フェイスブックの社名変更だけじゃない  大企業の生き残りかけた試み【世界から】

 米フェイスブック(Facebook・FB)が社名を「メタ(Meta)」に変更することが話題になった。変更劇の裏には、企業体質への批判の高まりに対し、イメージの回復に努めたい意図が隠されていると言われているが、米国では別の見方も。「メタバース(仮想現実空間)企業」としての新たな展望がどのようなメリットをもたらすか、FB(現メタ)をはじめとする世界企業の取り組みに注目が集まる。(ニューヨーク在住ジャーナリスト、共同通信特約=安部かすみ)

仮想空間にいる自身の分身(左)に話し掛けるメタ(旧FB)のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)(ロイター=共同)

 ▽メタバース企業への展望

 10月、FBが社名をメタに変更することを発表したのは、同社が安全より利益を優先し、社会の分断を助長しているとする元社員による内部告発を受け、議員や研究者、ユーザーから非難を浴びてすぐのタイミングだった。

 最高経営責任者(CEO)のマーク・ザッカーバーグ氏は10月28日に行われたカンファレンスで、FBがソーシャルメディア企業として見られていることについて、企業のDNAはあくまでも「人々をつなぐ技術を構築すること」だと改めて強調した。その上で「メタバースこそが社会的につながっていく次の進化の形だ」とし、今後の方針として同社はメタバースへアクセスできる製品やサービスを構築し提供することを明らかにした。

 同社が運営するFacebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、Messenger(メッセンジャー)、WhatsApp(ワッツアップ)などソーシャルメディアの人気アプリの名前は変更しないという。

「Meta(メタ)」への社名変更を発表するFBのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)=10月28日、米カリフォルニア州(AP=共同)

 一般的に、再編の意図で企業が社名やブランド名を変更することはよくある。例えば「アップル」は2007年、iPhoneやiPodなどコンピューター以外の製品の成長の反映として、社名を「アップルコンピュータ」から変更した。

 また悪化したブランドイメージの脱却のため、社名変更したケースもしばしばある。「フィリップ・モリス」は2003年、タバコの健康被害への高まる非難に伴い、「アルトリアグループ」に社名を変更した。ユーザーの目を問題点からそらすことができるとして、今回のメタ社への変更もブランドイメージの挽回のための社名変更ではないかと言われている。

 ▽若年層への訴求効果も

 メタへの社名変更、および「メタバース企業」としての展望については、米国ではブランドのイメージアップの意図とは違う見方もされている。それは、若年層への訴求効果を狙ったのではないかということだ。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、社名を変えメタバース企業としての印象を強めることで、「今後、若いユーザーを引き付ける可能性がある」と示唆した。

 ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)は、米国のZ世代と呼ばれる若年層が今やメインで使っているソーシャルメディアが「TikTok(ティックトック)」や「Snapchat(スナップチャット)」などである背景を踏まえ、「フェイスブックは『年配の人たちの交流の場』になっている」と辛辣に断言し、「30歳より若い世代を意識した方向変換を図っているのだろう」とする専門家の声を紹介した。

 ソーシャルメディア全盛期になって歴史は浅いが、ネットの世界だからこそユーザー層の世代交代は早い。ツイッターも今年、新機能として音声チャットルームの「Spaces(スペース)」をリリースするなど、各社からさまざまな刷新や工夫が聞こえてくる。

 ▽大ジュエリーブランドの試み

 企業が生き残るための試みは、ソーシャルメディアやネットの世界だけではない。

 ニューヨークの五番街にあるティファニー本店もそうだ。ティファニーと言えば1837年創業の、世界中の女性が憧れる伝統的な大ジェエリーブランドの一つ。宝飾品のみならず、近年はカフェも併設するなど、若年層のファンの心をつかむための話題には事欠かない。

 そんな世界の誰もが憧れる一大ブランドだが、五番街の本店は現在リニューアル中で工事現場となっている。その代わり、隣の建物で仮店舗が営業中だ。仮店舗へとつながる本来なら殺風景な歩道にも、アートや映像などが飾られ、まるでギャラリーさながらの仕掛けだ。

本店と仮店舗をつなぐ歩道。本来であれば殺風景な工事現場だが、ここははギャラリーのような雰囲気だ。ⓒKasumi Abe

 仮店舗のインテリアも、天井まで続くデジタルサイネージを駆使した現代的な雰囲気になっている。1階の空間はインスタグラマーを意識してか、新たな試みとして数カ月ごとに変わる巨大インスタレーションを展示中だ。若い女性客がその中でセルフィー(自撮り)などの写真を楽しそうに撮っている。その中では、10月はコンテンポラリーアーティストのダニエル・アーシャムとコラボしたブレスレットが陳列され話題になった。高級ブランドなだけに値段は4万ドル(約456万円)とかなり強気なものの、かわいいタイムカプセル入りで、たった49品限定と、ティファニーファン垂涎(すいぜん)ものの仕掛けがなされている。

ティファニー本店の仮店舗に設置されたインスタレーション。数ヵ月に1度変わり、訪れた客はこの中でセルフィーを楽しそうに撮っている。ⓒKasumi Abe

 ちなみに新店舗は仮店舗の倍以上の10階まで売り場スペースを広げ、2022年秋に生まれ変わる予定だ。

 FB(現メタ)からティファニーまで、どの企業も新たな世代の顧客を獲得するのに必死だ。世界のそうそうたる大企業が今後どのように生まれ変わるか、注目が集まる。

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