プロ野球では、来季から3人の新監督が指揮を執る。
日本ハムの新庄剛志、ソフトバンクの藤本博史、そして中日の立浪和義監督だ。
マスコミの露出度では新庄監督が派手な言動で注目を浴びているが、中日の再建を目指す立浪監督の動向からも目が離せない。
「ミスタードラゴンズ」にとって13年ぶりの古巣復帰となる。これまでにも何度か監督候補として名前が挙がってきたが、曲がり角に立つチームの立て直しを託された。満を持しての登場と言っていいだろう。
前年の3位から今季は5位に転落。投手出身の与田剛前監督からの交代はやむにやまれぬ“お家の事情”が色濃く反映している。
とにかく打てない。今季の成績を振り返ると投手力はチーム防御率3.22でリーグトップ。12球団でもナンバーワンである。それが打撃部門になるとチーム打率2割3分7厘、同本塁打69、同得点405とすべてがリーグワーストだ。
上位チームがクライマックスシリーズ、日本シリーズと激戦を繰り広げている中で、立浪ドラゴンズは名古屋市内で秋季キャンプに取り組んでいる。
立浪監督は就任早々、茶髪や髭を禁止した。「スポーツマンらしく清潔感を持って」とナインに訴えた。
立浪監督は、高校野球の名門PL学園(大阪)で全国優勝、その後も球界を牽引した名選手だ。
その厳しさは早くも打撃指導に表れている。
「20発と80打点を打てる選手が3人は欲しい」と言う。その候補に主砲のダヤン・ビシエドと昨年3割をマークした高橋周平に新外国人を挙げた。
といっても、今季の成績を見るとビシエドが17本塁打に70打点。高橋に至っては5本塁打に39打点で、新外国人は未知数となればハードルは極めて高い。
そこで「立浪打撃教室」の開講である。
ある日は高橋を新任の森野将彦打撃コーチとともに指導した。
「彼は元々、飛距離のあるバッター。ただ、上体が前に突っ込んではボールとの距離が保てないので速い球は打てない。今の悪癖をなくせば飛躍的に良くなる」と見振り手振りを交えて打法改造の必要性を説く。
メンタル面でも「結果に一喜一憂せず、切り替えを早くすること」とアドバイスは多方面にわたる。
ビシエドに対しても「今の形なら(本塁打は)15から20本程度だが、ちょっと形を変えれば30本はいける」と、来春のキャンプで直接指導に乗り出す構えだ。
秋季練習では若手有望株の根尾昂、石川昂弥、岡林勇希らを特別指定選手に指名して英才教育を施している。
今年のドラフトでは1位にブライト健太(上武大)、2位に鵜飼航丞(駒大)と強打の大学生野手を指名。このあたりにも、打棒復活にかけるチーム方針がうかがえる。
立浪監督の意識改革は打撃力の向上だけにとどまらない。現役時代、二塁、遊撃手として活躍した経験から「投手を中心にセンターラインを固めた野球」を目指し、勝利への執念をナインに求める。
仮に打てなくても、バントや盗塁を絡めて数少ないチャンスをものにする。本拠地のバンテリンドームは広くて本塁打の出にくいことで知られる。指揮官の思惑通りに本塁打が量産できれば得点力は飛躍的に上がる。
だが、計算が狂っても機動力の向上で補うことはできる。立浪監督は、487二塁打のプロ野球記録を持つ。そんな「立浪2世」が誕生すればこれまでのような貧打も解消されるだろう。
監督が代わったからと言って、一朝一夕にチームが生まれ変わるほど甘いものではない。だが、中日にはリーグ屈指の強力投手陣が存在する。そこに一味、ふた味違った攻撃力が生み出せたら、少なくとも「台風の目」くらいの存在にはなれる。
かつて、落合博満監督の下でセ・リーグを席巻した「強竜」の栄光から10年近くの時がたつ。それだけにチームのレジェンドであり、切り札的存在でもある立浪監督の誕生に地元の期待は大きい。
来季の開幕までに、どんな変身を遂げているか。新監督の熱烈指導はこれからが本番である。
荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル
スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。