家族が認知症になる前に理解したい「成年後見制度」のしくみ。メリット・デメリットは?

介護などの場面でたまに耳にする「成年後見制度」という言葉。判断力のない人に代わって代理人が契約などをできるようにできるみたいだけど、詳しいことはよく知らない……という人は多いのではないでしょうか。この制度では何ができて何ができないのか。利用することによるメリット、デメリットは? 行政書士が解説します。


「成年後見制度」とは? 何ができるの?

「成年後見制度」とは、認知症、知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分であるために、契約など法律行為の意思決定が困難な人に代わって、定められた人が法律行為を行うことで本人の能力を補う制度です。

「成年後見制度」で代理できる法律行為は、財産に関する法律行為で「財産管理」と「身上監護」を目的とするものです。

「財産管理」とは、例えば預貯金の管理・払い戻し、公共料金の支払い、年金の受け取り、不動産の売買・賃貸契約など重要な財産の管理・処分、遺産分割・相続の承認・放棄など相続に関する財産の処分などです。

「身上監護」とは、日常生活や調印などでの療養看護に関わる法律行為です。例えば日用品の買い物、介護サービスの利用契約・要介護認定の申請・福祉施設への入所契約や医療契約・病院への入院契約などです。また、これらの業務に付随して、収入と支出の管理や帳簿の作成を行います。

なお、「身上監護」と聞くと食事や着替え、入浴などの身の回りのお世話をしてくれるイメージを持つ方がいるかもしれませんが、身体介護などの行為(事実行為)は役割に含まれません。

どんな時に「成年後見制度」が必要になるの?

では、どんな時に「成年後見制度」が必要になるのでしょうか。

例えば、家族が認知症を発症し、施設への入所が決まり、そのための諸費用を入所する本人の預貯金で支払いするとします。このとき、金融機関は、家族であっても預貯金払出や解約にはなかなか応じてくれません。このような場合、「成年後見制度」にしたがって定められた人が金融機関での手続きを行うことができます。このような場面で金融機関から案内を受け、成年後見制度を知り、利用する方が増えています。

また、別の例として、財産が自宅と預貯金が少額の場合で、施設入所の費用を自宅売却して充てる場合です。こちらも、判断能力がなくなってからでは、不動産の売却を行うことができません。売却をするために、成年後見制度を利用し施設入所費用を捻出するということで利用を始める方が増えています。

「成年後見制度」を利用するにあたってのメリット・デメリット

成年後見制度は、例のような日常生活等に支障がある人たちを支援して、判断能力を補い本人の権利を守るということができるのが最大のメリットです。

しかし、成年後見制度を利用し、弁護士、司法書士等の専門家が後見人となる場合、報酬の支払いが必要になります。また、本人の財産を有効に活用しようと思っても、不動産や株式投資などの資産運用は、リスクがあるので基本的に認められません。子や孫への生前贈与などもできない可能性が高くなります。

さらに、一度成年後見人が就くと、本人の判断能力が回復したと認められる場合を除き、途中で成年後見制度の利用をやめることはできません。本人が亡くなるまで後見は続きます。

「成年後見制度」には「法定後見制度」と「任意後見制度」がある

「成年後見制度」には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

「法定後見制度」は、判断能力が低下した人、あるいは判断能力がなくなった人のために、その人に代わって契約ごとや財産の管理をしてくれる人を家庭裁判所に選んでもらい、本人の支援をするものです。つまり、本人の判断能力が低下してから、本人または親族等が家庭裁判所へ申し立てることによって始まります。

これに対して「任意後見制度」は、将来的に判断能力が低下した場合に備え、本人の判断能力が低下する前に、「誰に」「何を」任せるのかを決めておくことができます。任意後見を利用するには、将来後見人となる人と契約(任意後見契約)を結ぶことが必要です。この契約を結んでおくことで、将来判断能力が低下した場合には、契約を結んだ人が後見人となることができるのです。

「成年後見制度」を利用するためには、本人の必要に応じて「任意後見契約」の締結をしておくか、「法定後見制度」を利用するかを判断する必要があります。ただし、本人の想いや願いをより尊重できるよう任意後見制度を利用した後、必要に応じて法定後見制度に移行することも可能になっています。

ただし、「任意後見制度」と「法定後見制度」にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

「任意後見制度」のメリットと注意点

「任意後見制度」は、「法定後見制度」より本人の想いや願いを反映させやすいというメリットがありますが、注意しなければならない点もあります。

・注意点1
「任意後見制度」は、契約に記載した代理権しかありません。例えば、契約時には必要ないと考えていたことや、想定外のことがあった場合、契約に記載がなければ対応ができません。

・注意点2
「任意後見制度」には、取消権がありません。取消権とは、判断能力が低下した被後見人が誤った契約をした場合、その契約を取り消すことができる権限です。例えば、騙されて高額な商品を購入した場合などでも、任意後見制度では取り消すことができません。

法定後見制度は「後見」「保佐」「補助」の3種類に分けられる

契約に記載した代理権しかない「任意後見制度」に対して「法定後見制度」は、代理できることが法律により定められています。その権限は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分けられています。それぞれ、どんな人が対象になるのでしょうか。

●後見
「後見」の対象になるのは、判断能力がほとんどない人です。自分の行動の結果を判断できないため、「後見人」となった人が代わって契約ごとや財産の管理を行い、本人を支援できます。例えば、日常的に必要な買い物も誰かにやってもらう必要があるような人です。このような場合、定められた「後見人」は日常生活に関する行為(簡単な買い物等)を除き、すべての法律行為に関する取消権・代理権を持ちます。

●保佐
「保佐」の対象になるのは、日常的な買い物などは一人でできるけれど、難しい契約ごとはできないような人です。

財産管理に関する判断能力が平均より低いため、特定の法律行為については定められた「保佐人」が同意をすることにより、本人を支援します。例えば、日常的に必要な買い物程度は本人ができるけれど、重要な財産行為(不動産の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等)ができないような場合、「保佐人」は重要な取り引きに関する同意見・取消権を持ちます。ただし、「後見人」とは違い、代理権はありません。

●補助
「補助」の対象になるのは、たいていのことは一人でできるけれど、難しい契約ごとなどはできるかどうか不安がある人です。「保佐」と似ていますが、成年後見制度の基本理念である「自己決定権の尊重」「残存能力の活用」をより実現するため、平成12年の改正により新たに創設された制度です。

元気なうちに家族と話し合っておくことが大切

以上のように、本人や家族の状況により、活用できる効果的な制度はまったく違います。大切なことは「元気なうち」に家族と話をすることです。

・自分は何をしたいのか
・家族は何が心配なのか

お互いの考えていることを聞いてみましょう。そのような場に、専門家に同席してもらい、助言を求めるのは非常に有効です。第三者として、実務や法律上の問題点などもアドバイスをしてもらうことで、より具体的な話ができることでしょう。

特に法律上の制度を利用する場合には、元気な「今」だからできることが多くあります。家族での話し合いは、早いほどできることが増えます。皆さんも年末年始に家族でこのような場を作ってみてはいかがでしょうか。

行政書士:細谷洋貴

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