【レースフォーカス】人々を魅了し続けたバレンティーノ・ロッシというライダー/MotoGP第18戦バレンシアGP

 バレンティーノ・ロッシ(ペトロナス・ヤマハSRT)が、バレンシアGPでMotoGP最後のチェッカーを受けた。10位でフィニッシュラインを駆け抜けたあとイエローに染まる観客席の側にバイクを止めたロッシは、多くの人々に囲まれ、やってきたライダーの一人一人とハグをかわす。最後のレースを終えたロッシに拍手と歓声が贈られていた。
 
 引退レースを迎えたロッシは、間違いなくバレンシアGPで大きな話題の一つだった。木曜日にはロッシの会見が行われ、「日曜日のレース後に自分の気持ちがどうなるのかはわからない。最後までいいレースがしたい。でも、普通はそういうとき楽しんで笑っている。あんまり泣かないな。これが僕のキャラクターだから」と語っていた。

 決勝レース後、オンラインで行われた取材に姿を現したロッシはやはり笑顔だった。そこにやってくるまでにたくさんの人たちと感情を分かち合ったからだろう、少し、ほおが紅潮していただろうか。ただ、その表情はすべてを終えさっぱりしたものでもさみしさをたたえたものでもなく、レースを楽しみ、走り切ったあとのそれのように見えた。
 
「こんなに特別な週末になるとは思わなかったよ」と、ロッシは10番グリッドからスタートし、10位で終えた最後のMotoGPレースについて切り出した。

「MotoGP最後のレースウイークはちょっと心配だった。ずっと長い間、この瞬間を考えていたんだ。そしていつも、どんな風に感じるのか、レースに集中できるのかがわからなかった。それに、悲しいのかどうかもね。でも、木曜日から素晴らしい週末だったよ」

 最後のレースウイークを迎えたロッシには、サプライズが用意されていた。木曜日には、125ccクラスからMotoGPクラスでロッシがチャンピオンを獲得した9台のバイクが用意され、ロッシは懐かしむようにその一台一台にまたがった。決勝レースに向けては、ロッシが主宰するVR46アカデミーに過去、または現在所属するライダーたちが、ロッシのトリビュート・ヘルメットを被ってレースに臨んだ。そのうちの一人、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)はロッシがヤマハに移籍して1年目でチャンピオンを獲得した2004年のデザインのヘルメットで走り、優勝を飾っている。

「バイクやヘルメットなどたくさんのサプライズがあったし、木曜日の会見のあと、そしてレース後にMotoGPライダーみんなとハグをかわしたことが(感動的だった)。みんながそこにいることも、素晴らしかった。でも、やっぱりVR46アカデミーのライダーたちが被ったヘルメットがサプライズだったな。ほんとにうれしかった。昨日彼らがそれを見せてくれたときは感動だったよ」
 
 ロッシの最後のレースに向けた取り組みは、彼を象徴しているようだった。ロッシはバレンシアGPで全力を尽くしたいと考えていた。そのために、アルガルベGPのあとにはチームと話をしたという。「最後のレースで最下位になんてなりたくなかったからね」
 
「今日は予想していたよりもずっといい結果で終われたよ。10位だからね。今季のベストレースだったと思う。すごく楽しんだ」
 
「長いキャリアを、世界のトップ10に入る結果で締めくくることができたんだ。すごく大事なことだよ。大きな意味がある。この先ずっと『僕はMotoGPのラストレースをトップ10で終えたんだ』って言えるよ(笑)。とてもいい気分だ。レース後にはお祝いをして、チャンピオンになったみたいに楽しんだ。決して忘れられないよ」

 多くの周回数でロッシの後ろを走っていたのは、奇しくもVR46アカデミーの一期生であるフランコ・モルビデリ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)。そのモルビデリはロッシとともに走った最後のレースについて、こう語っている。

「彼のMotoGPの最後のラップを特別な位置で楽しむチャンスに恵まれて、とてもラッキーだったと思っている。彼のライディングは素晴らしくて、信じられないほどだった。最終ラップでは彼のスピードが上がった。バレがMotoGPの最後の瞬間まで楽しみ、そして本当に感謝しているのがわかったんだ」

 MotoGPライダーとしての最後のレースに至るまで、ロッシは自分自身のレースを貫いた。ロッシは最後のレースに力を注いで演出し、まさに有終の美を飾ったのだった。それは、バレンティーノ・ロッシが9度のチャンピオンに輝いたバレンティーノ・ロッシである所以なのだろうと思わされるものだった。ロッシは冷めやらぬレースへの情熱を表すように、こうも語っていた。
 
「(MotoGPのキャリアが)終わってしまったことが悔やまれるよ。この週末はキャリアの最後のレースウイークではなく、シーズン最後のレースウイークのように思っているんだ。だからきっと、来週、来月にはもっときついだろうね。特に3月。みんなが(MotoGPのシーズンを)始めるときに、僕はそこにいないんだから」

■冠されたレジェンドの称号

 ロッシはロードレース世界選手権に参戦してきた26年間で9度のチャンピオンに輝き(うち最高峰クラスは7度)、MotoGPクラスで89勝、199回の表彰台を獲得した。通算431戦は、最多の出走回数だ。その輝かしい結果もさることながら、ロッシはMotoGPで自身が成し遂げたことがあると考えていた。
 
「僕のキャリアの中でもすごくポジティブだったのは、たくさんの人がMotoGPを、そしてキャリア初期から僕を追いかけてくれるようになったことだと思う」

「このスポーツはとても大きくなり、さらに有名になった。イタリアだけではなく、世界中でね。僕のキャリアのなかで、(MotoGPの)アイコンみたいな存在になれたことは大きな喜びだ。ライダーとして結果はすごく大事ではあるけれど、キャリアの中ではそれが最高のことだったと思っているんだ」

 世界中のMotoGPファンを魅了し続けてきたロッシは11月14日、MotoGPの殿堂入りを果たした。現役時代からすでに謳われていたとおり、レジェンドライダーとなったのだ。バレンティーノ・ロッシが引退し、一つの時代は幕を下ろしてしまったかもしれない。けれど、形は違ってもロッシは今後も人々を魅了する存在であり続けるのではないだろうか。

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