薬物依存を経て考えた「男らしさ」の圧倒的な苦しさ 「私は私」と言えるまで 国際男性デー

 19日は国際男性デー。男性の健康や生き方を考え、ジェンダー平等を促すことを目的に世界各地で関連イベントが開かれる。ジェンダーとは社会の中で求められる「男らしさ」「女らしさ」。ジェンダーの縛りは人の心身を傷つける。苦しみから生き抜いた「サバイバー」(生存者)に体験を聞いたほか、男性相談などを通して男性の生きづらさを考える。

 県外の田舎で末っ子長男として生まれたジョーロさん(34)=ニックネーム=は、自身も依存症の回復プログラムを受けながら、依存症の人たちの生活支援をする合同会社グラン・アモールでスタッフとして働く。「男か女か」「LGBTのどれに当てはまるのか」という世間の目に疑問を持ちながら生きてきた。

 グラン・アモールは女性とLGBTQを対象とした全国初の事業所だ。寮の別室に暮らしながら、買い物や病院に付き添ったり、相談に乗ったり。昼夜問わない仕事だが「仲間を助けることが自分の回復にもなる」と大きな目を細める。

 薬物やアルコールなど依存症になる人たちには厳しい環境の中で尊厳を奪われて傷ついてきた人たちも多い。ジョーロさんも、長く自分を押し殺してきた。

 末っ子長男で親族に猫かわいがりされて育った。しかし学校に行くと男子は男子で固まり、女子といると奇異の目で見られた。中学生になると好きな女子のタイプや胸の大きさを話すのが「普通」に。興味はないが、無理やり自分に暗示をかけて話を合わそうとした。

 体育祭の前には、男子は全員1人ずつ先輩に呼び出された。後ろ手を組み胸を返らせて「○年○組○○、オース!」と応援団さながらに大声で発声させられた。声が小さいとやりなおし。暴行事件になったこともあるほどで「本当に嫌だった」。「男子の伝統」は連綿と続けられた。

 狭い地域では何か目立つと「○○の弟だろ」と言われ「家族に迷惑が掛かる」。とにかく「いじめられないように、嫌われないように」と自分を押し殺し、ごまかしながら、世間が求める「男はこう/女はこう」という枠から外れないよう、ひっそり生きた。

 中学3年の頃に出会い系で始めたセックスの場ではジェンダーを気にせず堂々としていられた。「こんなに自分を求め、大切にしてくれる世界があるなんて」とのめりこんだ。相手から違法薬物を「一緒に使おうよ」と言われると「お金もかかるのに誘ってくれるほど自分を必要としてくれている」と感じた。18歳で始めた薬物をやめられたのは、覚醒剤の所持・使用で実刑判決を受けた5年前だ。

 いま依存症の回復プログラムを受けながら過去を振り返り、なぜ依存症にならねばならなかったのかを探っている。「男らしさ」を求められたことだけが原因かは分からないが、圧倒的な苦しさの中にあったことは間違いない。「世間は『男か女か』と確認したがり、性的少数者の中でもLGBTQのどれかで区別がある。『私は私』でいいのに」

 (黒田華)

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