過酷なワンオペ看護、1日も休まず1年間 77%の病院、コロナ禍で入院児童に付き添う親の交代制限

 

大阪府内の病院の小児病棟

 幼い子どもが入院する際、保護者が病院に泊まり込んで世話をする「付き添い入院」。以前から親の負担の大きさが問題視されていたが、新型コロナウイルス禍でさらに深刻な状況になっていた。共同通信が今夏、全国の病院にアンケートしたところ、77%の施設が感染対策の一環として保護者の交代を禁止・制限していたことが判明。親の負荷がさらに高まっている実態が明らかになった。中には1年間にわたって病棟に「缶詰め」となった人も。影響は、家に残されて親に会えなくなったきょうだい児にも及んだ。(共同通信=禹誠美)

 ▽「ワンオペ看護」が数カ月間も

 アンケートは緊急事態宣言が発令されていた8月下旬~9月末に実施した。小児科で一定の入院体制を備えている全国の121病院に調査表を配布し、88病院から回答を得た。

 過去に配信した記事(子の看護、親は24時間缶詰めに 交代禁止、コロナで負担増す「付き添い入院」)でも取りあげたが、原則的には入院が乳幼児であっても保護者の付き添いは不要だ。子どもの世話にかかる費用は公的医療保険で賄われる。付き添いは家族が希望し、医師が許可した場合に限って認められる仕組みになっている。

 しかし実態は異なる。病院側が、事故防止などを理由に保護者側に要請することも多い。アンケートで感染拡大前の対応を尋ねたところ、58病院(66%)が「できるだけ付き添いを求めていた」と答えた。

 

感染拡大でこうした運用はどう変わったのか。「保護者の交代を禁止した」と回答したのは21病院(24%)だった。交代を「保護者の体調不良でやむを得ない時」「PCR検査で陰性が確認できた場合」などに限定したのが47病院(53%)。合わせると8割近い病院が保護者の交代に制約を設けていた。

 一方、付き添い入院を禁止したのは4病院で、残り16病院は「運用に変更なし」などと答えた。

 付き添いは過酷だ。保護者に食事は提供されず、寝場所も簡易ベッドか子どもの病床で添い寝というケースが一般的。期間は子どもの病状によって異なるが、月単位、年単位に及ぶこともある。病室という閉鎖的な空間で、寝食の時間もまともに確保できない「ワンオペ看護」が数カ月にわたって続く―。過酷さはコロナ禍で多くの人が経験した「自粛生活」の比ではないだろう。

 ▽外出は2回だけ、息子にも会えず

 九州地方で看護師をしている女性は、実際に「交代なし」の付き添い入院を経験した。大学病院で小児がんの治療を受ける長女(5)とともに、昨年9月から約1年にわたって病棟に泊まり込んだ。

乳幼児が入院する病室。手前が保護者用の簡易ベッド

 外出したのはコロナワクチンを接種した際の2回だけ。大半の時間は病室にこもり、長女に付きっきりで過ごした。食事は長女が残した病院食やコンビニ弁当、夫が差し入れた冷凍食品。たまには変わったものを食べようと、生卵を買って電子レンジで茶わん蒸しを作ったことも。夜は狭いシングルベッドで長女に添い寝した。

 心身ともに疲弊したが、入院が長引くにつれて「日常になっていた」。それより心配だったのは自宅に残した当時3歳の長男だ。入院患者への面会も制限されていたため1年間、ほとんど顔を合わせることができなかった。「甘えたい盛りなのに、どれだけ寂しい思いをさせたか。思い出すと涙が止まらない」と振り返る。

 会社員の夫は仕事と育児の両立に追われ、長女の治療についてゆっくり話す時間も場所もなかった。コロナ禍でさえなければ、週末に付き添いを夫と交代できた。自宅に帰れば長男に会えたはずだし、長女もつらい治療の合間に一時帰宅してリフレッシュできたかもしれない。

 「この治療が終われば家にちょっと帰れるよ、週末はお父さんが病院に泊まりに来るよ、と娘に言ってあげたかった」

 ▽病院側も「大変なことを求めた」

 保護者に大きな負担を強いる「交代制限」は、病院側にとっても苦渋の決断だったことがアンケート結果からうかがえた。各地の医療機関でクラスター(感染者集団)が多発し、外部との交流は極力遮断しなければならなかったためだ。  中部地方の公立病院の担当者は「感染対策上、(交代禁止は)必要なことだが、親の負担や疲労を考えると大変なことを求めている」と率直なコメントを寄せた。「家族のストレスも感染拡大前より大きくなっており、心のケアが必要」(九州地方の公立病院)など、付き添う保護者や、家に残る家族を思いやる回答もあった。

 病院側が交代制限と感染対策の兼ね合いで苦悩した背景に、行政の責任もありそうだ。入院中の子どもや家族に寄り添い、心の負担を軽減する専門職の職能団体「チャイルド・ライフ・スペシャリスト協会」は「飲食店のように国や自治体から感染対策の明確な基準が出されていないため、施設ごとに付き添いや面会の対応が異なる」と指摘する。

 より実態に即した対応をとるため「小児医療や精神保健に関わる専門家で入院中の子どもと家族の現状を話し合い、コロナ下の付き添いや面会について指針を出す必要がある」と訴えた。

 ▽付き添い、大半は母親

 一方で、アンケートによって改めて気付かされた点もある。付き添う大半が母親ということだ。

 自由回答欄には「体調のすぐれないお母さんや妊娠中のお母さんが、狭いベッドで慣れない入院生活を強いられている」(関東地方の公立病院)、「両親の協力が必要だが、なかなか父親の協力が得られていない」(中部地方の民間病院)

といった指摘が複数寄せられた。負担は明らかに女性に偏っている。

 

背景にあるのは「家事・育児は主に母親が担うもの」という根強い性別役割分担の意識だろう。国立社会保障・人口問題研究所が2018年に実施した「全国家庭動向調査」によると、1日の平均育児時間は、父親が平日約1時間半、休日約5時間半。一方、常勤で働いている母親は平日約6時間、休日は約11時間だった。前回13年の調査結果に比べて休日の父親の育児時間はわずかに増えたものの、依然として母親の方が圧倒的に長い。こうした状況で子どもが入院すれば、付き添いが母親ばかりになることも想像に難くない。

 男性の育児参加がなかなか進まないのは、長時間労働の常態化や有給休暇が取得しにくい職場環境にも一因がある。コロナ禍で在宅勤務やリモートワークも広がりつつあるが、自宅で仕事をしながら子どもを世話するのと、病院で24時間看護する付き添い入院とでは事情が異なる。仕事との両立は現実的に難しいだろう。

 核家族での子育てや共働きが当たり前になった現代で、家庭内での助け合いや役割分担の見直しが重要なのは当然と言える。性別にかかわらず子どもの治療にしっかり向き合えるよう、看護休暇を取得しやすい職場づくりや制度の改善が必要だ。

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