【追う!マイ・カナガワ】神奈川「県民歌」知ってる?(下)地域愛育む「市歌」は浸透

横浜開港50年を記念し、1959年に制作された「横浜市歌」の絵はがき(横浜市立中央図書館提供)

 「神奈川県の県民歌『光あらたに』は今は全く耳にしないし、光があたらなくなりました。歌を知っている人はどれくらいいるんでしょうか?」。開成町に住む50代の会社員男性から「追う! マイ・カナガワ」取材班にこんな声が届いた。確かに横浜市歌は有名だが、県歌は耳にしたことがない。一体どこで歌われているのか?

◆開港50周年を記念

 神奈川県民歌とは対照的に、県内には市民に親しまれてきた市歌がある。

 1909(明治42)年、開港50周年を記念して、森鴎外が作詞してつくられた横浜市歌だ。市民に浸透し、最近ではベイスターズの応援で勝利のファンファーレなどに使われている。

 戦前から小学校の運動会などで「市歌ダンス」として親しまれ、平成~令和になっても入学式や卒業式で歌われる。市生涯学習文化財課が「県民歌より歌われる機会はあるかもしれない」と言うように、学校での歌唱指導が浸透のカギのようだ。「かなざわの四季」(金沢区)など5区には区歌もあるという。

 県もその昔、光あらたにの普及に教育現場の活用を試みようとしたが、県教委からは「県民歌は教科外で組合が反対」とレコードの配布を断られた─とくだんの記事にある。状況を打開しようと、フォークダンスの振付を制作(1966年12月10日付)したこともあったが、振るわなかったようだ。

 今でも県立高校などに流すように依頼しているというが、担当者は「機会があれば流してほしいというレベルの話です」とこぼす。

◆市歌がないのは

 マイカナには「26年前に横浜から海老名に越した時に、市の歌がないのが不思議でした。子供は『運動会で海老名市の歌を聞いた』と言うのですが…」という女性からの疑問も届いた。

 調べると、市歌は県内19市のうち14市に存在した。それぞれ市制の節目などに制作され、2001年制定の座間市は「WE LOVE ZAMA!」と横文字で存在をアピールする。

 市歌がないのは伊勢原、秦野、厚木、海老名、南足柄市だが、同市では1978年に制作された「あしがら金太郎音頭」が夏祭りなどで親しまれている。同市の広報課は「かなり地域に浸透しており、地域の自然や歴史、文化が歌われ、地域を愛する心が育まれています。だから市歌がないのかもしれない」と話す。

◆信州大・中山裕一郎名誉教授 歌詞に「平和」「文化」

 横浜市歌は授業で習うので、市内の子どもたちは100%歌えるだろう。長野県歌「信濃の国」も、学校で教えられたり、駅でも流れていたりと、いたる所で耳にすることが普及につながっている。ともにメロディーが非常に立体的で、音楽的にも豊かだ。

 どんなに素晴らしい曲でも、歌う機会がなければ歌えなくなる。奇跡的にうまくいっているのが、信濃の国と横浜市歌だ。多くの自治体が周年を記念して歌をつくっているが、アフターケアが必要だ。

 神奈川の市歌は、相模原市の「平和のけむりたつところ」や、逗子市の「限りなき 文化の稔(みの)り」など、「平和」と「文化」の歌詞が多い。両方とも戦後を象徴するキーワードで、開かれた印象を受ける。光あらたにも「希望の虹の立つ~」や「平和の花の咲く~」など良い歌詞があるので、ぜひ歌ってほしい。

◆取材班から

 ちなみに、海老名市には78年制作の「新海老名音頭」と翌年誕生した「わがまち海老名」があり、地元の名所・国分寺跡などを歌っている。市によると「盆踊りや市民まつりで使われているが、公認の市歌ではない」とのことでした。お子さんの運動会で流れたのは、どちらでしょうか。

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