【高校野球】公立進学校の静岡高を7度甲子園に 名将が明かす「心に火をつける」指導とは?

静岡高・栗林俊輔前監督【写真:間淳】

就任2年目に指導方針を転換、きっかけは他校の練習視察だった

控え選手がチーム力を上げる。静岡高を春夏通じて7度の甲子園出場に導いた栗林俊輔前監督は就任2年目の冬に指導方針を転換し、チームの黄金期を築き上げた。First-Pitch編集部が展開する少年野球の「指導」をテーマにした連載「ひきだすヒミツ」。今回は栗林氏の指導の根本である、選手の「心に火をつける」「個々の長所を生かす」指導法を聞いた。

周囲からの期待を感じながら結果を出せずに苦しんでいた。2008年に伝統校・静岡高の監督に就任した栗林俊輔前監督は2年目を終え、春も夏も甲子園切符を手にできなかった。「何とかしないといけない」。向かったのは愛媛県の今治西高だった。

当時、今治西を指揮していたのは大野康哉監督。栗林氏にとって、筑波大野球部の1年先輩にあたる。今治西は静岡高と同じ公立の進学校でありながら、毎年のように甲子園に出場していた。バックネット裏から今治西の練習を見た栗林氏は、衝撃を受けたという。

「練習は公式戦さながらの緊張感がありました。ただ、練習の合間に大野監督が選手へかける言葉が温かい。控え選手にまで細かな目配り、気配りをしているのに驚きました」

当時、選抜出場を決めていた今治西には2学年で約60人の部員がいた。ノックを受けるのは固定のメンバーだけで、控え選手はダイヤモンドの外に並んで声を出したり、練習をサポートしたりしていた。大野監督は軽率なミスをしたメンバーに対して的確な指摘をしながら、控え選手の表情や動きにも注意を払う。「今のプレーに応援、サポートしているお前たちは納得してる?」。控え選手の気持ちを代弁するように、メンバーを鼓舞していた。

「全ての選手に役どころをつくろうと心掛けました」

練習後、大野監督は足を怪我していたエースを車で自宅まで送り届けた。大野監督は車内で「こいつは俺のことをタクシーだと思っているんですよ」と笑う。栗林氏は練習で見せる厳しさとのギャップに「選手の懐にスッと入っていけるのは、日頃から選手のことを考えて、大切にしているからだと学びました」と指導のヒントを得た。

「とにかく結果を出さないといけないと思っていましたが、そうではありませんでした。選手を大切に育てることで、結果は後からついてくる。もし選手のためにやった上で結果が出なかったとしても、何も恥ずかしいことはないと考えるようになりました。考え方を変えたら不思議と結果が出始めました」

今治西を訪問してから1年半後の夏、栗林氏は就任4年目で初めて甲子園切符をつかんだ。そこから、昨年退任するまで、春夏合わせて7度の甲子園出場を果たした。指導の根本にしたのが「心に火をつける」、「個々の長所を生かす」という2つのポイント。控え選手の生かし方は指導の特徴だった。

「長所を磨くと個性になる。個性を磨くと武器になる。長所を見極めて個々の武器で勝負させる、全ての選手に役どころをつくろうと心掛けました」

中にはプレーヤーではなく、スコアラーに適性があり、やりがいを見出せると感じた選手もいた。データの蓄積がいかに大切かを伝えると、その選手は期待以上の仕事で応えた。打率や本塁打、打点といった基本的な数字を入力するだけでなく、変化球に対する打率や左右投手別の打率、四死球による出塁率など、自主的にチームメートの特徴を分析した。試合中もベンチで相手バッテリーの傾向を味方に伝え、チームの頭脳となった。

「控え選手が重要な役割を担うと、チーム力は上がります」

「心に火がつけば、選手は主体的に努力をします。控え選手が重要な役割を担うとチーム全体への波及効果が大きく、チーム力は上がります」

選手の特徴や適性を見極めることに重点を置いてきた栗林氏が大切にしてきたのは、周りの人から話を聞くことだった。野球部長やコーチだけではなく、選手の担任やチームメートの意見を重要な判断材料とした。

「自分の考えは間違いがあるという前提なので、色んな人の考えや意見を聞いて総合的な判断をします。判断を誤らないように、情報を更新して選手像をつくり上げるのが大事だと思っています」

選手を大切にして長所を伸ばす。結果は、その先にあると静岡の名将が証明している。

○栗林俊輔(くりばやし・しゅんすけ)1972年9月8日生まれ、静岡県磐田市出身。磐田南高から筑波大。現役時代は捕手。磐田北、浜松工などの監督を経て、2008年から静岡高を指揮した。甲子園には春3度、夏4度出場。静岡高では西武・鈴木将平外野手ら3人のプロ野球選手を輩出。浜松工の教え子には元日本ハム・浦野博司投手がいる。

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