<日本歯内療法学会 ニュースレターvol.6>勤労感謝の日に合わせた「歯の再治療」意識調査

働き盛りのミドル世代は要注意! 歯を失う危険も高い“再発むし歯”とは!?

2021年11月16日
一般社団法人日本歯内療法学会

一般社団法人 日本歯内療法学会(所在地:東京都豊島区、理事長:阿南 壽)は、勤労感謝の日にあわせて20代~50代の勤労中心世代200名を対象とした歯の再治療に関するアンケート調査を実施しました。

今回の調査を通じて、働き盛りのミドル世代(40代、50代)は歯の神経(歯髄)を抜いた治療経験も再発むし歯の経験も多く、口腔ケアの意識も二極化していることが分かりました。
特に、歯の神経(歯髄)を取り除いた経験を持つ方は、歯内療法専門医の定期健診と日々のケアを怠らないことが重要です。日本歯内療法学会では、再発むし歯や根の治療の適切な処置を広く発信することで、患者さんや生活者の口腔健康の維持に貢献して参ります。

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【サマリー】

①むし歯の再治療「再発むし歯」が多いのは40-50代のミドル世代

・40代は46%、50代では70%もの人がむし歯の再治療「再発むし歯」の経験あり
・新たなむし歯の発生が減少傾向にあるのに比べ、再治療が急増するのがミドル世代の特長

②ミドル世代は神経(歯髄)を抜く治療まで悪化させてしまうケースも多い

・むし歯治療で神経を抜いた経験は、40代は46%、50代は66%と急増
・そのうち神経を抜いた歯の記憶が曖昧な人は40代で約7割、50代では約8割
・あまり覚えていない人ほど歯の定期健診頻度も低いという結果に

③神経(歯髄)を抜いた歯の再治療は50代で4割近くに!

・神経を抜いた歯の再治療経験は40代20%、50代では38%も
・神経を抜いた歯は痛みを感じにくく、むし歯に気づくのが遅れリスクも高まる
・再発むし歯を放置すると歯を失うリスクが急増

④出来るだけ歯髄(神経)を残す歯髄温存療法が重要

・歯の神経(歯髄)は痛みでむし歯を知らせる役目もある
・治療箇所が悪化し再根管治療となった場合は、治療難度がより上がる
・歯内療法専門医の定期健診と日々のケアを怠らないこと

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【詳細】

「歯の再治療:再発むし歯、根の治療」意識調査

Q1. これまでむし歯の治療をしたことがありますか?

20→30代で16%もギャップがあり、治療経験は8割に達するなど、お口の健康の曲がり角は30代からを実証する結果となりました。

また40代→50代は他年代に比べ4%差と少なく、新たなむし歯の発生は落ち着きますが、この年代の9割以上の人が治療経験ありと回答しているのが現状です。

2. むし歯治療で歯の神経(歯髄)を抜いた経験はありますか?

神経を抜く治療をしたことがある人は全体では43.5%ですが、30代から伸びつつあり、50代では66%と急伸しています。
50代で神経を抜く治療にまで悪化させてしまうケースが多いことが分かります。

Q3. あると回答した人にお聞きします。 神経(歯髄)を抜いた歯がどの歯か覚えていますか?

Q2であると回答した人のうち、40代で約7割、50代では約8割の人が、記憶が曖昧・覚えていないと回答。
若いうちは治療した歯がまだ少なく記憶に残っているが、40代、50代は治療した歯が多くなるにつれて、どの歯か把握できなくなり、神経(歯髄)を抜いた歯を意識した口腔ケアができていないことが想定されます。

Q4. 以前むし歯治療した歯を再治療した(している) 経験はありますか?

Q1に比べ40代→50代で24%と急増。新たなむし歯の発生が減少傾向にあるのに比べ、50代ではむし歯の再治療が増加していることが分かります。

Q5. 以前神経(歯髄)を抜いた歯を再治療(根の治療)した(している)経験はありますか?

神経を抜いた歯の再治療が50代では約4割もあります。神経を抜いた歯は痛みを感じにくく、むし歯に気づくのも遅れがちです。むし歯は一度治療したら終わりではありません。定期的な検診がとても重要です。

Q6. 現在むし歯治療以外で、歯科医院で検診している頻度を教えてください。

神経を抜いた歯をあまり覚えていない人ほど歯の定期健診頻度も低く、口腔意識と歯のトラブルは相関すると考えられます。
定期的な歯科健診は3~6ヶ月に1回程度を推奨していますが、半年に1回以上の検診は全年代ともに40%以下となるなど、まだまだ日本の歯科検診頻度は低いのが現状です。

【調査概要】
調査主体:一般社団法人 日本歯内療法学会
調査対象:20代~50代・各50人の計200人
調査方法:WEBアンケート
調査時期:2021年10月7日(木)~11日(月)

歯の神経(歯髄)とは

歯は、人体の中で一番硬い組織です。その中には、神経と呼ばれる「歯髄」という軟らかい組織が、根の先のほうの小さな孔で、あごの骨の中の神経や血管とつながっています。そのため、歯の痛みを感じ、その異変を察知し、むし歯などの症状を知らせる役目を担っていることがわかります。しかし、歯髄が、むし歯(う蝕)や外傷で、細菌の感染を受けると、強い痛みや、歯肉の腫れを伴うようになります。

