衆院選10代有権者の投票率は1.5%の増加。若者の投票を増やすために求められること(原口和徳)

先月31日に行われた衆議院議員総選挙での10代有権者の投票率が発表されています。

「VOICE PROJECT」などの選挙への関心を高めるための呼びかけや「選挙割」、「ボートマッチ」などの様々な取組みが行われましたが、若者の投票状況はどの様に変化したのでしょうか。

18歳有権者の投票率は前回衆院選から0.4%増加

総務省の発表によると、18歳有権者の投票率は51.14%でした。前回衆院選での18歳有権者の投票率が50.74%でしたので、0.4%の増加となりました。

また、19歳有権者の投票率は35.04%と、前回衆院選に比べて2.7%の増加となっています。

なお、全年齢の投票率(小選挙区)は55.93%でした。こちらは53.68%であった前回衆院選から2.25%の改善となっています。

図表1_10代有権者の投票率の比較

19歳有権者において全年代よりも投票率が増加していますが、18歳有権者及び10代有権者においては全年代ほど投票率が増加していない状況です。

前回参議院選挙に比べると大幅な改善も衆院選の特性も要考慮

参議院議員選挙と比べてみると投票率が大幅に改善しているとの指摘もあります。

確かに、前回の参院選(2019年)と比べると、18歳投票率は15.5%、19歳投票率は6.2%、10代投票率は10.7%と大幅に増加しています。

図表2_若年層の国政選挙での投票率の推移

図表2では、20代有権者を24歳以下と25歳以上の2つの区分に分けて、10代~20代有権者の投票率の推移を表しています。18歳選挙権が初めて導入された2016年参院選が例外的な扱いとなりますが、総じて衆院選の方が前後の参院選よりも高い投票率となっていることがわかります。

若者の投票参加状況を評価する際には、衆院選の投票率は参院選の投票率よりも数%高くなる傾向にあることも考慮する必要がありそうです。

他国との比較からわかる日本の特徴

若い世代の投票参加を考える際に日本の特徴となっているのが、投票率が低下する勢いの激しさです。

図表3_高齢者の投票率と他の年代の投票率の比較

図表3では、65歳~74歳の投票率を基準として、各年代での投票率がどの程度低下(増加)しているのかをグラフ化しています。

日本(衆院選。2017年)では18歳~24歳世代の投票率は65歳~74歳の世代に比べて約40%低下していますが、次に低下幅が大きいアメリカやイギリスでは25%程となっています。

また、各年代の投票率の低下の幅も他国よりも大きく、45歳~54歳の世代であったとしても他の国に比べて2倍に近い低下幅を示しています。

また、日本のこの傾向は、ここ数年で表れるようになってきたものではありません。

図表4_高齢者の投票率と他の年代の投票率の比較(日本、経年)

図表4からは、10年前や20年前であったとしても同様の傾向にあることが確認できます。

例えば、1996年に34歳以下の有権者であった人たちは1962年~1976年の生まれ人たちであり、バブル世代(1965年~1970年生まれ)や団塊ジュニア世代(1971年~1974年生まれ)と呼ばれる、現在社会の中枢を担っている人たちです。

若い世代の有権者の投票を増やすために求められること

図表5にあるように投票を棄権する若者の理由は様々です。

特に全年代との間で差が大きいもの=若者固有の課題となっている可能性があります。

主だった課題への対応策を検討してみましょう。

図表5_衆院選(2017年)における投票の棄権理由

「仕事があったから」という棄権理由への対応には投票環境の整備が考えられます。

今回の衆院選では期日前投票所が5,940か所設置されましたが、これは投票所(46,466か所)の1/8の規模です。全投票数に占める期日前投票の割合が約35%であることや、若者の棄権理由を踏まえると期日前投票所をより多く設置することなどが考えられます。

例えばオランダ(総選挙(2021年)の投票率74.92%)では、投票日を3日間に延長するなどして投票機会を大幅に増やす取り組みなどが行われています。

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「自分のように政治のことがわからない者は投票しない方がいいと思ったから」では学校が果たす役割が大きくなります。文部科学省の調査では高校生の95.6%が在学中に主権者教育を経験することが明らかになっていますが、学習内容として「現実の政治的事象に関する話し合い」や「模擬選挙等の実践的な学習活動」を経験する生徒はいずれも半数に達しておらず、机上の知識として選挙制度を学ぶだけの生徒も少なくありません。

次年度から導入される新科目「公共」を契機として制度理解にとどまらない実践的な学習活動を経験する機会を増やすことが考えられます。

また、同じ「18歳の有権者」でも、高校に在学中の人の方がすでに卒業している人よりも投票率が高くなるとの報告もあります。参院選(2019年7月)と衆院選(2021年10月)の18歳有権者の投票率の差にも高校在校者の割合が影響している可能性があります。高校を卒業した人が政治的教養や投票する意義を学び、考えることのできる機会づくりも重要な取組みとなります。

「選挙にあまり関心がなかったから」という理由については、今回の衆院選で見られたような活動が継続、また様々なメディアで発信されていくことが期待されます。

初めて18歳選挙権が実現された国政選挙である2016年参院選では、18歳だけでなく19歳や20歳代前半の有権者の投票率が向上していますし、国政選挙に比べて注目度が低い地方自治体の選挙では、同じ2016年に行われた選挙でも若者の投票率は下がり、当該選挙での全年代投票率との差も広がっています。

「注目」は若い有権者が投票するきっかけとなりえます。

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現在、社会の中枢を担う方々もそうであったように、年齢の低下につれて投票率が下がっていくことは、日本に暮らす多くの人たちが当事者として経験してきた、私たちの暮らしに埋め込まれた社会的課題ともいえる状況です。 課題の解決を目指す場合には、今回の衆院選での10代有権者の投票率の改善に一喜一憂せず、今後もさまざまな取組みを重ねていくことが求められます。

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