全学をあげたICT推進実績に評価─ 畿央大学の教養科目「情報処理演習」が文部科学省『MDASH』プログラムに認定された背景【畿央大学】

令和3年8月、文部科学省の認定制度「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」、通称「MDASH」に畿央大学の教養科目「情報処理演習」が選ばれました。
この制度は、内閣府・文部科学省・経済産業省の3府省が連携し、各大学・高等専門学校における数理・データサイエンス・AI教育の取組を奨励するために設けられたものです。大学におけるICT推進が急速に進む中、畿央大学では7年前からすべての学生にノートPCを貸与するなど、教育現場への積極的なICT導入に取り組んできました。今回の『MDASH』認定までに至る取り組みとその背景を、教育推進室長でもある冬木 正彦 学長、プログラムの運営責任者である教育学習基盤センター長 兼 次世代教育センター長、福森 貢 教授のお話を交えながら紹介します。

授業支援型 e ラーニングシステム『OpenCEAS』、全学生への貸与PC導入が『MDASH』認定への布石に

「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル) 通称MDASH(Approved for Mathematics,Data science and AI Smart Higher Educationの略)」は、高度情報化社会に向けて必要とされる「数理・データサイエンス・AI」の知識および活用能力を学ぶ取り組みを文部科学省が認定する制度です。畿央大学は初年度に認定された関西の私立大学5校のうち1校で、1年次における全学共通の必修教養科目の「情報処理演習Ⅰ・Ⅱ」が認定対象となりました。

「情報処理演習Ⅰ」では畿央大学の情報環境と学習支援システムの使い方、情報セキュリティについてといった導入部から、インターネットとクラウド、SNS等についての活用とリスク、AIの最新動向、データのハンドリングなどの基礎的知識・スキルの習得を行います。また、「情報処理演習Ⅱ」では、データ活用のノウハウ、統計の基礎、プログラミング基礎等(カリキュラム内容は学部で異なる)を学び、より実践的な理解を深めます。

このプログラムを支える大きな基盤となったのは、2014年から始めた「全学生への貸与式PC導入」です。現在では多くの大学がBYOD (Bring Your Own Device=個人が所有するノートパソコン等のデバイスを学校や職場に持ち込み活用すること)などの方法で学生にノートPC必携を推奨していますが、今から7年前にCOPE方式(企業が所有するデバイスの個人利用=Corporate Owned, Personally Enabled)によって大学側が全新入生分のノートPCを準備し、学習のために貸与するというのは画期的な試みでした。

冬木 正彦 学長:「今回の『MDASH』認定は、これまでの実績を高く評価して頂いたという意味で非常に嬉しく思っています。本学では早くから教育機関へのICT導入がもたらすメリットを重要視し、2010年度に情報環境基本計画を策定して順次様々な施策を実行してきました。2014年度までを第1期として主に情報基盤の構築に取り組む中で、2011年度には日本の教育環境に適合した授業支援型 e ラーニングシステム『CEAS』を導入。環境整備を背景としたアクティブ・ラーニングを促進するため、2013年度に学生のPC必携化を検討の上COPE方式での試行を決定し、2014年度から新入生全員にノートPC貸与を開始しました。オープンソースとして自由に使用できる『CEAS』はその後も教員・学生の操作性を重視して進化を重ね、2018年4月からは再構築された最新の『OpenCEAS』を全学用LMS として本格的に運用しています。現在では従来のPC教室は廃止され、本学にはありません。

本学の学生は入学してすぐ、履修登録等を行う総合支援システム『KiTss』と、この『OpenCEAS』を使うことになりますが、全員が貸与された同一のPC環境でシステムを利用することにより操作性や情報享受の不均衡が避けられ、大学側では一元管理が可能になるという大きなメリットがあります。また、多大な教育効果も期待できます。大学側の基本方針は、「操作方法の説明は行わない」こと。個人でのPC活用には最初のセットアップが必要ですが、初めてPCにふれる学生は数々の疑問やエラーに直面します。そこで解決方法を自ら調べ、友人同士で協力し合うことで、確実なICT対応力が身についていきます。同じPCを自宅で履修管理や予習・復習に使い、学内で授業や学生同士のグループワークに活用するスタイルが、COPE方式でスムーズに実現できたのです。」

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ICT教育システムが整備されていたから、オンライン授業へスムーズに対応できた

2020年春の新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言発令時、ほとんどの大学では新年度開講に混乱を生じましたが、畿央大学は整備されたLMS(Learning Management System) と貸与型PCのおかげで、遅延なく新入生のオンライン授業をスタートできました。

教育学習基盤センター長 福森 貢 教授:「ノートPCを新入生500人余に配布したのが入学当日。幸い宣言発令直前に新入生へのオリエンテーションを実施できたため、その場でPCの初期設定から学生アカウント取得と履修登録を行い、『OpenCEAS』で授業に関する情報を収集。そうすることで、当初の開講予定日に無事オンライン授業を開始できました。これまでに『OpenCEAS』を全学的に導入し、運用ノウハウを蓄積していたからこそ、予期せぬオンライン授業への切り替えに即適応できたのです。まさに社会変化への対応をICTで実証できたと思います。」

COPE方式によるPC全員貸与制度がなければ、前例のないオンライン授業へのスピーディな対応は不可能だったでしょう。これまでの積み重ねが、教育現場における「新しい生活様式」へギアチェンジする土壌となったことは間違いありません。

「次世代教育センター」を設立し、数理・データサイエンス・AIを柱に高次元の教養プログラムを発信

また、新たな試みとして令和3年4月より、畿央大学独自の「次世代型教養プログラム」の開発および運用を目的とした「次世代教育センター」を設置。 特定の教員がコーディネーターとなり、文部科学省『MDASH』認定の『情報処理演習』を基盤とした、次世代型情報教養プログラムを開講しています。

次世代教育センター長 福森 貢 教授:「DX(デジタルトランスフォーメーション)をキーワードとした大きな社会の変革期を生きるために必要なリテラシーや教養を身につけるには、単なる事象の理解やスキルの習得だけでなく、その背景にある本質や普遍的価値などにまで視野を広げ、より高い次元での教養を獲得することが必要です。 『次世代型教養プログラム』は、そういった目的で学生がニーズやスキルに合わせて自由に選択できる、畿央大学独自の教育プログラムです。

今回のコロナ禍により導入が進んだ遠隔・オンライン教育により、時間と空間の制約を外すことや、一定の範囲内で学生に新たな体系的学びを提供できる可能性が生まれたことも、本プログラム開設の一助となりました。本センターは新しい時代の教養課程を目指し、学生がより質の高い学びを得られる環境の向上に取り組んでいきます。」

早期から大学教育のICT化に計画的に取り組み、ユニークな施策で社会変化への対応基盤を築いた畿央大学。その努力は今回の『MDASH認定』として結実し、『次世代教育センター』という新たなチャレンジプロジェクトとして、よりいっそう大きく発展を続けています。

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