Go To トラベルは年明け再開?予算追加なしでも経済効果は7.1兆円の驚くべき効果

11月10日、衆参両院の本会議で岸田氏が改めて首相に選出され、第二次岸田内閣が発足しました。

岸田首相は同日夜に記者会見を行い、世帯主960万円の所得制限を設けたうえでの18歳以下への10万円給付や、健康保険証や銀行口座との紐づけを条件とした最大2万円相当のマイナポイント付与などに加え、Go To トラベル事業を再開する方針も示しました。一部報道では再開時期は年明けとなる見込みです。

今回はこのGo To トラベル事業が今後の日本経済に与える効果について考察してみます。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


2020年には大きな効果をもたらした

Go To トラベル事業は、1人1泊2万円を上限に旅行代金の半額を政府が補助する仕組みで、昨年7月22日から12月28日で延べおよそ9,000万人が利用しています。観光庁によると、1人1泊当たりの平均旅行代金13,282円に対して平均4,649円と、およそ35%が支援されています。

その効果は非常に大きく、緊急事態宣言が出された2020年5月には前年比97%減だった主要旅行業者の旅行取扱額は、Go To トラベル事業の利用がピークだった2020年11月には26%減まで回復しました。 観光業のGDPとも言える第三次産業活動指数で見ても同様で、2020年5月に40ポイント近辺まで落ち込んだ後に2020年11月には80ポイント程度まで回復していました。

しかし、Go To トラベル事業が打ち切られてからは直近2021年8月までおおむね60ポイント程度での推移にとどまっています。

経済効果は7.1兆円か

Go To トラベル事業は感染拡大を招くとの懸念も根強いため、今回の経済対策では予算が追加されない可能性があります。しかし、Go To トラベル事業は2020年12月に打ち切られてしまったため、経済産業省によると、本来の予算である2.7兆円の半分にあたるおよそ1.3兆円が残されています。

ここで、その経済効果を試算します。これまでの利用実績を基にすると、1.3兆円の補助を得るための旅行総額は3.7兆円となります。また、観光業は産業としてのすそ野が広く、特に鉄道、航空、観光関連消費、文化サービス、スポーツ及びレクリエーションサービス、輸送機器レンタルサービスなどに対する生産誘発効果も大きくなります。

観光庁が発刊している『2019年旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究』によると、国内観光消費29.2兆円に対して、生産誘発額は55.8兆円となっています。こちらを基に試算すると、Go Toトラベル事業3.7兆円によって7.1兆円の経済効果がもたらされます。

2019年の国内旅行消費額が18兆円だったことを考えるとまだ正常化への道のりは遠いと言わざるを得ませんが、厳しい経営状況の続く観光産業を支える一助にはなりそうです。

宿泊業の内部留保はすでにマイナス

宿泊業では倒産、廃業が相次いでいますが、その厳しい経営環境はデータからも裏付けられます。財務省の法人企業統計によると、宿泊業の経常利益は2020年1~3月期から実に6四半期にわたって赤字が続いています。こうしたことから、ピーク時には約2.7兆円あった内部留保とも言われる利益剰余金はすでにマイナスとなっています。

金融機関からの借入金によって当座をしのぐ状況が続いていますが、このまま観光需要が回復しないとさらなる倒産、廃業の増加に拍車がかかるでしょう。令和3年版観光白書によると、宿泊業の雇用者は2019年の59万人から52万人へとすでに12%減少していますが、現在の状況が続くとこういった雇用の削減も加速してしまいます。

政府の成長戦略では、「観光、スポーツ、文化芸術といった地域資源は、効果的に活用することによって、交流人口や民間投資の拡大、雇用機会の創出等に結びつき、全国各地に大きな波及効果をもたらします」と謳われています。

また、来るべきインバウンドの再開に向けても、観光事業者の廃業が相次ぐことは長期的な日本の成長率に大きな悪影響を及ぼします。観光産業を立て直すためにも、Go To トラベル事業が再び大きな効果を発揮することが期待されます。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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