石木ダム 反対住民の「団結小屋」にアトリエ兼ギャラリー 宅地明け渡し期限から2年 住民の石丸さん「古里を守る」

「団結小屋」内を改装し、アトリエ兼ギャラリーをオープンした石丸さん=川棚町

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、水没予定地で暮らす反対住民13世帯の宅地を含む全用地が、土地収用法に基づく明け渡し期限を迎えて18日で2年がたつ。住民がこのまま応じず、県が行政代執行に踏み切った場合、最初に撤去される可能性があるのが、本体予定地に立つ「団結小屋」だ。反対運動の象徴でもある小屋に、住民でイラストレーターの石丸穂澄さん(39)がアトリエ兼ギャラリーをオープン。新たな拠点にしようと模索している。
 団結小屋は約40年前、抜き打ちで強制測量した県側の動きを見張るために、反対住民らが建てた。トタン張りの外壁には「収用法は伝家の宝刀ではなく鉈(なた)である。返り血も浴びる」などと書かれた看板が長らく掲げられている。
 当初は住民が交代で寝泊まりして警戒。やがて平日の昼間に高齢の女性陣10人前後が集うようになった。しかし、この10年で多くが亡くなり、現在は95歳の松本マツさんが週2回の午前中に通うのみだ。
 運動の主力を担う60~70代の住民は、他の2カ所で抗議の座り込みを続けているため、小屋で過ごすことは少ない。10年ほど前から、石木川周辺の自然や生態系、住民の暮らしをイラストに描き、古里の魅力を発信している石丸さんは「小屋に人がいる状態を引き継がなくては」と自ら活用することにした。
 2部屋のうち、マツさんが使っていない部屋の壁を張り替え、作品を飾るギャラリーに改装した。これまでと違ったイメージを打ち出そうと、室内は思い切ってピンクにした。一方で、外観は「歴史を物語るもの」としてあえて手を入れなかった。
 「石木川ミュージアム」と名付け、月、火曜を除く午後にできる限り滞在。制作に打ち込んだり、訪れた人たちに古里の状況を伝えたりするという。「小屋は私たちのとりでであり、心のよりどころ。人々が集う場を維持し、自分にできる形で古里を守る活動を受け継ぎたい」と話す。
 県側は9月から、堤体両端の斜面掘削に着手。10月に、来年3月30日までを工期とする契約を、施工業者を変えて結び直した。座り込みを続ける住民は「本体着工したと宣伝するのが県の目的。実際はほとんど進んでいない」と話す。これに対し、中村法道知事は10日の会見で「工事を進めているのは任意で(収用に)協力をいただいた土地。反対運動はおやめいただきたい」と述べた。

本体建設予定地に立つ「団結小屋」は住民の反対運動の象徴になっている=川棚町

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