第1回「ムーンライト・サーファー」〜療養中のPANTAが回顧する青春備忘録

PANTA(頭脳警察) 乱破者控『青春無頼帖』

石川セリの曲の依頼があった、音響ハウスでソロファーストアルバムのレコーディング真っ最中のときだった。

スタジオを出て隣を歩くディレクターの高垣健に、オファーがあったこと、そして「ムーンライト・サーファー」というキーワードで考えてるとボソッと言ったのははっきり覚えている。

“小さな波に人生を滑らす人、大きな波に叩きつけられる人、心の海に夜の波…ムーンライト・サーファー…♬”

「八月の濡れた砂」のヒットで、自分よりちょっと上の世代に圧倒的な人気を誇る絶世の美女、石川セリ。この曲からかな、さるプロデューサーから、「PANTA、人に曲を書くとき、テーマを“海”に絞ってくれ、後でまとめてアルバムにしたいんだ」と言われ、いまだにアルバムにこそなっていないが、「Vacance」(岩崎良美)や「白いヨット」(杏里)などその痕跡は色濃く残っている。

依頼があったのはフォノグラムの名ディレクター、本城和治さん。自分の死ぬほど好きなフランス・ギャルのディレクターでもある。

本城さん曰く、「PANTA、この『ムーンライト・サーファー』は隠れたヒット曲にしたい」と言われた。そしてその言葉通り、いまだに夏になるとカラオケでもチャートが上がってくる曲となっているのだ♬

その本城さんの部下が頭脳警察初代ディレクターの岩田廣之さん。のちにビクター社長を経てMCA社長、ユニバーサル会長とトントン拍子の出世街道を昇った男でもある。当時、フォノグラム時代はウォーカー・ブラザーズを担当していたのだが、シングルを決められず、ファンクラブを集めて人気投票をさせ、「ダンス天国」に決まってビッグヒットにしてしまうというなんとも漫画みたいな業界話ではある。

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