ルールを清めてこそ

 手洗い、消毒を習慣とするいま、この方がご存命ならどうしていただろう。作家、泉鏡花の衛生への気の使いようは並大抵ではなかったという▲生ものは口にしない。大根おろしは煮て食べる。熱かんは煮えたぎったのをちびちび飲んだ、と鏡花の作品の挿絵を描いた画家、小村雪岱(せったい)は追想文に書いている▲若い頃に赤痢を患ったうえ、名を成した大正初めには腸チフスやコレラがはやり、極度の潔癖に傾いたらしい。徹底ぶりにも訳がある▲近ごろは政界で、カネにまつわる「きれい好き」宣言が相次いでいるが、その訳はよくのみ込めない。電話代や交通費に使える「文通費」の10月分100万円が、10月末日の衆院選で当選した新人議員らに満額支給された問題で、各党が「返還、寄付を」「日割り支給に」と表明している▲「仕事もせずに満額はおかしい」というのは道理だが、1人の議員の告発をきっかけにして、各党がにわかに、競うように「見直し」を言うのは奇妙に映る。流れに乗り遅れるな。そんな唱和に聞こえる▲領収書の提出は不要で、残金を返す義務もないという、文通費の不透明なルールを清めてこその「きれい好き」だろう。カネに潔癖であるよう鏡花先生の爪のあかでも煎じて…。と書いてみたが、思えばこの慣用句も清潔とは言い難い。(徹)

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