【レースフォーカス】初の表彰台独占を達成したドゥカティ、2冠獲得の進化/MotoGP第18戦バレンシアGP

 2021年シーズンMotoGPの締めくくりとなった最終戦バレンシアGPは、ドゥカティが予選、そして決勝レースでも表彰台を独占して終わった。今季はコンストラクターズタイトル、そしてチームタイトルを獲得。ドゥカティが“ドゥカティ勢”として強かったのはなぜなのだろうか。
 
 バレンシアGPはほとんどドゥカティが席巻したと言えるかもしれない。予選ではルーキーのホルヘ・マルティン(プラマック・レーシング)がポールポジションを獲得し、ファクトリーライダーであるフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が2番手、ジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)が3番手でフロントロウに並んだ。
 
 決勝レースでは序盤にポールポジションスタートのマルティン、そして6番グリッドスタートのアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)とともにトップ争いを展開。しかしリンスが11周目に転倒すると、トップ争いはマルティンとバニャイアの一騎打ちとなった。バニャイアは15周目にマルティンをかわしてトップに浮上する。じつはマルティン、決勝日前夜に体調を崩していたのだという。決勝レース後の会見も欠席している。
 
 3番手にはミルがつけていたが、ミラーが19周目にミルをオーバーテイク。バニャイア、マルティン、ミラーの順でチェッカーを受けた。最高峰クラスでドゥカティが表彰台を初めて独占する快挙だった。ドゥカティ・レノボ・チームとしてはバレンシアGPの結果により、2007年以来となるチームタイトルを獲得している。
 
 といった具合にバレンシアGPはドゥカティが予選、決勝レースともにトップ3で終えたわけだ。ここで少し詳しく2021年シーズンのドゥカティの成績を見ていこう。ドゥカティとしてはアルガルベGPで2年連続となるコンストラクターズタイトルを獲得。チームタイトルとともに2冠を達成した。ライダーズチャンピオンシップとしては、バニャイアがランキング2位、ミラーが4位。マルティンはルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、インディペンデントチームのライダーとしてはヨハン・ザルコ(プラマック・レーシング)がトップだった。
 
 そして、予選結果としては、全18戦中11戦でドゥカティがポールポジションを獲得している。さらに3番手までを見れば、全戦でドゥカティのライダーがフロントロウに並んでいるのである。なかでもバニャイアは、第13戦アラゴンGPから第17戦アルガルベGPまでの5戦連続を含む6度のポールシッターとなっている。
 
 決勝レースに目を向けよう。ドゥカティライダーが表彰台に立たなかったのは、全18戦中、第6戦イタリアGP、第8戦ドイツGP、第9戦オランダGP、第12戦イギリスGPの4戦のみ。優勝回数ではバニャイア、ミラー、マルティンの3人のライダーによって7勝を挙げている。また、ファクトリーチームとサテライトチームの全6人のライダーが表彰台に立った。
 
 さらに第10戦スティリアGP以降のシーズン後半戦の9戦だけを切り取ってみれば、予選では第12戦イギリスGP以外のすべてでドゥカティライダーのいずれかがポールポジションを獲得し、9戦中5戦で優勝している。うち4勝はバニャイアによるものだ。
 
 こうして見ると、2021年シーズンは、ほとんど孤軍奮闘の状況だったファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)対ドゥカティ勢という図式だったと言えるだろう。ドゥカティは一人のライダーがシーズンを通して安定した成績を残せなかったことでライダーズタイトルを逃した格好になったが、ほとんどのレースでいずれかのドゥカティライダーが表彰台に立ち、コンストラクターズタイトル、チームタイトルを獲得したわけだ。つまり、ドゥカティ全体として、サーキットによる成績の波が小さくなっているのだ。
 
 さて、ドゥカティの躍進の背景には何があったのだろうか。今季はテクニカルレギュレーションにより2020年からエンジンをアップデートすることはできなかった。しかしその分、エンジンの変わらないバイクを約2シーズンにわたって走らせることができた、とも言える。もちろんどのメーカーにとっても同じ状況ではあるが、ライダーにとってはバイクに慣れる、そして開発面ではネガティブな部分を洗い出す時間があったということだ。
 
 バレンシアGP後の決勝レース後の会見のなかで、バニャイアは現在のデスモセディチGP21はドゥカティが長年の課題としてきた旋回性の改善について述べている。

「バイクは昨年とだいたい同じだった。変わったのは、旋回が難しいバイクだったのが、曲がるようになったということだと思う。今やドゥカティのバイクは素晴らしいよ。今季、ドゥカティライダーみんなですごく取り組んできたんだ。考えを変えて、難しかったバイクを変えてきた。そして今は、とても強いバイクになった。ドゥカティライダーは素晴らしいと思う。僕たちは素晴らしいチームだ」

 ミラーも「僕は2015年にMotoGPにステップアップしたけれど、もしそのときのドゥカティに乗りたいかと言われたら『あまり』と答えただろうね。でも今では、みんなドゥカティライダーになりたがっている。ペッコ(※フランセスコ・バニャイアの愛称)が言ったように、ライダーとエンジニアが昨年からどれくらい努力し続けてきたのかってことだと思うよ。この数年の開発に参加できたのは素晴らしいことだ」とバニャイアに同意した。
 
 彼らの話を踏まえれば、ドゥカティの開発の進め方にポイントがあると考えられる。「チームで取り組んでいる」、それがポイントだとミラーは述べている。以下は予選後に語ったことだ。
 
「去年もそうだったんだけど、一つのパーツが誰かにわたるのではなく、すべてグループに投入されるんだ。そしてすべてのエンジニアが集まって、フィードバックなどを話し合う。だから、誰かが特別に貢献した物があるということはないと思う」

「つまり、みんなが同じことに取り組んでいるってことなんだ。あるものをネガティブだと言うライダーもいれば、ポジティブだと言うライダーもいる。でもポジティブだと言う人は、ネガティブなところを見逃しているかもしれない。だから、こういうやり方がうまくいっている。お互いに話し合い、新しいパーツについてコミュニケーションを取り合う。それが新しいバイクの開発に貢献しているんだ」

「ドゥカティはプラマックのライダーたちも巻き込んでいるんだよ。僕もそこ(プラマック・レーシング)にいたからわかる。そして、今年は先のバイクの開発にも力を入れている。だから、彼らのやり方、グループ全体で進めるやり方が大きなカギになっていると思うんだ。これを一人に押し付けることはできない。まずはテストを行い、それから(テストライダーの)ミケーレ(・ピロ)、それから僕たちライダーにやってくるプロセスをとっている。そのためには、みんなが協力しないといけないと思う」

 金曜日に行われたチームマネージャーの会見では、ドゥカティ・コルセのスポーティングディレクター、パオロ・チャバッティが今季について「我々がMotoGPに参戦して以来、2007年(ケーシー・ストーナーがチャンピオンを獲得)とともに最高の成績です」と述べている。2022年には、今季よりもさらに2台増え、8台のドゥカティがグリッドに並ぶ。来季はドゥカティの旋風がさらに強く吹くのだろうか。

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