「投票マッチング」が350万回利用されても残る課題。プロデューサー・鈴木邦和氏インタビュー

第49回衆議院議員総選挙に関連して、選挙ドットコムはメディア初となるボートマッチサービス「投票マッチング」をリリースしました。

投票マッチングはリリース翌日にTwitterトレンド入りを果たし、31日の投開票までに約350万回の利用を記録。報道各社やネットメディアがボートマッチサービスを数多く提供した今回の衆院選で、存在感を見せることに成功しました。

しかし、プロデューサーを務めた前都議会議員・鈴木邦和氏によると、投票マッチングだけではメディアが有権者へ投票行動を促す材料としては足りないことがあるとのこと。

有権者はボートマッチをどう捉え、メディアがやるべきことは何か。ボートマッチのこれからについて、選挙ドットコム編集部がインタビューを行いました。

「投票マッチング」とはどんなサービスだったのか

選挙ドットコム編集部(以下、編集部):

鈴木さんがプロデュースを行った「投票マッチング」は、どのようなサービスだったのでしょうか。

投票マッチング プロデューサー 鈴木邦和氏(以下、鈴木氏):

今回私がプロデュースを行った「投票マッチング」は、いわゆる「ボートマッチ」と呼ばれるコンテンツです。

政策に関する20の質問に賛成・やや賛成・中立・やや反対・反対の5択で回答していただき、最後に重視する3つの政策を選ぶと、各政党との相性が表示されます。

編集部:

政党との相性は、具体的にどのように算出されるのでしょうか。

鈴木氏:

例えば、自民党が大きく掲げていて、共産党が強く反対している政策について「賛成」を選択すると、自民党への配点がプラス5点、共産党はマイナスとなるように、設問に対して配点を細かく計算しています。

ボートマッチの作り方については論文等が発表されており、基本的にはそのガイドに従っています。意外と簡単なロジックなんですよ。

また、私は「日本政治.com」というサイトで過去に投票マッチングを何度か作成していた経験があるので、そこで得た知見も反映しました。

ボートマッチのキモとなるのは「設問」

編集部:

選挙ドットコムの「投票マッチング」以外にも、毎日新聞社の「えらぼーと」、ネットメディアだと「JAPAN CHOICE」など、今回の衆院選に関連するボートマッチサービスは多数ありましたが、投票マッチングは他との差別化をどのように図ったのでしょうか。

鈴木氏:

ボートマッチのキモとなるのは設問です。私が設問作りで意識した点は、主に2つあります。

1つは、20の設問を全て違う分野の政策で構成することです。

他社のボートマッチでは、選挙の争点になっている大事な分野について複数問の質問をすることがあるのですが、投票マッチングでは20分野の質問を用意しました。

もう1つは、政策が似通っている政党同士を差別化することです。

編集部:

野党共闘をした立憲民主党・共産党、もともとの主張に似通う点が多い共産党・社民党の区別をつけるのには工夫が必要だったのではないでしょうか。

鈴木氏:

はい。今回はリベラル系政党の政策に似通う部分が多かったので、違う部分を設問に盛り込むことは意識していました。

具体的には、全体的に政策が似ている共産党と社民党のスタンスの違いを明確化するために、日米同盟についての質問を作る等の工夫をしました。

利用者が多かった理由は「入りやすさ」と「離脱しにくさ」そして「納得感」

編集部:

投票マッチングの利用者が多かった理由はどういうものだと考えていますか?

鈴木氏:

「入りやすさ」と「離脱しにくさ」が大きかったのではないでしょうか。

まだ一部にしか浸透していない「ボートマッチ」という呼び方ではなく「投票マッチング」という親しみやすいネーミングをしたのも、たくさんの方に利用していただけた要因のひとつではあると思います。

また、質問に対する回答ボタンを押したら次の設問に行く等、UI/UXの細かい面にも力を入れました。他にも離脱率を下げるための工夫を開発チームと協力して行っていましたね。

編集部:

質問について「メリット」「デメリット」が表記されていたのも好評をいただいていました。

鈴木氏:

そうですね。投票マッチングはわかりやすさがありつつも、結果に納得感があるようにライトに振りすぎず設計していました。

その結果、マッチング内容に納得してもらえてSNSでのシェアが広がったのかな、とも考えています。

ボートマッチは複数利用してほしい

鈴木氏:

ただ、私は投票マッチングについて、他社との差別化を図って選んでもらうということには注力していません。むしろ他のボートマッチも同時に利用していただきたいと思っています。

「いや、絶対他のもやったほうがいいですね(笑)」

編集部:

他のボートマッチも同時に利用してほしい……!?

