、1本の木に憧れてしまうのは、そういう動機が働いているせいかもしれません。

「高森殿」とはだれか

根元には苔むした石碑がありました。何と刻まれているのかまったく分かりません。しかし歴史的にはいわくつきの場所らしいのです。

というのも、戦国時代の天正14年(1586年)、島津軍との戦いに敗れた高森城主・高森惟直と、その家臣・三森兵庫守能因、虎御前原が自刃した場所だというのです。

「高森殿」とは、「高森の殿様」という意味らしいのです。もともとここにお墓ありましたが、江戸時代になって下にある含蔵寺に移されたといいます。

樹齢400年ということは、ちょうどその頃、戦いに敗れて自害した後なのでしょうか。誰かが弔いの意味で植樹したのかもしれません。

いろいろな言われ方をしますが、とても神秘的な巨木です。そして剥き出しの感じがなぜか人類以前の太古の息吹を感じさせます。奔放でいて、荘厳な樹木なのです。

高森殿の杉

住所:熊本県阿蘇郡高森町高森3341-1

電話:0967-62-2913(高森町政策推進課商工観光係)

HP:https://www.town.takamori.kumamoto.jp/kanko/kankomap/kanko/post.html

[All Photos by Masato Abe]

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