NISSAY OPERA 2021 「カプレーティとモンテッキ」 -もう一つの『ロミオとジュリエット』の物語- 11月13日よりいよいよ開幕!いとも哀れ、分断の悲劇

ベッリーニの傑作「カプレーティとモンテッキ」が日生劇場にて11月13日より開幕、「トラジェーディア・リーリカ」との副題のある2幕のオペラ。1830年ヴェネツィアで初演。
世界中で知られている悲劇、台本のフェリーチェ・ロマーニは、1825年にニコラ・ヴァッカイのオペラのために書いた台本『ジュリエッタとロメオ』を手直し、だが、アイディアの源泉はイタリアに広く流布していた『バルトロメオ・スカラ公の御代、ヴェローナの街に起こりし、いとも哀れなる物語の言い伝え』やルイージ・ダ・ポルトの『ジュリエッタ』と言われている。

序曲、これから起こる物語を想像させるに十分、カプレーティ家は教皇党、モンテッキ家は皇帝党、つまり政治的な対立。カプレーティ家側の従者が集まってモンテッキ家に復讐を誓う。モンテッキ家のロメーオがカプレーティ家の息子を殺したからだ。ロメーオへの復讐を歌うテバルドはジュリエッタを愛しており、彼女と結婚したいと思っている。ジュリエッタの父・カペッリオは「ロメーオを殺すなら結婚を許す」と宣言し、テバルドは歓喜の歌を歌う。そこへ正体を隠したロメーオがやってきて「ロメーオがジュリエッタと結婚してカプレーティ家の死んだ息子の代わりになりましょう」と歌うが、勿論、当主であるカペッリオは断る。実は、この時点でロメーオとジュリエッタは相思相愛、ジュリエッタはロメーオと結ばれたい、しかし、この状況では無理、そこで…というのがだいたいの流れ。

単なる家同士の対立ではなく、政治的な対立、分断、11世紀の叙任権闘争において、既に教皇と皇帝の争いは始まっていた。そう言った時代背景などを押さえておくと興味深い。また、ドニゼッティやベッリーニなどの19世紀前半のイタリアオペラを特に「ベルカント・オペラ」と呼ぶ。この「カプレーティとモンテッキ」も聴きどころが多数。ジュリエッタのロマンツァ、ジュリエッタの部屋のシーンで歌われるが、美しくメランコリック。そのあとのロメーオのジュリエッタへの愛の歌は情感にあふれたもので聴きどころ。その他、枚挙にいとまがないが、歌だけ聴いていても、本当に聞き惚れてしまう。

セットは演劇的。舞台に大きな壁がしつらえてあり、そこに剣が。これが動くことによってシーンが変わる。またラスト近くのジュリエッタの墓の場面は、美しく、絵画のよう。横たわるジュリエッタ、やってくるロメーオ。ここの場面、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』ではロミオが毒を飲んで絶命してからジュリエットが仮死状態から目覚め、そこにはロミオがすでに息絶えて横たわっていた、という状況だが、この「カプレーティとモンテッキ」では、ロメーオが毒を飲んで、瀕死の状態。その時、ジュリエッタが仮死状態から目覚め、ロメーオとの会話で、彼がジュリエッタが死んだと思い込んで服毒自殺を図ったことを把握する。ロメーオが歌う悲しみのアリアは聴かせどころ。しみじみと哀しみが染み渡る。ベルカント・オペラらしい、歌い手の巧さが光るオペラだ。またロメーオ役はメゾソプラノの女性が演じる。ベッリーニはロメーオを、フェニーチェ劇場所属のメゾソプラノ歌手ジュディッタ・グリージに歌わせるべく作曲したと言われている。

また、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」と、この「カプレーティとモンテッキ」の設定の相違も興味深い。例えば、テバルドはジュリエッタと結婚したいと思っており、ジュリエッタの父・カペッリオから、ロメーオを殺すなら結婚しても良いという条件付きだが、認められた婚約者という立ち位置。そうなるとロメーオに並々ならぬ殺意を抱くのは納得がいく。また、ロレンツォはここではカプレーティ家の医師でカペッリオの親友。よって、カプレーティ家のことや行く末を進言したり、友人のカペッリオに対して俯瞰的な見方ができる人物であることがわかる。シンプルだが、様々なテーマを孕んだ作品。日本では1988年のミラノ・スカラ座の来日公演があり、そこで上演。その後は何度か日本人キャストで上演されている。日生劇場での公演は11月13、14日。

<あらすじ>
13世紀のイタリア、ヴェローナ。
カプレーティ家とモンテッキ家という二つの一族が、政治的立場の違いから相対立していた。
モンテッキ家当主ロメーオは、カプレーティ家の令嬢ジュリエッタと愛し合っており、彼女の父であるカプレーティ家当主カペッリオに対し、二人の結婚を契機とした両家の和平を申し入れる。しかし、自身の息子を殺した相手であるロメーオへの復讐心を募らせていたカペッリオは、その申し入れを拒絶する。ロメーオと結ばれたいジュリエッタは、一計を案じるが…。
ベルカント・オペラの名手ベッリーニの圧倒的に美しい音楽によって描かれる、もう一つの『ロミオとジュリエット』。分断の時代を背景に、悲劇の幕が上がる。
<概要>
日程・会場:2021年11月13、14日 日生劇場
NISSAY OPERA 2021 『カプレーティとモンテッキ』
全2幕(原語(イタリア語)上演・日本語字幕付)
台本:フェリーチェ・ロマーニ
作曲:ヴィンチェンツォ・ベッリーニ
指揮 鈴木 恵里奈
演出 粟國 淳(日生劇場芸術参与)
出演:
[11月13日]
ロメーオ:山下 裕賀
ジュリエッタ:佐藤 美枝子
テバルド:工藤 和真
ロレンツォ:須藤 慎吾
カペッリオ:狩野 賢一
[11月14日]
ロメーオ:加藤 のぞみ
ジュリエッタ:オクサーナ・ステパニュック
テバルド:山本 耕平
ロレンツォ:田中 大揮
カペッリオ:デニス・ビシュニャ
管弦楽 読売日本交響楽団

日生劇場HP:https://www.nissaytheatre.or.jp

写真撮影:三枝近志

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