鈴木氏:

そうですね。私はボートマッチを設計していて、中立さを出すことに限界があることを知ってしまっているので。どうしても質問には作成者の偏りが出てしまいますしね。

政策で投票先を選ぶなら、いくつかのボートマッチをやってみて、納得のいく投票先を選んでほしいですね。

編集部:

投票マッチングでは、国民民主党と日本維新の会へのマッチングが多かったということがありましたね。これも製作者の偏りと言えるのでしょうか。

鈴木氏:

国民民主党と日本維新の会へのマッチングが多かった件については、次の2点で説明ができると思います。

1つは、投票マッチングの利用者に20代~40代の都市部の方が多く、属性が国民民主党や日本維新の会との相性が良かったこと。

もう1つは、立憲民主党が共産党と野党共闘して政策が似てきて、いわゆる中道の考え方の利用者の受け皿が国民民主党や日本維新の会となったのではないかということです。

このように、設計者として説明はできるのですが、より公平な目線で政党を見るのであれば、複数のボートマッチを使ってみたほうが良いですね。

投票マッチングのその先は?メディア側の課題とは?

編集部:

投票マッチングに触れて「面白いな」「参考になるな」と思ってくださった方に、次にとってほしい行動は何でしょうか?

鈴木氏:

難しい質問ですね(笑)。これはメディア側にも課題が残ると思います。

有権者が投票先を選ぶ材料は、決して政策だけではないのですよね。政策はボートマッチを参考にできても、ボートマッチでは政策の実行力を示すことはできません。

ボートマッチを提供するだけで満足せず、有権者が欲しい情報にアクセスできるようにメディア側が頑張らなきゃいけないですね。

編集部:

Twitterにシェアして面白かった、で終わりではもったいないですよね。

鈴木氏:

ボートマッチのその先をどういう風に設計できるかは課題になると思います。

ネットに情報はたくさんありますけど、整理されていて投票先の判断材料になるようなものってなかなか存在しないですからね。

せっかく350万回利用していただいた「投票マッチング」ですが、その先へのつなげ方は弱かったと思います。導線づくりは参院選に向けての改善点になるかもしれませんね。

ボートマッチは政党にとっても無視できない存在になる

編集部:

今後、選挙においてボートマッチはどんな存在になると考えていますか?

鈴木氏:

今回、選挙ドットコムの投票マッチングは350万回も利用していただきましたが、他社のボートマッチの利用回数も合わせると、政党としてこの数は無視できないボリュームになってくると思います。

そうすると、懸念点もあります。

私は投票マッチング製作にあたり、事前に政党へアンケートを行っているのですが、政党が投票マッチングの利用者とマッチングしやすくなるように回答のしかたを変えてくる可能性が今後考えられます。

今回の投票マッチングでは20問中12問をアンケートから作成しましたが、今後は各政党へのアンケートの回答をどこまで参考にするかをより製作者が意識し、実際に政党が言っていることや行っていることと乖離がないかチェックすることの重要度も増していくでしょう。

編集部:

最後に、投票マッチングを利用してくださった方にメッセージをお願いします。

鈴木氏:

350万回の利用、ありがとうございました。

投票マッチングはあくまでも参考に、でも、これをきっかけに政策について関心を持って頂けたら製作者としては嬉しいです!

鈴木邦和氏 プロフィール

1989年神奈川県生まれ。東京大学在学中に政治サイト「日本政治.com」を運営。ボートマッチサービス「投票マッチング」の設計・提供を行う。

2017年から東京都議会議員を1期務め、都政のデジタル化などに取り組んだ。現在は地方自治体のDXのサポートを行う他、選挙ドットコム初となるボートマッチサービス「投票マッチング」のプロデューサーを務めた。

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