11月13日、水戸芸術館現代美術ギャラリーにて「佐藤雅晴 尾行-存在の不在/不在の存在」展が開幕する。会期は2022年1月30日まで。アニメーション等を用いて制作された、現実と非現実が交錯する独自の映像作品26点と、平面作品 38点による計64点を展示する。
佐藤雅晴は1973年大分県生まれ。1999年東京藝術大学大学院修士課程修了後に渡独し、国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに在籍。10年間のドイツ滞在を経て、2010年に日本に帰国してからは、茨城県取手市を拠点に活動した。原美術館での個展(2016)をはじめ国内外の展覧会に多数参加し、高い評価を得ている。しかし帰国直後に上顎癌が発覚、闘病生活を送りながら制作に励んだが、2019年に惜しまれつつも45歳で他界した。
佐藤は主に、ビデオカメラやスチルカメラで撮影した日常の風景をパソコン上でペンツールを用い、なぞるようにトレースしてアニメーション化する、「ロトスコープ」と呼ばれる技術を用いた映像作品で知られる。現実と非現実が交錯する独自の世界観が展開される作品は、現代美術、映画、アニメ、メディアアートといった表現領域を越え、大きな注目を集めてきた。
生前、佐藤はトレースという行為について、描く対象を「自分の中に取り込む」ことだと語ったという。それは、自身の暮らす土地や目の前の光景への理解を深め、関係を結ぶ行為ととらえることもできるだろう。いっぽう鑑賞者は、実写とのわずかな差異から生じる違和感や、現実と非現実を行き来するような知覚のゆらぎをおぼえる。人それぞれに多様な感情や感覚を呼び起こす佐藤の作品は、見ることの奥深さと豊かさを与えてくれるものといえるだろう。
本展は、今年初夏に開催された大分県立美術館から巡回。1999年に渡独し初めて制作した映像作品《I touch Dream #1》から、晩年作までを総覧する回顧展となっている。
現存するすべての映像作品が一堂に展示され、なかには未発表の映像作品《SM》(2015)も含まれる。
また同館で独立する展示室9では、死の直前まで描き続けた「死神先生」シリーズ全10点を展示。作家の活動の全貌が紹介される、貴重な機会だ。