東京パラ、良かったけどモヤモヤ感…そのワケは 障害者763人に聞いた「どうだった?」

 

東京パラリンピックの開会式で入場行進する日本選手団=8月、国立競技場

 東京五輪に続き、8~9月に開かれた東京パラリンピック。「共生社会の実現」がスローガンに掲げられ、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下で原則無観客での開催となったが、肝心の障害のある人たちはどう感じたのか。全国の763人に聞くと、肯定的な評価の一方、モヤモヤとした思いを抱く人たちもいた。(共同通信=市川亨、出崎祐太郎)

 ▽「第5波」さなかの開催

 8月24日に始まった大会には162カ国・地域と難民選手団から約4400人が参加。東京のほか千葉、埼玉、静岡を会場に肢体不自由の選手が対象の車いすバスケットボールやラグビー、ボッチャ、視覚障害のゴールボールなど22競技539種目が行われた。日本代表は13個の金を含む史上2位となる51個のメダルを獲得する活躍だった。

 一方、東京都ではコロナの感染者数が8月13日に過去最多の5908人に達し、流行「第5波」さなかの開催には疑問の声が多数上がった。障害のある選手の中には基礎疾患を持つ人もいて、感染した場合、重症化の恐れがあるという五輪とは異なる事情もあった。

 ▽肯定的評価が70%

 そんな東京パラリンピックを障害者はどんな思いで見つめていたのか。一過性のスポーツイベントで終わらせるのではなく、大会開催を今後にどう生かすか考えるためにも、共同通信は9月中旬から約1カ月間、さまざまな障害者団体で構成する日本障害フォーラム(東京)を通じて全国アンケートを実施。763人から有効回答を得た。

【アンケートの方法:障害者団体の全国組織など13団体でつくる「日本障害フォーラム」を通じ、9月中旬から全国の障害者に質問票を配布。ウェブやメール、ファクスなどで回収した。家族や支援者の代筆・代理回答を含め、山口県と宮崎県を除く45都道府県の763人から有効回答を得た。回答者の障害種別は聴覚、知的、視覚の順に多く、ほかにも肢体不自由、精神、発達障害などさまざま。年代は10代以下から80代以上までおり、50代が最多だった】

 意外だったのは、開催に賛否両論があった中、肯定的な評価が多かったことだ。大会開催が自身の障害や障害一般の理解につながったと思うか尋ねると、「思う」が「ある程度」を合わせ70%に上った。理由を選択肢(複数回答可)から挙げてもらうと「選手の活躍によって障害者に社会的な注目が集まったから」が31%で最多。「メディアを通じて障害者を目にする機会が増えたから」(28%)が続いた。

 約2年前の19年6~7月に564人に聞いた調査では「障害の理解につながると思う」との回答は62%だった。多くの人が選手の活躍を目にしたことで、事前の期待を上回る効果がもたらされたといえそうだ。

 ▽「手助けしてくれる人が増えた」

 障害への理解に無観客開催が与えた影響を尋ねると「無観客でも有観客でも同じだったと思う」が55%と過半数。「かえって理解が進んだと思う」人も12%いた。

 大会開催による自身の心の変化も聞いた。「選手の活躍を見て前向きな気持ちになった」が最多で40%。「特に変わらない」が32%、「新型コロナの感染拡大リスクを考えると複雑な気持ちになった」という人も22%いた。スポーツへの意欲や関心は「高まった」との回答が「ある程度」を含め53%を占めた。

 大阪府寝屋川市の牛田米子さん(70)は、パラリンピックの効果を実感している一人だ。あん摩マッサージ指圧師で全盲の牛田さんは、スマートフォンやパソコンの勉強のため週1回、1人で電車に乗って大阪市内に通う。「大会開催後は街中で手助けしてくれる人が増えた。選手が頑張る姿を多くの人が見たからだと思う」

ガイドの介助者と点字ブロックを歩く牛田米子さん(左)=10月、大阪府寝屋川市

 網膜色素変性症で20代から目が見えづらくなり、49歳で全盲になった牛田さん。最初はショックが大きかったが「手を差し伸べてもらうのを待つのでなく、自分から楽しもう」と、積極的に周囲と関わりを持つようになった。

 日頃から介助を受けながら、ジョギングやグラウンドゴルフを楽しむ。全国障害者スポーツ大会にも陸上競技で約20年間参加。パラリンピックでの選手の活躍に「自分もスポーツをするので、いろいろな障壁を乗り越えてきた過程が想像でき、すごくうれしかった」と話す。

 ▽「最近差別受けた」障害者が34%も

 一方で、大会開催が「障害の理解につながらなかったと思う」とアンケートに答えた人も30%いる。理由は「一時的な盛り上がりで終わり、障害への社会的関心は続かないと思うから」「パラリンピック出場対象の障害は肢体不自由、視覚障害、知的障害だけだから」との選択肢を選んだ人が多い。

 

自由記述では「選手の活躍はすばらしいが、一般の障害者が『努力不足』と見られてしまいそう」「『共生社会の実現』というのなら、五輪と一緒に開催してほしかった」という意見もあった。

 一般の人々の障害者への接し方はどうだろうか。全員に「最近、障害を理由に周囲の言動で差別を受けたり感じたりしたことがあるか」と聞くと、34%の人が「ある」と回答。具体例を聞くと、「施設やサービスの利用を断られた」「病院で筆談に応じてもらえなかった」といった体験のほか、「職場で仕事を与えてもらえない」など疎外感を抱いているケースも見られた。

 19年調査の36%とほぼ横ばいとなり、大会に合わせて唱えられた「心のバリアフリー」があまり進展していない実態がうかがえる。

 

 ▽「字幕がぴったり」と感激したが…

 生まれつき聴覚障害がある東京都の自営業、倉本美咲さん(42)=仮名=は大会期間中、一部の生放送番組で映像との時間差がない字幕表示が取り入れられ、感激した。普段は映像からかなり遅れて字幕が出てきて、分かりにくいからだ。

 「ぴったり字幕」と呼ばれる仕組みで、映像の発信を30秒遅らせ、その間に字幕を入力する。ただ、通常より多くの人手が必要になるため、テレビ局にとってはコストがかかる。大会後は元に戻ってしまい、倉本さんは「夢を見させてもらっただけに残念」と漏らす。

 趣味の演劇鑑賞では、字幕や台本が表示されるタブレット端末を聴覚障害者に貸し出している劇団もある。だが、まだ一部だ。今夏に見ようとした舞台では理解してもらえず、何度も交渉してやっと台本を借りられた。

 障害者が健常者と同様のサービスを受けられるよう柔軟な対応をすることは「合理的配慮」と呼ばれ、公的機関にとっては義務。民間事業者も3年以内に義務化されるが、「まだ障害者への『特別扱い』と思われている面もある」と倉本さん。東京大会で変化がもたらされた、とは感じられずにいる。

 ▽「共生」実現に必要なものは

 では、大会のスローガンだった「共生社会」を実現するにはどうすべきだろうか。

 

アンケートではこの点も質問。答えは「障害者の就労や社会参加への支援の強化」が最も多かった。次いで「バリアフリー化の推進」「障害のある人とない人が交流する機会づくり」を挙げる人が多かった。

 大阪の牛田さんが期待するのは教育だ。「学校に障害者を招いて授業をしたりして、みんなが子どもの頃から身近に接する機会があれば、特別な存在ではなくなると思う」と考えている。

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