洋菓子店に足を踏み入れると、店内に並べられたスイーツに魅了されて、見ているだけで胸が高鳴ります。
多くの人はスイーツを楽しむことだけを考えると思いますが、それぞれの商品にパティシエの知識と技術が詰め込まれていることを感じとる人は少ないでしょう。
倉敷市広江にあるパティスリー ル・ヴェールでは、地産地消にこだわった洋菓子の開発を日々、続けています。
地元企業とのコラボレーション商品を手掛けてきたパティスリー ル・ヴェールの店主 片岡由治(かたおか よしはる)さんに、一押しの商品について教えてもらいました。
地域食材を使った斬新な商品と、片岡さんが洋菓子作りにかける想いを紹介します。
洋菓子店 パティスリー ル・ヴェールについて
パティスリー ル・ヴェールの概要
パティスリー ル・ヴェールは、倉敷市広江にある洋菓子店。
倉敷市水島方面から岡山市、玉野市へ抜ける幹線道路 県道21号線沿いに店舗を構えています。
週によって販売する商品を変えているのが特徴です。
第3日曜日は柔らかい食感の台湾カステラを提供する「ほわほわの日」、第4日曜日は注文後に商品を完成させる「出来立てスイーツ販売の日」など、お客さんを楽しませる取り組みを続けています。
また、マルシェなどのイベントへの出店に力を入れていることも、パティスリー ル・ヴェールの魅力です。
店舗の営業日や、イベントへの出店の情報は、ル・ヴェールのInstagramから確認できます。
商品開発を続ける洋菓子店
パティスリー ル・ヴェールでは、地元の食材を使用した商品の開発を続けています。
たとえば、「トマトのティラミス」は、岡山県産トマト「桃太郎」を使用。
岡山県内で活躍する企業から食材を仕入れて、地産地消の商品を生み出しているのです。
これまでに30種類以上、10社以上の企業とコラボレーション商品を手掛けています。
商品の開発には、思い描く味を追求するために半年を費やすこともあるそうです。
パティスリー ル・ヴェールの商品紹介
目の前で仕上げるモンブラン
店舗で注文を受けてから、お客さんの目の前で生クリームを絞って完成させます。
これまでに、一般的なモンブランに使用される栗のクリームだけでなく、安納芋、かぼちゃ、バナナのクリームを使ったこともあるそうです。
注文を受けてから完成させるモンブランは、第4日曜日の「出来立てスイーツ販売の日」のみ販売しています。
トマトのティラミス
岡山産のトマト「桃太郎」を、砂糖と一緒に煮込んだコンフィチュールにします。
トマトのコンフィチュールとマスカルポーネチーズを積み重ね、瓶詰めしたものがパティスリー ル・ヴェール特製の「トマトのティラミス」です。
パスタやピザからもわかるように、トマトとチーズの相性は良いので、洋菓子に応用してみたいという気持ちから考案されました。
トマトの酸味はまったくなく、甘いトマトのコンフィチュールとまろやかなマスカルポーネチーズが口のなかで混ざりあい、これまでにないスイーツの味を楽しませてくれます。
千両ナスのチーズタルト
岡山県産の千両ナスを砂糖と炒めてキャラメリーゼしたものと、チーズを一緒に載せたタルト。
リンゴのような食感で、おそらくナスといわれずに食べたら、リンゴだと勘違いする人は多いだろうと感じます。
ほどよい甘さが口の中に広がり、ナスの意外性を楽しめる商品です。
米粉台湾カステラ
卵は井原市美星町に養鶏場を持つ倉敷市の企業坂本鶏卵から、米粉は吉備中央町の米粉メーカーから仕入れているそうです。
また、はちみつは備前国総社宮の境内で育てられているミツバチが集めたものを使用しています。
岡山県内の地産地消にこだわった台湾カステラです。
第3日曜日の「ほわほわの日」に販売しています。
次にティスリー ル・ヴェールの店主 片岡由治(かたおか よしはる)さんへ、開業の経緯や力を入れている点などの話を聞きました。
パティスリー ル・ヴェールの店主 片岡さんにインタビュー
パティスリー ル・ヴェールの店主 片岡由治(かたおか よしはる)さんに、インタビューをしました。
──ル・ヴェールの開業の経緯は?
片岡(敬称略)──
実は、もともとパンが好きだったので調理の専門学校に通い、パンについて学ぼうと考えていました。
しかし、パンよりもの生菓子について学ぶ機会のほうが多くあり、生菓子を作る技術が身につき、得意になったのです。
卒業後は倉敷市内のケーキ屋で5年間修業し、1993年、私が23歳のときに倉敷市広江の自宅に店舗を構えました。
2021年で、開業して28年目になります。
──イベント出店に力を入れている理由は?
片岡──
もともと、職人気質で頑固な性格。
接客することは得意ではありませんでした。
店舗での営業を続けて10年ぐらいしたのち、水島で開催されるスイーツ販売のイベントに声をかけられたのです。
イベントで他の出店者を見て、売り方や見せ方の違いに気がつき、世界が広がりました。
イベントへの参加は学びの機会にもなると感じたため、それ以来、積極的に出店するようにしています。
また、お客様からの反応もよかったため、新型コロナウイルス感染症が拡大する以前は、店舗での販売はやめて、イベント出店に力を入れていました。
──店舗を再開した理由は?
片岡──
新型コロナウイルス感染症による影響で、マルシェなどのイベントがことごとく中止となりました。
イベントで商品を販売できずに困っていたところ、Atelier sora design(アトリエ ソラ デザイン)が主催する小規模なマルシェイベント てくてくTAKE OUT マルシェに出店。
最初は、てくてくTAKE OUTマルシェに出店していただけでしたが、主催者から使用していなかった倉敷市広江の店舗の活用を勧められて、再開したのです。
──再開したときのお客さんの反応は?
片岡──
店舗を一時的にオープンしたのは、2020年10月。
十分に対応できないほどのたくさんのお客様がきて驚きました。
うれしい、楽しいという感情が浮かぶ暇はなく、一日中、商品を作り続けるのに必死だったと記憶しています。
2020年12月に、もう一度店舗を開けたときには、さらに多くのお客様がきてくれました。
──商品開発にこだわる理由は?
片岡──
飽き性なので、常に新しいものを求めてしまいます。
なにより、新しいものを作っているときが楽しいのです。
また、地域の企業とのコラボレーションした商品については、お客様が求めて訪ねてくるのがわかります。
いつ訪れても変化があるお店にすることで、お客様に楽しんでもらいたいと考えています。
──今後、どのようなお店にしていきたいですか?
片岡──
地元企業とのコラボレーション商品や、地産地消にこだわった商品だらけのお店にしたいと思っています。
理想は、いつ訪れても店舗に並んでいる商品が変化していて、何度でも楽しんでもらえる洋菓子店。
「今日はどんなスイーツがあるかな?」と店舗に向かう道中から、期待で胸が膨らむような洋菓子店にしようと思っています。
パティスリー ル・ヴェールの洋菓子を食べてみて
ナスのチーズタルトと聞いたときは、驚きました。
どのような味がするのか想像できず、恐れながら口に運んだことを覚えています。
口に入れて、噛んでみると、アップルパイのリンゴのような食感。
ナスの意外な一面を感じ、洋菓子の新たな楽しみ方を発見できました。
私たちが思いつかないような食材を使ったスイーツに出会えるパティスリー ル・ヴェール。
常に変化し続けるパティスリー ル・ヴェールは、お客さんを何度でも楽しませてくれる洋菓子店でした。