人を思いやる心や我慢する心を伝える…将来は母校・興南高で指導をしてみたい

(写真左)山河企画の西浦社長(左)と。(同右)現在は現場監督として奮闘している(東スポWeb)

【泥だらけのサウスポー Be Mike(最終回)】解説者としての仕事も途絶え、プライベートでも孤独になり途方に暮れた時期がありました。

2006年のころですね。いわゆる定職というものを失った状態でした。そんな時に声をかけていただいたのが、現在の所属先・山河企画の西浦丈夫社長(64)でした。

西浦さんは阪神タイガースのOBでもあり、引退後にミスタータイガース・掛布雅之さんのマネジャーを務められていた人物です。

事業としては大規模な建築物の土台を造る「地業」を担う会社です。僕はこの会社で現場監督をさせていただいています。

西浦社長とは僕が入団2年目の高知・安芸キャンプの時に出会っています。休日前の夜に掛布さんとともに食事に誘っていただいたのが、最初です。その日のうちに意気投合し、そこから長年にわたるお付き合いに発展しました。

熱心に誘っていただいたというよりも、メシを食っていくため、自分で決意して現職に就くことになりました。それが10年です。

その時言われた「本気でやるならとことんサポートする。プライドを捨てることができるか?
それができんかったら無理だぞ」という言葉は今でも忘れません。

スーツを着た、いわゆる「ホワイトカラー」とか、現場作業の「ブルーカラー」などという偏見はもちろんありません。ただ、プロ野球のユニホームから作業着に着替えるには勇気がいるのも事実です。

ファンの方々に顔を覚えていただいているからには、どう見られているだろうと意識しないと言えばうそになります。西浦社長もご自身で経験されているので「プライドを捨てる覚悟」に言及されたわけです。

もちろん、今の僕に迷いはありません。現場でヘルメットに貼ってある「仲田」の文字を見て「ん? なんか見たことあるなぁ。あっ、あの阪神の仲田さん? 知ってるよ」と言ってもらい、場が和むのがうれしいですね。

職人さんが僕の顔に免じて無理を聞いてくださることもあります。そんな雰囲気で現場に一体感が生まれ、工程に遅れも生じず、けが人も出ずに工事完了という結果につながると、やりがいを感じます。

西浦社長からは「この仕事をやると約束してからは、朝も遅れたこともないし、時間も約束も絶対に守ってくれている。当たり前のことやけど難しいこと。大事な戦力です」と評価していただいてます。当初、マイクは1週間で辞めると思っていたそうなんですけどね。

みんな家族を支えるため、生きる術として必死になって、今できることと向き合っていると思います。逃げたらあかんし、本当に真剣にやっていたら、誰かが見てくれていると思って頑張っているつもりです。

プロ野球選手でも会社員でも同じ。見てる人は見てる。していいこと、悪いことの判別はつきますし、そういうことを大事にしたいです。

将来は母校の興南高の指導もしてみたいですね。学生野球資格回復の研修も今後、受けるつもりです。

野球がすべてではなく、人を思いやる心とか、我慢する心も伝えたいなと思います。

真っすぐだけではなく、人生を歩む道は曲がりくねっていたり、アップダウンもトンネルもある。分かれ道では決断も迫られます。

先の見えない道ではあります。それでも自分らしく、あるがままに。「Be Mike」。長い間、読んでいただいてありがとうございました。

☆なかだ・こうじ 1964年6月16日、米国・ネバダ州生まれ。幼少時に沖縄に移住。米軍基地内の学校から那覇市内の小学校に転校後、小学2年で野球に出会う。興南高校で投手として3度、甲子園に出場。83年ドラフト3位で阪神入団。92年は14勝でエースとして活躍。95年オフにFA権を行使しロッテに移籍。97年限りで現役を引退した。引退後は関西を中心に評論家、タレントとして活動。2010年から山河企画に勤務の傍ら、社会人野球京都ジャスティス投手コーチを務める。NPB通算57勝99敗4セーブ、防御率4.06。

© 株式会社東京スポーツ新聞社