このような時に、その歯を救い、さらに長い間機能させるため、歯髄の一部や全部を除去して歯を残す治療が行われます。この治療法は『歯内療法(根管治療)』の領域です。

ミリ単位の治療を行う歯内療法

むし歯の進行度は、C0~C4に分類されます。C0は初期のむし歯、C1はエナメル質のむし歯、C2は象牙質まで進行したむし歯、C3は歯髄まで進行したむし歯、C4は歯の根っこだけ残ったむし歯です。歯髄に進行したむし歯はC3とC4です。その治療法はどのようなものなのでしょうか。

C3の治療法
《 歯の状態・治療方法》
歯髄という歯の神経に達し、炎症が起きます。穴が深く大きくなるためいつも痛むようになります。歯髄は多くの場合感染しているため、歯髄を取り除き根の治療を行うことがほとんどです。昔は悪い歯はすぐ抜いていましたが、できるだけ歯を残すという考えで、このような治療を行います。

《治療》
歯質の残存の状態により修復の方法は異なりますが、歯髄をとった歯は破損の心配があるので咬む面は保護することが必要になります。根管治療をして歯髄のあった穴を完全に封鎖します。

C4の治療法
《 歯の状態・治療方法》
むし歯がもっとも進行した状態です。歯の根(歯根)の部分だけが残って、歯髄は感染し腐敗しています。このためアゴの骨まで感染すると痛みが出たり腫れたりします。健康な歯質がある程度残り、歯根の長さが十分ある場合は、出来るだけ根を残す努力をします。

《治療》
根管治療をして歯髄のあった穴を完全に封鎖します。歯の形態を回復して冠をかぶせます。根管の先端は見た目の歯の根の先端から1mm内側にあり、繊細で且つ高度な技術が求められます。

同じ歯で再治療を繰り返すと歯を失うリスクが高まる

今回のアンケートでは、働き盛りのミドル世代で歯髄を抜いた経験や再治療の経験を持つ方が高い割合を示しました。治療を施した歯の状態が再び悪化すると治療難度は高まります。さらに、治療で神経がなくなった歯は、痛みを感じにくいためむし歯の発見が遅れる傾向にあります。このように、治療を繰り返すことは、歯を失うリスクを高めることに繋がります。「オーラルフレイル」が近年注目されるように、長い人生で歯の本数を保持することは健康維持においてとても重要と言われています。すなわち歯の本数保持には、歯髄を守ることが重要と言っても過言でないかもしれません。
歯髄を守る対策は日々歯のケアを怠らないこと、定期的な歯科健診で歯の状態をチェックすること、また普段の生活で歯に痛みを感じたら、放置せず早期に歯科医師への相談し、必要に応じて治療を行うことです。これらの実践について、歯内療法の専門医にご相談いただき、適切なケアや治療についてアドバイスをもらうことも良いでしょう。歯髄を抜いた歯、そうでない歯も状態をチェックし、ケアを続けることが重要なのです。

日本歯内療法学会からのメッセージ

口腔への意識の低下と歯のトラブルは相関するものと思います。定期健診の頻度が低いほどお口や歯に対する意識が低く、トラブルも多いということでしょう。虫歯や歯周病は定期的なケアで抑えられる疾患とされています。防げない疾患ではありません。まずは健康意識の向上が必要でしょう。
不幸にして神経を取った歯がある方は、経年的な根の治療の ”その後” のチェックが欠かせません。なぜならば、治療後にも無症状に悪化することがあるからです。
日本歯内療法学会会員の歯科医師たちは、こうした “無症状だが悪化している” 状態を早期に発見し成功率の高い治療をご提供いたします。
また当学会はさらなる研鑽を積み、症例審査、筆記試験、並びに口頭試問を通過した会員に「専門医」の資格を与え、国民が「専門医」を受診し易いように学会のホームページにその名簿を公開しております。
日本歯内療法学会HP(http://www.jea.gr.jp/ippan/index-6.shtml

日本歯内療法学会 概要

■名 称 : 一般社団法人日本歯内療法学会(Japan Endodontic Association)
■理事長 : 阿南 壽(福岡歯科大学 教授)
■所在地 : 〒170-0003 東京都豊島区駒込1-43-9 駒込TSビル

【設立経緯】
1960~70年代は世界的に歯科医学の研究教育ともに画期的に飛躍をとげた時代と思われる。日本の歯科大学においても教育内容の充実に目覚ましいものがあった。しかしながら、開業医の臨床の実態はかなりかけ離れているのが実情であった。
当時日系二世の歯科医W.T.Wakaiが歯内療法専門医としてハワイにおいて開業していた。彼はのちにアメリカ歯科医師会の副会長にノミネートされた指導的人物であった。彼は母国日本の実態を理解していたので、日本も世界の水準に遅れないように歯内療法学会を設立しなければならないと、識者に呼び掛けていた。この時期に大谷歯内療法研究会の存在が彼の目にとまった。この研究会が学会設立の中枢になりうるものと考え強くこれを要請した。かくして日本国内外にも学会設立の気運が高まり、学会設立の呼び掛けに応じた臨床医グループがこれに加わり、多数の大学の歯科保存学の関係者の賛同を得て1980年(昭和55年)1月に日本歯内療法協会が設立され発足した。(学会名称は昭和55年1月26日より平成5年6月12日までは日本歯内療法協会、平成 5年6月12日より平成14年7月20日までは日本臨床歯内療法学会、以後日本歯内療法学会と改称した)
現在では、大学の先生方の参加が増え開業医主体であった会も研究者の発言、指導が取り入れられ、臨学一体となった当初の理念に近づいている。特に学術大会、セミナー、学会誌等は大学の教室単位の協力を得て充実して行われている。