憧れという灯

 その当時は米大リーグのチーム、レッドソックスが「三顧の礼」を数字で示した、といわれたらしい。15年前のきょう、西武ライオンズの松坂大輔投手との独占交渉権を破格の60億円で得たと発表された▲目上の者が礼を尽くして、才能豊かな者を迎え入れる。中国に由来する故事成語で例えるのも妙な感じだが、大リーグの側が身を乗り出して日本の26歳の逸材を欲しがったのは、プロ野球史に残る出来事だろう▲海外で三振を奪うたび、野球好きの子どもたちの胸に憧れという灯をともしたに違いない。一投一投は、未来に輝く誰かを育てる種まきでもあった▲その投げ方を「まねしていた」という。きのう東京で会見した大谷翔平選手は大リーグでの歴史的な活躍を振り返るとともに、今季限りで引退した松坂さんをねぎらった▲7月、松井秀喜さんの日本人最多本塁打を更新したときは「子どもの頃からずっと見ていたので、光栄」と語っている。かつて種まく人たちの活躍に目を輝かせていた少年は、同じ舞台で、投打ともに大輪の花を咲かせた▲会見では子どもたちに向けて「目指されても問題ないような人間として頑張る」と謙虚に語った。憧れという灯をいま、大谷選手が誰かの胸にともしている。未来へと続く、希望のトーチリレーを見ている気がする。(徹)

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